「島々の花輪」を意味するサンスクリット語が国名の語源とされるモルディブ共和国。その名のとおり、インド洋に浮かぶ珊瑚礁や約1,200の島々からなる。観光と漁業で近年急成長した「南洋の楽園」は、水資源の不足という大きな問題に直面していた。
人口約13万人が生活するモルディブ共和国の首都マレ(マレ島)には、そもそも河川がなく、飲料水は雨水や地下水が頼りであったが、雨水を溜める施設面積が不足し、地下水は生活排水による汚染や海水混入による塩化で飲み水には適さなくなっていた。そのためモルディブ政府にとって、水資源の確保と水インフラの改善が火急の課題となっていた。
世界各地でその地域の風土に結びついた水文化を尊重し、地域の発展に貢献できる水処理事業をめざす日立は、モルディブの水問題に対しても持続可能なソリューションをトータルで提案している。
2009年には、もともとモルディブに海水淡水化装置を納入していたシンガポールの海水淡水化設備メーカー、アクアテック社を買収して日立アクアテックを設立。そして、2010年にはモルディブ政府による海外からの出資募集に応え、「マレ上下水道株式会社(MWSC: Male' Water and Sewerage Company Pvt. Ltd.)」の株式を20%取得。MWSCの経営に参画することにより、モルディブの上下水道事業全般の合理化に向けて邁進してきた。
MWSCでは1日に約17,000トンの飲み水をつくり出している
現在MWSCでは、施設内にある井戸からくみ上げた地下水を淡水に変える、逆浸透(RO: Reverse Osmosis)膜を活用した海水淡水化装置8ユニットが安定稼働を続けている。そして、徹底した水質管理が行われた安全な水が、ホテルのプールや公共のシャワー、魚市場など、マレ島全域に広く行き渡り、人々の生活を潤している。
さらには、淡水化した水をMWSC施設内のボトル工場でペットボトルに詰めて出荷し、マレの市内で広く販売され、訪れた人々にも飲まれているなど、モルディブの人々の暮らしをより豊かにしている。
鮮魚を扱う魚市場では淡水化した安全できれいな水を十分に使って魚をおろしている
海水淡水化施設に隣接する飲用ボトルの製造工場
飲用ボトルは首都マレの街や他のリゾート島にも広く出荷されている
日立がモルディブで特に力を入れているのは、インテリジェントウォーターシステムの構築。水インフラを水と情報の流れと捉える日立独自のシステム提案である。その手始めとして、モルディブの水の安定供給を向上させたのが「AQUAMAP」。既存の水管理情報と地理情報システムを統合したこの水道管路図面情報管理システムの導入で、事業者は配水管網を目に見える形で効率的に集中管理でき、配管工事の際の断水情報など、日常生活に関わる水供給の情報も、住民にきめ細かく提供できるようになった。今後はIT導入をさらに進め、島々で稼働中の海水淡水化システムの運転情報をマレ島で集中管理する島しょ間ネットワークシステムを構築する計画を進めている。
日立は、モルディブ以外の国や地域にも海水淡水化装置を納入している。その際、現地オペレーターによる持続的な運営を支援する取り組みも行っている。装置を納入したツバル、パラオなどではすでに、日立アクアテックによる装置の継続的な運転指導や技術サポートを実施し、MWSCによる水道管網や顧客サービス、水質検査を含めた水道供給全般の教育訓練を実施している。
日立は、こうした取り組みをモデルケースとして、同様の問題に直面する島国や沿岸地域に展開していくことで世界の水問題の解決に貢献していく。
公開日: 2013年12月
ソリューション担当: 日立製作所 水ビジネスユニット