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「日立のさらなる成長にはD&Iが原動力に」D&I担当役員が語る多様性の意義

ロレーナ・デッラジョヴァンナ執行役常務

性別や年齢、障がいの有無や国籍などの属性にかかわらず、それぞれの個性を尊重して良いところを生かしていこう――。そんなダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括、D&I)の考え方が日本社会に広がるなか、日立製作所は、2030年度までに「役員層に占める女性および外国人の割合」をそれぞれ30%に引き上げることを目標としています。

日立でダイバーシティ推進の旗振り役を務めるのは、イタリア出身のロレーナ・デッラジョヴァンナ氏。2021年4月に執行役常務に就任し、目標達成のための戦略を発表しました。D&I戦略を進めるデッラジョヴァンナ氏はこれまで、どのようにキャリアを積み重ね、多様性とどう向き合ってきたのか、話を聞きました。

自分と違う考え方を知ることの大切さ

ーーまずはあなた自身のことについて、うかがいたいと思います。日立製作所でキャリアを積むことになったきっかけと、仕事のやりがいを教えてください。

一言でいえば、私が日立に入社したのは「チャレンジ」が好きだったからです。エンジニアリングの知識や経験はありませんでしたが、知らない分野だったからこそ、興味を持ちました。心地よい居場所(コンフォート・ゾーン)を飛び出して、新しい挑戦をしたかったのです。日立は大きな会社で、世界中でさまざまなビジネスを展開し、働く人々が多様性に富んでいるところにもひかれました。

実際に入社して、環境や文化が異なる、複数の会社で働いてきたように感じています。多様な分野に接し、一つひとつ役割を果たしてきたことで、多くのことを学びました。

日立に入社したときから今まで心がけてきたのは、ビジネスの現場を正しく理解することです。できる限り工場に足を運び、何を開発して製造しているのか、大きな変圧器や小さな部品にいたるまで何に使うのかを担当者に問いかけてきました。ビジネスの知識が増えるほど、自分が貢献できることが広がるからです。

ーー現場の担当者とのコミュニケーションを通じて、ビジネスをより深く理解しようとしていたのですね。

現場での積極的なコミュニケーションは、多様な背景を持つ人たちと一緒に働くうえでも、役に立ちました。心を開けば開くほど、自分と違う考え方を知ることができ、ビジネスをより効率的で生産的なものにすることができるのです。

11年前、イギリスのロンドンに赴任したときは、できるだけイタリア人コミュニティの外に出て、様々な国籍の人と交流するようにしました。私はいつも「まわりの人にイタリアの考え方を押し付けていないか」「偏見なく接することができているか」を自分に問いかけています。気を付けないと、失礼な振る舞いをして、相手にいやな思いをさせるかもしれないからです。

相手が自分と違う考え方をするときには、理由を探すようにしています。こうしたコミュニケーションの経験はダイバーシティの推進のほか、環境問題など新しい分野への取り組みにも役立っています」

挑戦するのをやめることこそが失敗

日立の111年の歴史で、女性が執行役常務になるのは初めて

ーー日本でも多くの企業がダイバーシティを促進していますが、その一方で、女性の社員が管理職になるのをためらう傾向があると指摘されています。どんな背景があると考えていますか。

日本に来て感じるのは、欧州と比べ、失敗を避けようとする傾向が強いことです。「責任のある立場になると、失敗するリスクが高まる」と考えるのではないでしょうか。「自分は新しい職務を担う力がある」と自信を持つのではなく、「失敗してしまったらどうしよう」と恐れてしまうのです。

しかし、新しい経験ならば、うまくいかないことが多々あります。それは、本当の意味での失敗ではありません。挑戦するのをやめてしまうことこそ、失敗なのです。挑戦しなければ成功することはないからです。

もちろん同じ失敗を何度も繰り返すのはよくないですが、よほど極端な例でないかぎり、失敗は修正できます。むしろ失敗をするリスクが大きいときこそ、新しい経験を得るチャンスです。失敗を恐れるよりも、情熱と好奇心を持ってポジティブに捉えてほしいと思います。

ーーそのほかの社会的要因は考えられますか。

世間に浸透している「ジェンダーの枠組み」が、女性の挑戦を妨げている面もあるかもしれません。一般的に「野心を抱くことは男性らしい」というイメージがありますよね。

でも、子どものころを思い出してみてください。誰でも夢を持っていたはず。それを実現しようとするのは自然なことです。自分なりの道徳や倫理を持ちながら志に向かっていくのは、悪いことではないはずです。

日立の女性社員との面談では、私の経験を紹介し、彼女たちに「発言する」「野心を持つ」「挑戦する」ことを勧めています。「私を含めて誰もが失敗をする。失敗は成長するためのチャンス」と伝えています。社員に伝え続けることで、会社の考え方や文化を、必ず変えることができると信じています。

完璧をめざしすぎないことも大切

ーー多様な人々とコミュニケーションをとるうえで、言葉の問題は避けて通れません。日本では、英語での会話に苦手意識を持つ人が多いですが、「失敗を恐れる」というマインドから脱却しないといけないですね。

私は英語のネイティブスピーカーではありませんが、誰に対しても英語で積極的に話しかけるようにしています。完璧な英語を話すことよりも、相手が何を伝えようとしているのか、理解するほうが大切です。実は今、日本語の勉強にも励んでいるのです。

日立は国際的な共同開発プロジェクトをいくつも手がけていますが、エンジニア同士は英語で流ちょうに話せなくても、最終的に理解しあえるようになります。

おそらく日本の人々は、高いクオリティを求めるあまり、完璧主義になる傾向が強いのでしょう。これは素晴らしいことですが、完璧をめざしすぎないことも、ときには大切だと思います。

「天才」といわれたバスケットボールのマイケル・ジョーダン選手だって、何度もシュートを外しながら高みをめざしたはず。私たちのコミュニケーションも同じです。仕事の環境ならば上司が部下の失敗をとがめるのではなく、受け止める姿勢が大事でしょう。

ーー日立はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の促進のため、2020年4月にCDIO(Chief Diversity & Inclusion Officer)というポジションを新設し、あなたが就任しました。これまで取り組んできたことと今後の抱負について教えてください。

日立のCDIOとして、私は新人からベテランまで多くの社員に「日立のさらなる成長には、D&Iが原動力になる」と伝えてきました。各事業のリーダーとアイデアを共有し、事業にD&Iを導入する方法を一緒に考えてきました。私たちは事業戦略に沿ってD&Iを活用する新たな一歩を踏み出す準備ができたと感じています。

D&Iは女性の活用にとどまりません。日立は性別、国籍、人種、宗教、年齢、障がいの有無、性的指向、バックグランドの差異を個性として捉えます。誰もがユニークな存在であり、違いゆえに排除されてはなりません。

多様性を受け入れ、社員がそのことを実感できる職場づくりをめざして、5つの柱からアプローチをしていきます。具体的なアクションとしては、「無意識のバイアス(偏見)」に対処する研修、従業員リソースグループ(共通の特性や経験に基づいて活動する従業員主導のグループ)の支援、D&Iを考慮した採用活動の検討、将来のリーダー層とのメンタリングやグループセッションを通じたコミュニケーション、そしてD&Iに対する経営層のコミットメントについての情報発信などを進めていきたいと思っています。