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「電力の安定供給に貢献」二国間で電力を融通する日立の「国際連系線」

地球温暖化や世界情勢の変化、技術革新などにより、電力の需給バランスに変化が生じ、安定的な電力供給がより難しくなってきています。こうした中、異なる国同士の送電網をつなぎ、電力を融通し合う「国際連系線」という仕組みに注目が集まっています。

ドイツとノルウェーをつなぎ、再生可能エネルギーを双方向に送ることで、電力の安定的な供給に寄与する「NordLink」もその一つです。立ち上げに携わった日立エナジーのトーステン・ニーディグさんに話を聞きました。

ドイツとノルウェーで電力を融通

プロジェクトディレクターとして現場に立ち会うトーステンさん

――まず、NordLinkとはどのようなプロジェクトですか?

トーステン: NordLinkは主に風力や水力などの再生可能エネルギーをノルウェーとドイツの間で双方向に送電するための設備です。具体的には、623キロメートルの海底ケーブルと地中ケーブルが、ドイツ北部のヴィルスターとノルウェー南部のトンスタをつないでいます。その時々の需要や発電量にもよりますが、一度に最大1,400メガワットもの電力を届けることができます。これは、およそ360万世帯分に相当する電力です。

――トーステンさんは、どのような役割を担ったのですか?

トーステン: 私がこのプロジェクトに携わったのは、2015年から21年までの約6年間で、ドイツとノルウェーに建設された変換所の設計、建設、稼働までの一連の工程を監督しました。日立エナジーからは500人のエンジニアや研究者が参加し、彼らを統率するのがミッションでした。2004年の入社以来、さまざまな長距離送電プロジェクトを担当してきましたが、ここまで大規模なプロジェクトを担当したことがなく、身の引き締まる思いでした。

ドイツ北部とノルウェー南部をつなぐNordLink

――NordLinkは、どのような背景から生まれたのですか?

トーステン: ドイツでは、20年以上前から北部を中心に風力発電を積極的に導入してきました。しかし、強い風が吹かないと発電できないので、発電量が安定しないという問題があります。特にエネルギー消費量が増える冬は、高気圧で風が弱まる傾向もあり、電力不足に陥るリスクが高まります。また、たとえたくさん風が吹いて発電できたとしても、そのとき国内の電力需要が満たされていれば、電力が余って無駄になってしまいます。

一方、ノルウェーは山谷が多く、一年を通して雨も豊富なことから水力発電が盛んです。ただし、水力発電では一度に大量の水を使うため、降水量が減れば発電量が不足し、電力料金が高騰してしまうという課題がありました。

そこで、ドイツとノルウェーを海底ケーブルでつなぎ、「お互いの再生可能エネルギーを融通し合ってはどうか」という構想から始まったのが、NordLinkのプロジェクトです。再生可能エネルギーは供給の不安定さが弱点と言われますが、このプロジェクトによって、電力が余っている場所と不足している場所がつながれば、電力を安定的に供給することができるようになるのです。

国際連系線に欠かせない「HVDC」

HVDCの仕組み

――NordLinkでは、どのような技術が使われているのですか?

トーステン: 最大の特徴は「高圧直流送電(High Voltage Direct Current、以下HVDC)」と呼ばれる技術を使用していることです。

そもそも電気の流れ方には「直流」と「交流」の2種類があります。一般的に、発電所で作られた電気が消費者の元に届くまでの間、電線を流れているのは交流の電気です。交流は電気の使用用途に応じて柔軟に電圧を変えることができ、扱いやすいという特徴があります。しかし、大量の電気を長距離に送電する場合は、電気の流れる方向が変化するという性質を持つため、送電途中で多くの電気が漏れてしまうというデメリットがあります。

一方の直流は、電気が一方向に流れるという性質を持ち、長距離でも安定して大量の電力を運ぶことができます。HVDCはこの直流の送電を可能にする技術です。HVDCが使われているNordLinkでは、海の手前に建てられた変換所で、交流から直流へ変換し、海を渡って対岸に到着したあと、再び変換所で直流から交流に戻しています。これにより、途中で発生する電力のロスを最小限に抑えているのです。

HVDC技術を用いた変換所の設備

国際プロジェクトならではの困難

―― プロジェクトを進めるにあたって、困難だったことはありますか?

