ロボット列車…というと、まるで映画のようですが、これは現実の話です。オーストラリアで鉱物などの資源を扱うリオ・ティント社と日立レールSTS社の協創で、重量貨物輸送システム「AutoHaul™」を開発し、世界初となる無人貨物列車の走行を実現しました。無人貨物列車は今この瞬間も、オーストラリアで鉱山から港までの数千キロメートルの距離を走っています。
安全かつ効率的な貨物輸送は、町の繁栄に欠かせません。AutoHaul™の開発は、世界の重量貨物鉄道にとって大きな転機となりました。重量貨物輸送と資源産業の未来を変える貨物鉄道の自動運転化プロジェクトのヒントとなったのは、無人運転地下鉄の存在でした。
AutoHaul™によって、運行時間と運転士の移動距離が削減されると同時に、より高い安全性や業務効率の改善を実現しています。
動画: AutoHaul™: Creative collaboration between Hitachi Rail and Rio Tinto - a Global First in Freight Rail Automation
リオ・ティント社は200両以上の貨車を機関車で牽引し、16か所の採鉱場から4か所の港湾施設へ、1,700キロメートル以上の距離を走行して鉄鉱石を運んでいます。貨物の積み降ろしを含めると、鉱山と港を往復する全行程を終えるには約40時間かかります。また、重量貨物列車の運行にはそれまで、運転士が勤務交代のために総距離にして年150万キロメートル以上を自動車で移動しなければなりませんでした。
リオ・ティント社・鉄鉱石部門のアイバン・ベラ氏は、「ピルバラ※のような遠い場所を含む規模の鉄道網を自動運転化し、業務の安全性と効率を改善することが課題だった」と話しています。
※ピルバラ地域は、オーストラリア・西オーストラリア州を9つに分けた地域区分のうちの1つ
日立レールSTS社は、自動運転のための試験や研究を、本プロジェクトの開始前から行っていました。そして2010年、鉱山鉄道網の完全自動運転に必要な信号、通信機器、列車の制御・監視システム、自動化システムなどを改善し、AutoHaul™を実現するために、リオ・ティント社と提携を結び、通信システムとインフラ管理技術を提供しました。 開発にあたっては、オーストラリア・米国・イタリア・フランスといった離れた場所にいる専門家たちが、それぞれの研究所を同じ環境に整えて研究を行いました。そして、オープンに情報共有することで、この世界初※となるシステムを実現したのです。これは「技術革新プロジェクト」である一方、多くの専門家たちが時差と距離を越えて団結したことによる、協創プロジェクトでもありました。
AutoHaul™は、全車両の正確な位置、速度、進行方向を計測するドライバー・モジュールを各列車に搭載。その情報はインターネットを通じて、1,500キロメートル離れたパースにある中央管理センターに自動的に送られます。その管理センターの機能も改善され、列車の安全走行を自動で制御・監視する60の無線基地局が線路脇に設置されました。同時に、40か所以上の踏切を改良し、CCTVカメラ(監視カメラ)も導入しています。
また、自動列車運転装置(ATO)のインターフェース・ソフトウェアによって、完全自動運転による列車の制御が可能になりました。さらに踏切の保護装置を設置し、安全性を高めています。Hi-Rail(線路の軌道を検測する特別な装置)には位置追跡装置が備えられ、前方の安全確認のための走行許可位置情報などを伝達する自動列車防護装置も設置されています。加えて、現地の通信システムやインフラ技術の厳しい規制に適合するために、AutoHaul™は精緻に開発され、ヨーロッパ電気標準化委員会(CENELEC)の国際安全規格に準拠し、オーストラリアの全国鉄道安全規制機関(ONRSR)から認可を受けました。これらの新技術によって、高度な安全対策と業務効率化を実現しました。
※2018年7月時点
2018年7月、トムプライス鉱山からケープ・ランバート港までの280キロメートルの距離において、2万8千トンもの鉄鉱石を積んだ列車の完全自動運転による走行が、初めて実施されました。これまで運転士の交代ごとに20分かかっていた時間をAutoHaul™によって削減できるようになり、1行程あたり約1時間を短縮できました。さらに、運転士の勤務交代のために毎年費やしていた150万キロメートル分の自動車移動を削減し、従業員の働き方や安全性も改善しています。
鉄鉱石の世界最大級の産地である西オーストラリア州のピルバラ地域において、運行時間と運転士の移動距離の削減により効率性と経済的な持続可能性が向上したことは、大きな成果でした。
リオ・ティント社のベラ氏は「このプロジェクトの実現によって、生産性の改善、システムの柔軟性の向上を図ることができました」と評価しています。
日立レールSTS社のプロダクト・マネジャーのロズリン・スチュアートは、「このプロジェクトが成功した理由の1つは、チームメンバーの存在です。現メンバーは、2012年のプロジェクト開始当時からほとんど変わっていないのです」と、振り返ります。リオ・ティント社と日立レールSTS社は今後も、さらなるシステム改善のために協創を続けていきます。
オーストラリアのみならず世界中の企業にとって、AutoHaul™は鉄道運営事業の指針となっています。この長距離重量貨物輸送列車の自動化は、これからの貨物鉄道の発展に欠かせない取り組みと言えるでしょう。
日立レールSTS社貨物部門の代表であるミケーレ・フラッキオーラは、「世界中の輸送やインフラ事業の開発者にとって、刺激的な挑戦でした。自動運転の実績を積みながら開発を続けていくことができれば、さらなるシステム統合にもつながります」と話しています。
その後、リオ・ティント社はAutoHaul™をさらに改善するために、日立レールSTS社と戦略的パートナーシップを結びました。AutoHaul™開発における協創は、貨物鉄道技術の新たなステージに向かって歩み始めています。
公開日: 2020年3月(原文は2020年1月に公開)
ソリューション担当: 日立レールSTS社