化石燃料への依存が高い米国・ハワイ州では、再生可能エネルギーの大量導入を急ピッチで進めているが、余剰電力や電気系統の不安定化などが課題である。日立は、日米共同のスマートグリッド実証事業に参画し、現地パートナーやボランティアとの協創により、この課題の解決に取り組んだ。
島国である日本はもちろんのこと、世界には島しょ部をもつ国・地域が少なくない。そこには共通するエネルギーの課題として、化石燃料への高い依存性が挙げられる。たとえば、ハワイ州は米国の中でも原油の依存度が群を抜いて高く、自動車などの燃料を加えると消費エネルギーの約90%を化石燃料に頼っていた。
このような状況から脱却するため、現在、ハワイ州は2045年までに州全体の電力需要の100%を再生可能エネルギーでまかなう目標を掲げ、取り組んでいる。しかしながら、天候などによって出力が大きく変動する再生可能エネルギーが大量に導入された場合、電圧上昇や周波数変動を引き起こすなどして電力系統が不安定になってしまうという課題も生じている。
こうした再生可能エネルギーの利用に伴い生じる課題を解決することを目的として、日米共同プロジェクトによるスマートグリッド実証事業が立ち上げられた。そして2011年、日立はNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「島しょ域スマートグリッド実証事業(正式名称:Japan U.S. Island Grid Project、プロジェクト呼称:JUMPSmartMaui)」をハワイ州、ハワイ電力、ハワイ大学、米国国立研究所などと共同で行うことになった。JUMPSmartMauiは、電気自動車(EV)の普及への対応、電力の安定供給、再生可能エネルギーの最大利用の3つを基本方針とし、ハワイ州マウイ島において世界最先端の離島型スマートグリッドを実証するという取り組みだ。日立は、実証研究責任者として全体を取りまとめ、スマートグリッド環境の構築を担った。
JUMPSmartMauiにおいて、日立は6つの先進的な取り組みによってスマートグリッド実証を進めることになった。1つ目は、大量導入された再生可能エネルギーの効率的な利用。再生可能エネルギーの発電予測に合わせて、EV充電時間をシステム抑制する等によってエネルギーの高効率利用を実現する。2つ目は、再生可能エネルギー特有の急激な需給変動への対応。たとえば急に風が止んだ場合に、生活への影響が出ないように配慮しながら、各家庭の機器やEV充電を直接制御し、電力の使用量をコントロールする。そのほかの4つは、EVの大量普及に対応する設備・システムの確立、システムの安全な運用を実現するセキュリティの確保、分散制御によるきめ細かいエネルギーコントロール、情報制御技術の確立である。日立は、これらの取り組みを通じて、ハワイ州マウイ島における低炭素社会の実現とクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上の両立をめざしている。
日立が実施した6つの先進的な取り組み
この実証事業の中で調査検討・システム構築におけるポイントとなったのは、今後島内に大量普及が見込まれるEVだ。EVに搭載したバッテリーを、余剰電力の吸収と再生可能エネルギーの安定化に用いれば、化石燃料に依存しすぎないエネルギーインフラの構築にもつながるからである。まず、日立はEVの充電管理を実現するEVエネルギーコントロールセンターを設置した。それに加え、交通の流れや、各拠点の位置情報、EVユーザーの利便性に基づく分析を踏まえ、EV用急速充電ステーションを設置した後、2013年12月に実証サイトを始動させた。ここでは、マウイ島で稼働している風力発電システムと電力系統と連携して、ITを活用しながら、需要家側の負荷制御(デマンドレスポンス)、複数タイプの急速充電器を含めたEVの運用・充電制御システムの実証を進めてきた。また、推進にあたっては現地パートナーやボランティアの協力も不可欠で、「協創」での実施も、この実証プロジェクトの大きな特色であった。
EV用急速充電ステーション
現地のステークホルダー、200名を超えるボランティアと協力してJUMPSmartMauiプロジェクトを推進した
日立は、EVの放電機能を利用し、電力系統に電力を戻すV2G(Vehicle to Grid)技術の確立と、それらEVや蓄電池などの分散電源を統合管理することで、全島のエネルギー需給バランスに貢献するVPP(Virtual Power Plant)機能を実証システムに拡張した。スマートグリッドの効果の分析・評価、構築されたシステムの経済性評価、島しょ域における低炭素社会システムのビジネスモデルの構築・検証も行われた。
日立は、この実証事業の成果を踏まえて情報と制御の融合ソリューションをさらに進化させ、日々導入が増えている再生可能エネルギー、EVの効率的な利用をめざすシステムの確立に向けて取り組んでいく。
公開日: 2018年2月