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高齢者の「社会参加」促進で介護リスクを低減 日立、シニア向けアプリを開発
近年、急ピッチで高齢化が進む日本では、医療・介護費の増大が大きな社会課題となっています。こうした中、日立製作所は、高齢者の社会参加が心身の健康維持と介護費の抑制に効果があるという研究結果に注目。2022年2月15日に、日本老年学的評価研究機構(JAGES機構)と共同研究のもと、高齢者の社会参加を促進するためのスマートフォン用アプリ「社会参加のすゝめ」を開発し、4月末に無償でリリースすると発表しました。
社会参加とは、就労やスポーツ、趣味の集まりへの参加など、人との交流や外出などの行動を指します。本アプリをダウンロードすると、スマートフォンで社会参加の状態を手軽に計測でき、社会参加の有効性に関する情報が継続的に提供されます。
社会参加を促す2つの機能
アプリの名称は、福澤諭吉の「学問のすゝめ」をもじったもの。同書が明治期の日本人に学問の大切さを気づかせたように、高齢者の社会参加の意義を広く知らしめたいことから、「社会参加のすゝめ」としました。主な機能は2つあります。
1つはスマートフォンの位置情報や歩数などのデータを用いたユーザーの外出行動の計測です。GPSにより滞在した場所や時間を測定したり、歩いた距離や経路、歩数を地図上に表示したりします。このデータを分析してその人の社会参加の度合いを4段階にランク分けし、上から「達人」「師匠」「上手」「駆出」の称号を与えて評価します。開発を担当する日立製作所の鎌田裕司さんは「ご自身の社会参加の状況を認識し、より高いレベルに挑戦するきっかけにしてほしい」と話します。
もう1つの特徴は、JAGES機構の過去の調査研究から分かった、社会参加の意義に関するレポートの配信です。
「高齢者の健康にとって『笑うこと』や『出かけること』などが有効であることを示すJAGESの研究論文は山ほどあります。そうした科学的分析を一般の方でも読みやすいコラムにして配信し、社会参加が介護予防につながると気づいていただければと思います」(鎌田さん)
日立はアプリ開発を進めていた2020年11月から2021年3月にかけて、JAGES機構と共同で実証実験を実施。90人ほどの高齢者に約4カ月間、アプリを使用してもらい、行動データを計測して評価しました。それと並行して、社会参加を促すコラムを配信したところ、「一定の割合の方の社会参加行動が活発化したことが確認できた」といいます。
10兆円の介護費抑制に挑む
鎌田さんは、アプリ開発の背景をこう指摘します。
「高齢者の介護費は年間10兆円以上にもなり、高齢人口の増加とともにさらに増えていきます。現状でも社会的負担は非常に重く、持続可能な社会保障とはとても言い難い状況です。そこでJAGES機構の協力のもと、日立の技術でこの課題解決にチャレンジしてみようと思いました」
JAGES機構は20年間にわたり、60以上の市町村、延べ75万人を対象に追跡調査をしてきました。その結果、社会参加が活発であるほど、要介護認定の割合が低いことがわかりました。
同機構の代表理事で千葉大学予防医学センターの近藤克則教授は「愛知県の武豊町で7年間にわたって行った調査では、高齢者に季節行事や趣味活動、地域の子どもとの交流などの社会参加を促すことで、要介護認定を受ける確率や認知症を発症する確率が、有意に下がる結果が確認できています」と説明します。
企業や自治体との連携をめざす
日立では、このアプリで集積された高齢者の行動データを活用して、ユーザーに介護予防に対する意識や行動の変化を促すとともに、企業や自治体と連携して社会参加を目的としたさまざまなサービスを開発・提供し、人々が幸せで豊かに暮らすことができる持続可能な社会の実現に貢献していくとしています。
例えば、保険会社であれば、アプリ利用者の一部を対象とした介護保険料の割引などが考えられます。これにより、利用者の社会参加が活発であると要介護認定リスクが減り、保険会社として支払いのリスクが減ることが期待できます。また、銀行や小売業、不動産業など、高齢者向けの新事業を検討している企業や団体と連携し、サービスの創出を支援していきます。
高齢者の社会参加を促すアプリ「社会参加のすゝめ」。近藤教授は、今後の広がりに期待を寄せます。
「アプリの利用者にとって、自分の健康状態とハピネスが高まるツールであると同時に、事業者には高齢者に喜んでもらえるサービスの基盤となる。本アプリが多数の高齢者の方々に浸透し、暮らしているだけで幸せになれる、健康を保てる、そんな健康長寿社会に貢献できればと思っています」