私たちの暮らしがドローンによって大きく変わろうとしている。空を飛べるという最大の特徴を生かすことで、交通の不便なところへの配送や高さのある設備の点検、災害時における捜索や物資の提供などさまざまなシーンでドローンは活躍し、人々のQoL(Quality of Life)向上に貢献することが期待されている。例えば、アフリカ南東部のマラウイ共和国では、国際連合児童基金(ユニセフ)の主導のもと、ドローンで医薬品を届けたり、血液サンプルを回収したりするといった実証実験が行われており、安心・安全・健康に暮らせる地域社会への生まれ変わりを後押ししている。しかし、この先ドローンがさらに社会に溶け込むためには、技術開発が進歩すると共に、国や国際社会を挙げたルールづくりも必要だ。このため日立は、技術開発とルールづくりの両輪で、ドローンを使った社会課題の解決に貢献するため、全力を注いでいる。
ドローンが縦横無尽に飛び交う未来を実現するためには、乗り越えるべきハードルが多く存在している。ドローン本体はさらに速く、そして遠くまで飛ぶことができなければならないし、もっと重いものを積載できるようになることも必須だろう。
安全性も当然求められる。そのために欠かせないのが、高精度な運航管理システム(UTM=Unmanned aircraft system Traffic Management)の構築だ。現在のドローンの活用は、あくまで操縦者や管理者がドローンを目視で確認することが前提となっている。一方、ドローンが広く活用されるためには、操縦者の目視範囲を超えてドローンが自動運転にて飛行する「目視外飛行」の実現が急務だ。
この目視外飛行は、簡単には実現できない。広い空を数台のドローンが飛び交う程度なら衝突の心配もないが、人や建物が密集するエリアの上空をさまざまな目的を持った多数のドローンが飛び交うとなれば、お互いが安全に飛べるような仕組みが必要となってくる。それを可能とするのがUTMだ。
UTMは、飛行機の航空管制システムをイメージしてもらうと理解しやすいだろう。飛行するすべてのドローンの位置情報や目的地の情報を管理し、万が一ドローン同士が接近すれば、飛行ルートを変えるように注意喚起をする。また、ヘリコプターなどの有人機が飛来した場合には、それによって危険が生じるようなエリアを通知する。さらに、複数の事業者により異なる用途でドローンが活用される際には、個々のドローンの飛行計画や飛行状況を統合的に集約し、事業者に情報を提供するという役割も担う。
ただし、複数のサービスでドローンが活用されるためには、技術開発とともに、各業界共通で利用できるルール整備も急がなければならない。
東京大学未来ビジョン研究センター 鈴木真二特任教授(撮影:吉成大輔)
UTMを社会実装するためのルールや仕組みの検討に積極的に取り組んでいるのが、2016年7月に発足した「日本無人機運行管理コンソーシアム」(JUTM、代表は東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木真二特任教授)だ。JUTMは、ドローンを含む無人機を安全運行させるために必要な技術開発と環境整備の実現を目的に活動しており、UTMの実用化に向けた議論や検証を積極的に行っている。「さまざまな業種から集まったメンバーが、ドローン管理の理想的な在り方とは何か、どういった環境整備が必要なのかといった問題を論じあい、国としてのルール作りに関わっています」(鈴木教授)
JUTMは現在、400団体を超える会員が参加する規模となっており、中でも日立は設立当初から関わってきた数少ないメンバーだ。日立は、独自でもドローン用のUTMを開発しており、さまざまな業界のユーザーに向けて個別用途のドローンシステムを提供しているが、ドローンを社会実装するには各社が足並みをそろえてインフラを整えていく必要がある。そこで、鉄道や大規模ネットワークを支える高度なITシステムを手掛けてきた実績や、数多くの技術分野に関わる国際標準化の豊富な知見を活かし、コンソーシアムでの議論をリードしながらルール作りに携わっている。
「ドローンを社会課題解決のために広く活用するには、規制の見直しや新たなルール整備に対しての働きかけが重要です」(日立製作所 公共システム事業部の横山敦史)。JUTMは、会員の声を集めて、日本の産業界を代表した働きかけを積極的に行っている。
