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日立の「ダイバーシティ戦略」が加速 2030年度までに経営層の女性・外国人比率を30%に

日立のD&I戦略について説明するデッラジョヴァンナ執行役常務

多様な個性を尊重し、その人の強みを生かすことが、組織の持続的成長につながる――。こうした考えのもとに、日立製作所は「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」戦略を加速させています。4月20日には、ロレーナ・デッラジョヴァンナ執行役常務がオンライン記者会見を開き、「2030年度までに、役員層(執行役と理事)に女性・外国人が占める割合をそれぞれ30%に引き上げる」と発表しました。

女性初の執行役常務に

「日立で働く35万人の社員はひとりずつ、たくさんのスキル、能力、アイデア、経験、価値を持っています。私たちはこれらのダイバーシティ(多様性)を活用できなくてはいけません。それは日立がイノベーションを実現し、新しいマーケットに参入し、優秀な人材を惹きつける大きな機会を生み出します」

オンライン会見の冒頭でこう語ったのは、CDIO(チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー)を務めるロレーナ・デッラジョヴァンナ執行役常務です。

イタリア出身のデッラジョヴァンナ執行役常務は、日立の欧州グループで経験を積みました。2020年4月からは日本でCDIOを務め、兼任するかたちで、2021年4月に執行役常務になりました。日立の111年の歴史で、女性が執行役常務になるのは初めてのことです。

企業の成長に不可欠なD&I戦略

オンライン記者会見に臨んだデッラジョヴァンナ執行役常務

「日立がグローバルリーダーになるためにD&I戦略は不可欠」と、デッラジョヴァンナ執行役常務は強調します。D&Iの推進と財務業績の向上には相関性があり、組織のイノベーションや社員のエンゲージメント(思い入れ)が高まるという調査があります。投資家がD&Iの進捗を投資判断の要素に入れているのも、こうした理由が背景にあるからです。

「誰もが自由に自分たちの価値やアイデアをもとにして、事業に貢献できる環境にあるかどうかは、事業の発展に大きく影響します」(デッラジョヴァンナ執行役常務)

ダイバーシティがイノベーションを生み出した具体例として、デッラジョヴァンナ執行役常務は、イタリアでの鉄道システム事業を紹介。同事業では、日本とイタリアの技術者が言葉の壁を乗り越えて協力しあい、イタリアの公共鉄道向けに「二階建て新型車両」を開発しました。

また、現在進行中のAIの研究開発においても、世界各地の拠点から技術者が参画し、多様な専門性や異なる社会文化的背景の視点が生かされているといいます。

D&I戦略のリーダーとして尽力

日立のD&I戦略は、2000年の女性活躍支援から始まり、2012年以降は事業とダイバーシティの連携を進めるなど、約20年の歴史があります。

2021年4月には、経営層における女性と外国人の割合がいずれも10%を占め、当初の目標を達成。女性管理職の人数は、2020年10月時点で800人に達しました。

デッラジョヴァンナ執行役常務もこの1年、D&I戦略のリーダーとして目標達成のために尽力してきました。グローバルプランの設計や評価をして、競合他社との比較を行ったり、中長期目標を設定して、ビジネスとの連携を進めてきました。また、24回にのぼる「人財委員会」のセッションに参加して、将来のリーダー候補や人財像について話し合いを繰り返しました。

さらに、女性のエンパワーメント(活躍推進)のため、女性リーダーのメンタリングプログラムも手がけました。その結果、「日立には非常に優秀な人材がたくさんいる」と実感したのです。

ジョブ型雇用がD&I戦略に貢献

母国イタリアからイギリス、日本へと活躍の舞台を広げ、異文化に触れてきたデッラジョヴァンナ執行役常務

会見では、「2030年度までに役員層における女性と外国人の比率をそれぞれ30%にする」という目標を実現するための具体策も発表されました。

全体としては、KPIを公表して、進捗をモニタリングし、毎年結果を開示することを掲げました。そして、KPIを設定する5つの柱として、(1)リーダーのコミットメント、(2)組織文化、(3)採用活動、(4)リテンション(人材維持)、(5)昇進を示しました。

「リーダーのコミットメントを示すため、社内でのコミュニケーションを強化します。組織文化の変革については、バイアス(思い込み)をなくすためのトレーニングを実施するとともに、人財交流を活発にして、なるべく異文化など、自分が過ごしてきた場所の外に身を置くことを促します」(デッラジョヴァンナ執行役常務)

また、「採用活動」や「昇進」においては、「日立で取り入れているジョブ型雇用が、D&Iの推進に寄与している」と、CHRO(最高人事責任者)を務める中畑英信執行役専務は指摘します。

記者会見に同席した中畑英信執行役専務

日立全体の55%を占める海外の従業員19万人は、すでにジョブ型で採用されています。ジョブ型雇用とは、職務内容にもとづいたポジションを決め、必要なスキルや経験を明確にしたうえで、人財を採用することです。

「旧来の日本型システムである終身雇用制度は、メンバーシップ型と呼ばれ、昇進などの際に無意識のバイアスが働くことがあります。ジョブ型は採用や昇進の基準が明確になり、ジェンダーや国籍も関係なくなるため、非常に大きな影響があると考えています」(中畑執行役専務)

デッラジョヴァンナ執行役常務は、最終的には「女性管理職の比率を女性従業員の比率と同程度にしたい」と考えています。ワークライフバランスなどを支援することはもちろん、「しっかり理解してからでないと責任のあるポジションを引き受けたくないという女性が多いので、失敗をおそれず、自信を持ってもらうためエンパワーしたい」と力強く話しました。

好奇心にあふれるデッラジョヴァンナ執行役常務にとって、仕事はいつも「未知との出会い」だったといいます。

「技術、ビジネス、異文化、あらゆる面でわからないことがあれば、現場を訪ねて質問し、人とのコミュニケーションを取ることを心がけてきました。仕事もプライベートも情熱を持って楽しんでいるからこそ、今の私があるのです」