トーステン: 両岸の全く異なる環境に変換所を建設するにあたって、さまざまな苦労がありました。特に印象深かったのは、土壌の性質がノルウェーとドイツで大きく異なっていたことです。

まず、ノルウェー側の変換所は山奥に建てられており、地面が石のように固かったので、地面を柔らかくするために石を少しずつ砕く作業が必要でした。一方、ドイツ側の地面は水を吸い込んだスポンジのようで、1万トンを超える変換所の重量には到底耐えきれない強度でした。このため、それぞれの土壌に合った工事の方法を慎重に検証する必要があり、建屋の基礎を築けるようになるまで何カ月もかかりました。

動画:変電所の建設現場の様子(TenneT社のウェブサイトより)

――その他に苦労したことはありましたか?

トーステン: NordLinkは国際的なプロジェクトなので、さまざまな国から異なる言語・文化を持つメンバーが参加していました。このため、最初は円滑にコミュニケーションを取ることすら困難でした。

そこで、プロジェクトが始まってすぐに、それぞれの参加国の文化や商習慣を理解するための勉強会や交流会を実施しました。さらに、チームビルディングのためのイベントを何度も開き、一つのチームとして機能するように、関係性を深めていきました。

世界的に需要高まる長距離送電

NordLinkで建設されたドイツ・ヴィルスター変換所

――NordLinkが2020年に稼働を始めてから、どのような効果が生まれていますか?

トーステン: NordLinkを運営する電力会社の方からは「この国際連系線によって、ヨーロッパのエネルギー網は今よりも安定したものになる」といった声をいただいています。

加えて、NordLinkで再生可能エネルギーを融通することで、年間およそ100万トンのCO2が削減されるという試算結果が出ており、環境保護といった側面でも評価する声が寄せられています。こうした声を受けて、日立エナジーでは新しいプロジェクトに取り組んでいます。

その一つがNordLink を拡張するSuedLinkです。NordLinkによってドイツに届けられたノルウェーの電力を、工業地帯が多いドイツ南部へ運ぶというものです。送電距離としては約550キロメートルで、ドイツ国内の500万世帯分に当たる最大2,000メガワットの電力を供給することになります。

そのほか、海外に目を向けると、アメリカやカナダ、インドやイギリスなどでもHVDCを使った長距離送電プロジェクトが進んでいます。地方で発電した再生可能エネルギーを大都市へ運ぶ需要が世界中で高まっており、それを可能にするHVDC設備の小型化や軽量化の研究が急ピッチで進められています。

子どもたちの未来のために

インタビューに応じるトーステンさん

――トーステンさんは、日々の仕事を通じてどのようなやりがいを感じていますか?

トーステン: NordLinkプロジェクトに携わる以前、私には子どもがいませんでしたが、プロジェクトを担当している間に3人生まれました。その影響で、「この子たちが大人になったとき、地球の姿はどうなっているだろう」と自問自答することが増えました。

もしかすると、氷河が消えているかもしれない。雪が見られなくなっているかもしれない。四季がなくなっているかもしれない。そのような世界を目の当たりにしたとき、大人になった子どもたちは先人に対してどんな思いを抱くでしょうか。

NordLinkやHVDCだけで世界を変えることはできませんが、気候変動の進行を遅らせることならできるかもしれません。そして、いつか完全に止められるかもしれない。この小さな希望が、毎日仕事に取り組むモチベーションになっていますし、子どもたちの未来を作る手助けができることに、大きな誇りを感じています。