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    ITは、複雑化する社会システムを最適化するため、もはや人々の暮らしに欠かせないものとなっている。日立は、生活の利便性や安全性を高めるために、人の流れに着目。「人流解析」のシミュレーション技術により、人の流れをスムーズにし、魅力ある空間づくりや都市の最適化に貢献、新たな価値をもたらすことを可能にした。

    事例の概要

    • 背景
      オフィスビルや大型商業施設などのレイアウトを設計する際に、人流シミュレーション技術を使って、人の動きや行動、さらには関係性をも捉え、空間にさまざまな価値をもたらそうとする試みを開始。
    • 取り組み
      毎年開催している自社イベントの会場レイアウトに「人流解析」を応用。解析から得られた結果を翌年に生かすことで、会場内の混雑を緩和させるとともに、各ブースへの来場者数も大幅に増加させるなど、大きな効果を確認した。
    • 今後
      混雑緩和だけにとどまらず、誰もが住みやすい街づくりに生かすことを見据えている。さらには観光や防災など、都市づくりに関わるさまざまな分野を最適化することで、人や環境に優しい都市づくりに貢献する。

    背景

    建物内の人の流れに着目した日立の取り組み

    ITは現在、さまざまな社会システムの最適化や効率化に貢献している。たとえば、交通システムの高度化やCO2削減にもITの力が大きな役割を果たしているが、それは社会システムだけに及ぶものではない。社会インフラとITを組み合わせることにより、社会イノベーションの実現に取り組んでいる日立は、人の流れに焦点を当てた「人流解析」という試みを推進している。これは、人の動きや行動、さらには関係性をも捉え、空間にさまざまな価値をもたらそうとするものだ。

    そもそもの始まりは、2007年に日立が開発した三次元人流シミュレーション技術。建物内を移動する人の動きを計測し、建物全体での人の流れの再現を可能にするもので、横浜国立大学大学院の森下信研究室、株式会社ジェイアール東日本企画、株式会社モザイクとの共同開発の成果であった。開発のねらいは、オフィスビルや大型商業施設を設計する際に、エレベーターや通路などのレイアウトを最適にすることであった。

    その後、日立は人流シミュレーション技術の鉄道駅空間への適用をめざし、2009年に近畿日本鉄道株式会社の協力の下、大阪上本町駅において実証実験を行った。この実証実験では、デジタルサイネージ(電子看板)の設置位置の変更が、駅構内にある店舗へ人の誘導を促す効果があること、さらにそれが周辺通路の混雑解消につながることなどがわかった。

    取り組み

    人流から隠れた法則を発見することで生まれる価値

    こうした実績を積み重ね、日立は人の流れを捉え、予測する「人流解析」にさまざまな価値を生み出す力があることを再認識した。そして、毎年開催している自社イベントの会場レイアウトに「人流解析」を用いたところ、想像を超える効果が表れたのである。

    具体的には、2013年の展示会場でレーザーセンサーによって来場者の流れや滞留時間を計測し、その結果を踏まえ、翌2014年のイベントでは強い集客力を持つ「テーマステージ」を会場中央に配置した。人が滞留すると思われるこの大胆なレイアウト変更を危ぶむ声もあったが、「テーマステージ」は来場者を集めては送り出すポンプのような役割を担い、会場内の混雑を緩和させるとともに、各ブースへ訪れる人の数も大幅に増加させた。2013年は局所的な混雑が会場内のスムーズな周遊を妨げ、各展示ブースの集客率におよそ10倍ものばらつきがあったが、2014年にはその差が約3倍に抑えられるまでに改善した。

    このほか、混雑平準化と利便性向上を両立させるため、刻々と変わる会場内の人の流れをその場で分析し、5分後にどのエリアが混みそうかを示す「5分後混雑予想」をデジタルサイネージに表示させるといったことも試みた。このように「人流解析」は、人のふるまいをデータとして捉え、そこに隠れている法則を解き明かす。隠れた法則が明らかになれば、人が多く集まる場所のレイアウトを工夫することで空間の価値を高めたり、より利便性の高いサービスを実現したりすることが可能となる。

    黄色で示された来場者の流れや滞留時間を比較すると、2013年は局所的に混雑している箇所が会場内の円滑な周遊を妨げていたが、2014年には全体的に混雑箇所が分散化し平準化された

    さらに2014年、日立は、商業施設や公共空間の設計で実績のある株式会社乃村工藝社と協力し、東京・国立科学博物館において人の流れを定量化し、ビッグデータとして分析する実験を実施した。この実験は、子どもの関心が高い展示物や、各展示における親子間のコミュニケーションの活発度などを把握し、人間のコミュニケーションや関係性までを読み解こうとするもので、今後の展示計画立案の際に役立てるものであった。

    今後

    日立がめざす「人流解析」を通じた都市の全体最適化

    「人流解析」は、店舗などごく狭い空間から、大規模施設、さらに都市広域まで応用することも可能である。そこで日立は、「人流解析」による都市の最適化、すなわち誰もが住みやすい街づくりへの貢献までも見据えている。たとえば、街にいる人の流れや行動を分析できれば、エネルギーや都市交通はもちろん、観光や防災などの都市づくりに関わるさまざまな分野を最適化する大きな力になるはずだ。ただ単に、混雑を緩和させることにとどまらず、人や環境に優しい都市づくりに貢献するイノベーションとして、日立は今後も「人流解析」の可能性を切りひらいていく。

    公開日: 2017年6月