世界の国や地域では、人口増加や都市化など、生活が豊かになるにつれて水利用量が増加する一方で、水不足が深刻な問題となっている。そうした水不足を解消するため、地球上にある海水を真水に変えることができる海水淡水化システムの導入を低コストで実現する、新たなソリューションが求められている。
世界的な人口増加や都市化などによって水需要が伸びている一方で、世界の国や地域では水不足が深刻化している。特に中東やアフリカ、アジア、北米の一部は、著しい渇水地域となっている。こうした水不足を解消するため、海水から塩分を取り除き、飲料水や産業用水をつくりだす海水淡水化システムに対する期待が高まっている。しかし、海水を真水にするには多大なコストがかかるため、なかなか普及が進んでいないのが現状である。
ウォータープラザ北九州にある実証設備の外観
2008年、このような地球規模の水問題を日本の高度な水インフラ技術によって解決しようと、国内民間企業の団体として一般社団法人海外水循環システム協議会(GWRA)が設立された。翌2009年、当初よりGWRAのコアメンバーとして参加した日立と東レ株式会社が中心となり、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に対し、省エネルギーでかつ低環境負荷の海水淡水化システムを提案したところ、実証事業として採択された。これに伴い2010年、先の2社で海外水循環ソリューション技術研究組合(GWSTA)を設立し、北九州市の協力のもと、国内最大規模の省エネルギー型造水プラントの建設・実証運転を開始した。
そうして、2010年12月に開設した「ウォータープラザ北九州」は、省エネルギー型造水プラントの運営実証を行うデモプラントのほか、多様な水処理に関わる機器試験を、実際に使われる環境に近い状況を再現して行える施設である。このデモプラントは、日立らが提案した海水淡水化プロセスと下水再利用プロセスを統合した独自のシステムから成り立っている。
「RemixWater」と名づけられたこのシステムの特長は、下水再利用プロセスで排出される排水を利用して海水の塩分濃度を薄めている点である。通常の海水淡水化システムは、海水に圧力をかけ、超微細な孔をもつ逆浸透膜(RO:Reverse Osmosis)という膜に通し、塩分を除去して真水をつくる。一方、「RemixWater」は、下水再利用プロセスの排水を混ぜ合わせることによって海水の塩分濃度を薄めたうえで、逆浸透膜を使って海水をろ過する統合システムである。塩分濃度が高いほど高圧で送水する必要があるため、ポンプの動力費が高くなる。ポンプの動力費は運転コストのほぼ半分を占めることから、「RemixWater」は、従来の海水淡水化プラントに比べ、ランニングコストの大幅な削減を可能にした。
海水淡水化・下水再利用統合システム「RemixWater」の概要図
目詰まりの抑制策を探るため、AI技術を使った解析画面
下水再利用水で海水の塩分濃度を薄めるという、考え方はシンプルなこのシステムには、真似のできない独自のノウハウがある。たとえば、実証中に下水処理水に由来する成分が膜を目詰まりさせるトラブルが発生した際は、注入する薬品の量などを変えることによって問題を解決した。さまざまな運用ノウハウを蓄積した3年間の実証では、従来の海水淡水化プラントに比べ、30%以上の省エネ化を実現することに成功した。
また、「RemixWater」に限らず、海水淡水化システムの要は、海水を真水にろ過する逆浸透膜である。長期間システムを運転し続けると、どうしても逆浸透膜に目詰まりが生じてくる。そうすると、膜の性能が次第に悪くなり、ポンプの動力費が増大してしまう。したがって、目詰まりをできるだけ抑制することが、さらなる省エネ化につながる。しかし、逆浸透膜の目詰まりを抑制する運転制御は非常に難しく、目詰まりが発生する仕組みはある程度はわかっているものの、効果的な抑制策はいまだ試行錯誤に頼らざるを得ない部分が残されている。
そこで日立は、目詰まりの抑制策を探るため、独自のAI技術の活用を試みた。「ウォータープラザ北九州」での運転履歴データを用いて解析したところ、目詰まりが発生する要因と相関関係にある要素が見つかった。さらに、それに基づいた運転制御方式の効果を試算した結果、ポンプにかかる電力コストのうち約6%の削減効果が期待できることがわかった。
飲料水の基準を満たす水をつくる実証を開始したダーバン市の下水処理場
「ウォータープラザ北九州」には、およそ7,500人の見学者が訪れ、そのうち海外からの見学者は1,900人近くまでに達した(2016年11月現在)。視察をきっかけに南アフリカ共和国のダーバン市が「RemixWater」に興味を示したことから、日立は新たにNEDOの「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業」に着手することになった。
その背景には、平均降水量が世界平均の半分しかない南アフリカ共和国で、同国第3位の人口を抱える都市であるダーバン市では、水需要が供給を上回っているという事情があった。ダーバン市は海水淡水化プラントの導入を検討していたものの、やはり高い運転コストが障害となっていた。そこで、省エネ型の「RemixWater」であれば、低コストでの運転が可能と考えたのである。
そして、2016年ダーバン市における実証がスタートした。今回の実証ステージでは、「ウォータープラザ北九州」のように産業用水ではなく、南アフリカ共和国の飲料水基準を満たす水を安定的につくることを目標としている。日立は、この新たな実証事業の成果を踏まえ、「RemixWater」実用化に向けての取り組みを加速させることはもちろん、世界的な課題となっている水不足の解決に貢献すべくチャレンジを続けていく。
公開日: 2017年3月
ソリューション担当: 日立製作所 水ビジネスユニット