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「脱炭素に貢献することを誇りに思う」 新たな変圧器を開発する研究者の思い

気候変動が喫緊の課題となる中、世界中の企業や大学の研究者たちが、脱炭素を実現するための技術開発に取り組んでいます。電力設備を製造する日立エナジーのバレンティーナ・ヴァロリさんもその一人。イタリア北部・モンセリーチェの研究開発センターで、環境に配慮した電力用変圧器の研究などに携わってきました。同センターでは、どのような取り組みを行っているのでしょうか。バレンティーナさんに話を聞きました。

環境に配慮した変圧器を開発

日立エナジーで研究者として働くバレンティーナ・ヴァロリさん

――まず、現在のお仕事の内容について教えてください。

バレンティーナ: 私は今年の1月まで、日立エナジーの主力製品である「電力用変圧器(以下、変圧器)」の研究開発に携わっていました。そして2月からは、これまでの経験を生かして、変圧器の事業計画の策定などを担当しています。

一般家庭や工場、鉄道施設などでは、必要とされる電圧がそれぞれ違うため、用途に応じて電圧を変える必要があります。これを可能にするのが変電所にある変圧器で、電気を使う場所に合わせて、電圧を上げたり下げたりします。変圧器は私たちの暮らしのいたる所に存在しているのです。

――具体的に、どのような研究に取り組まれているのですか?

バレンティーナ: 例えば、変圧器から生じる電力損失を減らすという研究を行っています。変圧器は、エネルギー消費効率が99%以上と言われており、送電・配電の過程で漏れてしまう電気はわずかな量です。しかし、世界規模で見ると大量の電気が無駄になっており、年間で何百万トンものCO2排出につながっていると言われています。そこで私のチームでは、電力損失を正確に測る手法を検討したり、機械学習やAIを用いて変圧器の電力損失を予測するモデルを開発したりしてきました。

製造されたばかりの電力用変圧器とバレンティーナさん

――その他には、どういった開発を行っていますか?

バレンティーナ: 変圧器は何十年にもわたって使用する前提で設計されていますが、いつかは廃棄されます。その際に、環境への負荷をできるだけ少なくすることが重要です。そのため、研究開発センターでは、変圧器の材料やパーツを再利用可能なものに置き換え、廃棄物の量ができるだけ少ない変圧器を開発しています。

さらに、ウェルビーイング(心と体と社会の良い状態)が重視される中、変圧器の振動音によって生じる騒音をいかに減らすかというのも重要なテーマです。騒音は、高血圧や心臓病、睡眠障害といった健康被害の原因になるからです。そこで変圧器に取り付ける騒音抑制装置を開発し、約5デシベルの騒音を軽減することに成功しました。性能をさらに向上させるために、デジタル上で振動音をシミュレーションする技術も開発しているところです。

数学や物理学に浸りたかった

取材に応じるバレンティーナさん

――なぜ、研究者になろうと思ったのですか?

バレンティーナ: 私は子どもの頃からずっと「論理的な性格」と言われてきました。あらゆるものが正しい順番や配置になっていないと気がすまない性分なんです。そのため、数学と物理学が大好きでした。しかし、早く社会に出て企業で働きたいという思いから、大学では物理学と産業が密接に結びついている「電気工学」を学ぶことにしました。

卒業後は数年間、ソフトウェア業界で働き、2004年に日立エナジー(当時はABB社)に入社しました。翌年には、アメリカに赴任することになり、変圧器の冷却機能に関する研究開発に携わりました。その後、母国のイタリアに戻り、マーケティング部などを渡り歩きましたが、再び研究に携わりたいという思いから、5年前に研究開発センターへ異動しました。

――理工系の分野は女性の割合が低いと思いますが、不安はなかったのですか?

バレンティーナ: 現在の職場では女性は10人に1人ほどしかおらず、性別の多様性という意味ではまだまだ課題がある業界です。しかし、日立エナジーは多国籍な社員を世界中の拠点に抱えており、ダイバーシティ(多様性)に対してとても理解がある会社なので、不安を感じたことはありません。

とはいえダイバーシティをさらに推し進めることは重要です。日立エナジーでは、2025年までに女性社員の比率を25%にすることを掲げているほか、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の教育にも力を注いでおり、多様性のある組織が社会にもたらす価値について発信しています。私は昨年、この取り組みのアンバサダーに任命されました。

研究開発は新しい技術を作り出す部門ですが、それを可能にするのはオープンなマインドセットです。他人との違いを知り、異なる言語、性別、文化、視点を学ぶことで、新しい価値を創造することができるのです。今後も、社内の取り組みをサポートしていきたいと思っています。

今こそ、研究開発が輝くチャンス

研究に取り組むバレンティーナさん

――現在のお仕事にどのようなやりがいを感じていますか?

バレンティーナ: 脱炭素化に貢献し、私たちの社会をより豊かで持続可能なものにするための仕事に携われることに誇りを感じています。昔は、お客さまの声に応じて製品の機能を向上させることが最優先でしたが、今は脱炭素化という、より大きな目的が目の前に立ちはだかっています。新たな技術開発が求められている今、これほど研究開発という職種が輝けるチャンスはないと思います。

――今後、どのようなキャリアを歩んでいきたいですか?

バレンティーナ: 正直なところ、キャリアパスというものに対して強いこだわりは持っていません。ただ、5年後も、10年後も、私はきっとテクノロジーを扱う仕事をしていて、そのために常に新しいことを学び続けていると思います。私にとって、大好きな物理学や数学と向き合い、学びを得ることが最高の報酬なんです。いかにも研究者らしい考え方だと思われるかもしれませんね(笑)

環境に配慮したエネルギー技術の開発に取り組むバレンティーナさん