Hitachi
    • 都市開発

    経済発展や人口集中を背景に、アジアの大都市で建築物の超高層化が進んでいる。それに伴い「縦移動のインフラ」である昇降機もまた、さらなる進化が求められている。中国・広州市に拠点を置き、実績を重ねてきた日立は、その広州で建設されている超高層複合ビル「広州周大福金融中心」に超高速エレベーターを納入することとなった。そこで日立は、技術を結集し、安全で快適な乗り心地を追求した世界最高速エレベーターの開発に挑戦した。

    事例の概要

    • 背景
      近年、経済成長の著しいアジアでは、都市の過密化に伴いビルの高層化が進んでいる。日立は1980年以降、中国での昇降機事業を本格的に開始し、広州市に製造・販売・サービス拠点を置いて実績を重ね、中国での新設昇降機台数でトップシェアを築いてきた。
    • 取り組み
      2014年、広州に建築中の超高層複合ビル「広州周大福金融中心」で、当時の世界最高速となる分速1,200mの超高速エレベーターに挑戦。世界最大級の巻上機などを新たに開発し、安全で快適な乗り心地を追求した超高速エレベーターを据え付けた。
    • 成果
      2016年5月に行った速度試験において分速1,200m(当時の世界最高速)を達成。さらに2017年6月、昇降機のさらなる技術開発を目的として、同エレベーターで行われた速度試験において分速1,260m(時速75.6km)を計測した。分速1,260mは、2017年6月現在稼働しているエレベーターにおいて世界最高速*1に相当するスピード。
    *1
    2017年6月現在、日立調べ

    背景

    中国の昇降機市場で存在感を発揮する日立

    上海環球金融中心に、超高速エレベーター6台を納入した

    近年、経済成長の著しいアジアの大都市では、巨大なビルが次々と建設されている。ことに中国では300mを超える超高層ビルの建設ラッシュが続いている。超高層ビルの建設は、過密化する都市にあって土地を有効活用する方法である一方、「縦移動のインフラ」となるエレベーターには、多くの利用者がストレスなく安心して利用できる高度な技術力が不可欠となってくる。

    日立は、1960年代後半より超高層ビルの先駆けとなった「霞が関ビルディング」に、当時国内最高速である分速300mのエレベーターを納入するなど、超高速・大容量エレベーターの開発に取り組んできた。その後もビルの超高層化に対応する研究開発を続け、2010年にはエレベーター研究設備としては世界一*2の高さを誇るエレベーター研究塔「G1TOWER」を完成させ、超高速・大容量エレベーターの需要に対応する実証実験や、安全性・快適性に優れ、環境に配慮した製品の技術開発を推し進めている。

    こうした実績とノウハウを積み上げてきた日立は、1980年以降、中国における昇降機事業を本格的に開始した。1995年には、中国・広州市に昇降機の製造・販売・サービス事業を行う広州日立電梯有限公司(現日立電梯(中国)有限公司)を設立し、広州を中心に事業を展開した結果、中国での新設昇降機台数トップシェアを獲得するまでになる。

    その後、日立電梯(中国)有限公司を地域統括会社として昇降機事業を強化する中、広州、天津、上海に加え、2013年には成都に最新の製造工場を設け、顧客ニーズに対応した製品・サービスの提供に努めている。2008年に「上海環球金融中心」に納入した分速480mの超高速・大容量ダブルデッキ(2階建て乗りかご)エレベーターなどは、これまでの中国での代表的な実績といえるものである。

    *2
    2010年当時

    取り組み

    世界最高速への挑戦

    広州周大福金融中心(完成イメージ)

    水戸事業所で製作された巻上機。世界最高速を生み出すための大出力・小型化の両立を実現した

    そして2014年、日立は中国展開への足がかりとなった広州でビッグプロジェクトに取り組んだ。広州に建築中の超高層複合ビル「広州周大福金融中心」(地上530m)に、当時の世界最高速となる分速1,200mのエレベーターを納入することになったのである。地上1階から95階までの昇降行程440mを約43秒で到達する超高速エレベーターは、駆動と制御技術のほか、安全性、乗り心地のどれひとつが欠けても成功しないプロジェクトである。

    最も大きな課題となったのは、分速1,200mもの速度で移動しながらも安全性・快適性を両立させること。当然のことだが、エレベーターの速度が速くなるほど安全性や快適性を確保するのが難しくなるため、まず日立は、世界最大級の330kW永久磁石モータ巻上機を新たに開発するとともに、エレベーターのかごを引き揚げるのに必要なロープの強度を高めて巻上機の負荷を大幅に軽減するなど、超高速エレベーターの製品化を実現させた。さらに、エレベーターを確実かつ安全に止めるため、300℃の熱にも耐える制動材を適用した電磁ブレーキを開発した。このような独自の駆動・制御技術を採用する一方、レールの曲がりによる乗りかごの振動を大幅に低減するアクティブガイド装置を開発。また、かごの中の気圧変化による耳詰り感を緩和させるために独自の気圧制御方式を導入するなど、安全・快適な乗り心地も追求している。

    「広州周大福金融中心」には、この分速1,200mの超高速のエレベーターが2台のほか、28台のダブルデッキエレベーター、分速600mの超高速エレベーターなど合計95台のエレベーターを据え付けた。

    成果

    さらなる技術開発により、世界最高速記録を更新

    広州周大福金融中心での巻上機の吊り上げ作業風景

    日立は「広州周大福金融中心」での超高速エレベーターの要となる巻上機の吊り上げ作業を完了し、エレベーターの据え付け工事を行っている。2016年5月に行った速度試験において分速1,200mでの走行に成功、当時の世界最高速を達成した。

    そして、2017年6月、昇降機のさらなる技術開発を目的として、「広州周大福金融中心」の同エレベーターで行われた速度試験において、制御装置や安全装置に改良を加えた後、分速1,260mの世界最高速を計測することに成功した。

    「広州周大福金融中心」においては、エレベーターの実運用時の運転速度は分速1,200mとなり、開業に向けて最終調整段階となっている。

    展望

    都市の利便性向上をめざす、日立のエレベーター開発

    世界の昇降機需要の約6割を占めるといわれる中国では、今後も多数の超高層ビルの建設が見込まれている。そんな中、鉄道や道路といった都市の「横移動のインフラ」に加え、昇降機という「縦移動のインフラ」を充実させることは、その相乗効果によって都市の利便性は格段に増すことになる。日立は、都市での生活をより快適にするため、今後も超高速・大容量エレベーター開発の挑戦を続けていく。

     

    世界最高速エレベーターに挑む

    公開日: 2017年6月
    ソリューション担当: 日立製作所 ビルシステムビジネスユニット