もちろん海外においても、ドローンの活用については盛んに議論されている。こういった議論に耳を貸さずに国内だけで進めていると、世界の潮流に取り残されてしまう恐れがある。
JUTMはこの点にも着目し、国際的な標準化活動に力を入れている。例えば、国際標準化機構(ISO)の中には、ドローンをはじめとする無人航空機に関する標準化を進める委員会「SC16」が設置されている。委員会の幹事はアメリカが務めている。このSC16の中に、新たにUTMに関するワーキンググループを発足することを、JUTMは提案した。「ISOへの提案は日立とJUTMが先導する形で行った。新たにUTMのワーキンググループを発足することが承認され、ワーキンググループの国際議長は日立が務めている」(日立製作所 公共システム事業部の須田康介)。
ドローンの普及を実現するためには、ルール整備と共に、実証実験を進めることが重要だ。実際にJUTMにおいても、会員が連携した各種実験が行われている。
一方で、JUTMなどの団体に属していなくても、開発途上のドローンシステムを利用して実験を行い、問題点を洗い出せる場所を確保することも、日本のドローン開発を加速させるためには必要だ。このような場として整備されているのが、福島県南相馬市・浪江町にある福島ロボットテストフィールド(福島RTF)だ。福島RTFは、福島県浜通りの産業復興を目的とした「福島イノベーション・コースト構想」に基づき整備されており、ドローンなどのロボットを対象に、実際の使用環境を再現しながら実証実験を行うことができる研究開発拠点だ。オープンな施設であるため、誰でも自由に利用でき、日本のロボット産業の発展を加速する場として期待されている。短期的には自由度高く、開発者やスタートアップ企業、大学、研究所による活用を想定しているが、中長期的にはロボットの生産拠点が近隣に立地されることで、品質管理、性能チェックの拠点になることをめざしているという。「ドローンをはじめとする次世代のロボット産業の中心地として育て、ロボット産業を根付かせていきたい。『産業』と『人』を集め、福島RTFを中心に経済的な復興の力となり、人材育成や人材交流を推進し、企業者以外の誘致も積極的に行いたい」(福島県ロボット産業推進室室長 北島明文氏)。
ロボット産業の発展の中でも特に注目されているドローンがさまざまな用途で活躍するためには、異なる用途に利用されているドローン同士が同時に安全に飛べる環境を実現しなくてはならない。このため、新たなドローン業者が複雑な手続きをすることなく、実際のUTMに接続して実証・実験できる環境は必ず必要となる。福島RTFはそういった重要な場を提供しており、それを日立は陰から支えているわけだ。
福島ロボットテストフィールド(画像提供:福島RTF)
ドローン普及に向けて、日立はドローンとLumadaを連携させた技術開発も推進している。ドローンで収集したデータをIoTプラットフォームで分析するというものだ。
例えば、橋梁の点検に利用した事例も、ドローンの特徴を十分に生かしたものだ。日本には、70万もの橋梁があるといわれ、老朽化した橋梁の点検は効率的に行いたい。ドローンによって表面状態を撮影すれば、人手で行っている現状より、はるかに点検効率は向上する。 ドローンが撮影した画像や動画をLumadaのAI(人工知能)と連携させることで、熟練者の経験に任せていた劣化検知を効率的に行えるよう、日立は実証実験を進めている。このように、運航管理を行うUTMだけでなく、Lumadaと連携したデータ分析も「ドローンプラットフォーム」 としてワンストップで提供している。
UTMが実装された社会では、これまで想定されなかったドローンの活用方法が実現していることだろう。お届け物が空から降ってきたり、重い荷物をドローンが代わりに運んでくれたりする日が訪れるかもしれない。それはサービスを提供する側のビジネス価値だけでなく、人々のQoL(生活の質)の向上にもつながる。そのような社会の実現に向けて、日立はビジネスパートナーと共に、ドローンソリューションに対して技術開発とルール整備の両輪、さらには場づくりへの貢献に今後も力を注いでいく。
公開日: 2020年3月
ソリューション担当: 日立製作所 公共システム事業部
日立・ドローンソリューション
空のイノベーションを加速し、