人々の生活になくてはならない水。その水資源が乏しい国や地域では、水を安定して供給するため、水量が豊富な地域から送水する大規模プロジェクトが計画されている。そこでは、送水施設の核となる高効率なポンプが求められている。
およそ100年前から日立が独自に培ってきたポンプ製造の加工技術
世界には豊富な水資源に恵まれた国や地域がある一方で、生活や農業などに必要な水が不足している国や地域も少なくない。こうした世界的な水資源の偏在に対応するため、長距離送水ポンプの需要が高まっている。
日立のポンプ製造の歴史はおよそ100年前にまでさかのぼる。水資源の確保をはじめ、上下水道、水循環・再利用を目的とした数多くのポンプ・水処理技術を開発してきた。1950年に、当時国内最大規模の東北電力(株)沼沢沼揚水発電所向けの揚水ポンプを受注。さらに、1958年、東パキスタン(現バングラデシュ)のかんがい向け可動翼軸流ポンプを受注し、その後の海外展開への足がかりを築いた。以来、海外の大型プロジェクト向けのポンプを納入することにより、世界の水環境の改善に貢献しながら、独自の技術を磨いてきたのだ。
ナセル湖の湖岸に建設されたトシュカポンプ場
日立の大型立軸渦巻ポンプ
2000年代に入ると、日立は、海外の国家的プロジェクトへの参画を加速させる。エジプトではナイル川の水を送り、砂漠を緑化して新しい街を建設するというトシュカ計画において重要な送水設備となるトシュカポンプ場の建設を担った。多国間コンソーシアムの中で、技術面でのリーダーシップを発揮。エジプト・アラブ共和国に対する国際貢献として高く評価された。
また、中国では南部の長江流域の水を、深刻な水不足に陥っている北部の黄河流域へ引水する「南水北調プロジェクト」に参画し、宝応ポンプ場を完成させるなど、世界各国で実績を上げてきた。
さらに2004年、日立は世界最大級のエドモンストンポンプ場の更新工事を受注した。これは、アメリカ・カリフォルニア州の南北を貫く約960kmの送水路にとって最重要となる基幹ポンプ場で、北部から南部のロサンゼルスやサンディエゴなどの大都市、農業地域へ水を運ぶためには欠かせない施設だ。
同ポンプ場には600mもの高低差を揚水する基本機能が求められ、また、ポンプ駆動のためのモータ定格出力は80,000HP(60,000kW)にもなるため、消費電力の低減も重要な課題であった。日立は、これまで培ってきた技術を注ぎ込み、高効率巨大タービンポンプの開発に成功。カリフォルニア州水源局から高い評価を得ることができた。
世界最高レベルの効率を達成し、CO2排出量の低減にも貢献する立軸多段タービン渦巻ポンプ
高効率ポンプを実現する、最先端の「CFD」解析技術
NC加工機による羽根車加工
エドモンストンポンプ場には、開発から設計、生産にいたるまで日立グループの総合力を結集したポンプ技術が詰め込まれている。その根幹は、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)という、ポンプ内の水の正確なシミュレーションができる最先端の解析技術だ。コンピュータ上で水の流れが計算できるCFDと、日立が積み上げてきたノウハウや最適化設計技術を組み合わせることで、信頼性が高く、性能が優れたポンプを設計することが可能になった。
こうした設計技術を強みに、多段構成という複雑な構造にも関わらず最適設計を実現し、ポンプの信頼性、効率を高めることに成功した。また、主要部品である羽根車、案内羽根などを最新鋭のNC加工機による高精度技術を駆使し、世界最高レベルのポンプ効率を達成した。このポンプ効率の向上は、大きな省エネ効果を生み、CO2排出量低減にもつながったのである。
水資源が安定して確保できないと、食糧危機などを招きかねないことから、水資源問題は世界の国々にとって深刻かつ緊急の課題である。そのような中で日立は、米国をはじめ中東やアジアの国や地域でビッグプロジェクトを推進するなど、グローバルにポンプ事業を展開している。100年以上にわたってかんがい、上下水、電力向けポンプなどで培ってきた実績をもとに、日立は今後も世界の水資源問題の解決に向けて取り組んでいく。
動画「Stories of Technology『ポンプ編』」
公開日: 2014年11月
ソリューション担当: 日立製作所 インダストリアルプロダクツビジネスユニット