メキシコ中部の街、テキーラ市は、文化、史跡、そして有名なテキーラ酒で知られています。しかし現在、まったく異なる理由で注目を集めています。テキーラ市は、2040年までにスマートシティへの移行をめざしており、その取り組みが注目されているのです。
日立との協創を通じた映像分析やIoTセンサー、アプリケーションの活用によるスマートで安全な未来の街づくりは、観光客や住民はもちろん、企業や行政にまで、経済、社会、環境などのさまざまな面で発展をもたらしています。
動画: City of Tequila Preps for a Smart Future with Hitachi
テキーラ市を見下ろす火山と青々と育つリュウゼツラン※は、この20年にわたるテキーラ市の変容を静かに見守ってきました。この街の産業には豊かな歴史があり、ユネスコ世界文化遺産に登録されています。しかし一方で、成長の機会は限られており、街は雇用や転出、家族の離散といった課題を抱えていました。
市議会では、より多くの雇用を創出して生活環境を改善するべく、テキーラ酒を中心とした観光事業の拡大に踏み切りました。「私たちは、街の方針を180度転換しました。15年前には観光業に従事する人々は450人ほどでしたが、今では5,000人を超えています」とテキーラ醸造会社ホセ・クエルボを所有するGrupo JBの企画部長フレデリコ・デ・アルテアガ氏は話します。
メキシコ政府により歴史的・文化的に価値が高い「Magic Town」のひとつとして挙げられたテキーラ市の人口はわずか4万人。これに対し、観光客は2005年の13万1,000人から2020年には140万人にまで増加すると見込まれ、観光業における雇用は拡大を続けています。
テキーラ市では、観光客と住民の両方が利用することができる施設を充実させようとしており、テキーラ市長のホセ・アルフォンソ氏は、「街がどの程度機能しているかを把握することは、非常に重要となってきています。」と述べます。
観光客の増加に伴うさまざまな課題に対応するため、テキーラ市では歩道の安全性からレストランの収容能力に至るまでのあらゆるデータを収集、分析し、活用しようとしています。
※リュウゼツラン科の単子葉植物の分類群
テキーラ市は、スマートシティ構想の実現に向けて、政府組織やITプロバイダー、現地企業、地域団体と協力関係を結びました。「技術、教育、社会の面で変化していくことで、今よりももっと素晴らしいテキーラの街にしたいと考えています。日立は、データを利活用したい私たちのビジョンと、課題を即座に理解してくれました」(デ・アルテアガ氏)
日立が提供したソリューションには、 Lumada Video Insights、 Hitachi Video Analytics、 スマートシティ関連ソリューション(HVA Traffic Analyzer、Parking Analyzer、Social Media Analytics、People Counter and Intrustion Detection)などが含まれており、交通量、駐車量、通行者数、侵入者検知などの過去や現在のデータを収集し、そのデータを保護しつつ分析に活用しています。
市議会は、観光事業全体の強化に向けて、街頭に設置した9台のカメラとセンサーで歩行者量や交通量のほか、レストランや店舗への訪問頻度に関するデータを収集しています。
また、スマートシティ事業の成果を測定するため、日立のSmart SpacesとVideo Intelligenceを活用し、ソーシャルメディア、公共Wi-Fiの利用状況や店舗などの混雑状況、街全体の交通量モニタリングといった幅広い情報源から人々の動向を見える化しています。
スマートシティ事業が推進されていくことで、収集されたデータをリアルタイムで利用できるようになり、住民や観光客は、どこを訪ね、どこで食事をして、どこに駐車するのか、よりよい選択ができるようになります。例えば、街頭に設置した電子案内板で、駐車場やレストランの利用状況や混雑状況が把握可能です。
データに基づく判断は、テキーラ市の観光事業および街の成長を支える鍵となります。
観光事業で多数の雇用機会が創出されたことにより、貧困率と転出率は改善。また、特にサービス業では、事業者同士の協力関係を生み出すきっかけにもなりました。
スマートシティの実現に向けたこの街の取り組みはメキシコ政府からも注目されており、世界的に優れた事例となることをめざしています。「そのためには私たち一人ひとりが、スマートシティのあるべき姿をしっかりと描き出さなければなりません」とデ・アルテアゴ氏は話します。
2040年までに、このスマートシティ事業はテキーラ市のさまざまな施設やサービスに広がる見込みです。市議会では、街の公園にセンサーを設置して土壌の渇き具合を検出し、スプリンクラーによる自動散水を行うことも検討しています。
観光客と市民から寄せられた意見は、スマートシティへの移行に向けた次のステップに活用されています。「同じ目標に向けて、地域が一体となって取り組んでいます。皆の力でスマートな街、テキーラを創り上げているのだと強く感じています」と、Grupo JBの連絡調整役であるモイセス・ガルシア氏は語ります。
地域の人々にはスマートシティの一員としての自覚と自信が芽生えました。人々のより良い暮らしを実現に向けた、テキーラ市と日立との協創が実を結ぼうとしています。
公開日: 2020年2月 (原文は2019年10月に公開)
ソリューション担当: 日立ヴァンタラ