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【図解】信号技術で広がる鉄道の自動運転、自動車との違い

米国・ホノルル 完全自動運転都市鉄道システム「Skyline」

鉄道の自動運転が大きな転換点を迎えようとしています。JR九州は2024年3月、香椎線西戸崎(福岡市東区)-宇美(福岡県宇美町)間の25.4kmで、列車の自動運転を開始しました。運転士資格を持たない係員のみでも、運転室において緊急停止操作を担当することで、列車がドライバレス運行できるようになったのです。私たちの日常生活を支える交通網を維持するため、鉄道は自動運転にますます置き換わっていくと予想されます。自動運転はどうやって実現したのか?同じように注目される自動車の自動運転と何が違うのか?図表を使いながら、分かりやすく解説していきます。

鉄道の自動運転は既に実用化

鉄道は、どれだけ自動運転を達成しているか、GoA(Grades of Automation)という基準でレベル分けをされています。日本では、以下の表のように、レベルは「0」「1」「2」「2.5」「3」「4」の6段階です。

表からもすぐに気付くかもしれませんが、鉄道の自動運転は、新橋-豊洲間を走るゆりかもめのような新交通システムで最高レベルのGoA4まで実現しています。その歴史も古く、1981年に開業した神戸新交通ポートアイランド線がGoA4の無人運転の始まりです。また、運転士が運転室に乗務し、運転士の責任の下に自動運転を行うGoA2も地下鉄などで採用されています。運転士が乗務せずに、運転資格のない係員が運転室に乗務するのはGoA2.5で、「なぜ今更、香椎線のGoA2.5が始まったのか?」と思う人もいるかもしれません。

それは、既に走っている鉄道を自動運転に置き換えるか、専用の線路を新たに用意するかで実現の難しさが違うからです。両者の違いは明確です。GoA3やGoA4を実現している鉄道は、列車や電車にとって障害物となるものが、線路から侵入してこないように最初から設計されています。駅のホームドアや、高架橋で続く線路。何かが侵入してくるような踏切もありません。

侵入が難しい高架橋上の線路

一方、多くの鉄道は、ドライバレス自動運転用に整備されておらず、踏切や駅のホームから線路に人が侵入できる状態です。そのため、線路への侵入を防ぐホームドアの設置や、列車や電車の前方を監視する装置を導入しなければいけない課題があります。

鉄道と自動車の自動運転の違い

さて、自動車の自動運転のレベル分けや実用化はどうでしょうか。以下の表のように、自動車の自動運転のレベルも、実は鉄道と同じように6段階に分けられています。

レベル2までは、運転に対する責任を担うのは人であるドライバーで、鉄道と同じと考えられます。レベル3からは自動運転システムが操作の主体となりますが、条件付です。高速道路などの限定された領域のみで自動運転ができ、自動運転を継続できなくなった場合は、ドライバーが自動運転システムからの要請に応え、いつでも運転に戻らなければいけません。

ドライバーが運転に戻らなくていいのはレベル4からです。このレベル4による自動車の運行が2023年、日本で初めて、福井県永平寺町の約2kmの公道で始まりました。この公道は一般の車が走らない専用道路です。一般的な車道、歩行者や自転車が多く行き交う場所で運行するには、障害物の検知など、行きたい方向の異常を認識し、必要により回避できる高度な自動運転システムが必要です。ここに、鉄道と自動車の大きな違いがあります。鉄道は、レール上を走り、運転指令所から全ての列車をコントロールでき、レールに人が侵入することを防げるため、高いレベルの自動運転を実現でき、普及もしています。鉄道の自動運転が進む理由を図でまとめました。

一見、鉄道は自動運転が難しくないようにも見えますが、鉄道側にも難題はあります。それは、自動車に比べて、ブレーキが効き始めてから、完全に停止するまでの距離である制動距離(ブレーキ距離)が長いことです。時速80kmで200~250m、時速130kmだと約600mの制動距離を必要とします。これは自動車の3倍以上です。つまり、鉄道は障害物をより遠くで認知し、ブレーキを掛けられるようなシステムでないといけません。また、列車や電車の乗客は、自動車に比べて圧倒的に多く、安全性が一層重視されます。

ドライバレス自動運転を支える信号システム

運転士が乗務しない鉄道のドライバレス自動運転を実現させるのが、地上と車上に取り付けられた、ATO(Automatic Train Operation、自動運転装置)やCBTC(Communications-Based Train Control、無線式列車制御装置)といった信号システムです。

ATOは自動的に加減速を行い、決められた停止位置への列車の自動停止や、車両ドアの自動開閉を可能にします。そして、近年登場したCBTCにより、列車と地上装置間の双方向通信が実現され、この機能により運行できる列車の量が増えました。CBTCの詳細を図で説明します。

図のように、これまでは一定のブロック(地点)を閉そく区間として設定して、安全を確保していました。同一の閉そく区間に二つの列車を入れなければ、同一方向に進む列車同士がぶつかることはあり得ません。逆に言えば、安全な距離があっても、閉そく区間内に先に列車がいた場合、後続の列車は止まることを強いられます。一方、CBTCでは、走っている列車同士で安全距離を保てられれば、後続の列車は走行ができるようになりました。そのため、無駄に止まる時間がなくなって、より過密なダイヤを組めるようになり、遅延からの回復も早まりました。

IT技術との連携でMaaS発展に貢献

このような自動運転システムは、海外の方が先行して導入が進んでいます。例えば、イタリアのミラノ地下鉄M4線。無人運転であるGoA4が導入されています。1日当たりの乗客数は約4万人もいますが、日々安全に運行されています。

イタリア・ミラノ 「ミラノ地下鉄M4線」

日立製作所の三田仁士さんは、自動運転を実現する信号システムの導入や発展が日本でも不可欠だと話します。地方の鉄道だけでなく、都市部を走る鉄道でも運転士不足の懸念が生じてきています。運転士不足はさらに深刻化するとみられ、鉄道のダイヤを維持するために、自動運転の普及が待たれます。また、自動運転は、システムが最適な運行を導き出し、省エネに貢献するエネルギーマネジメントを可能にします。

自動運転が普及すれば、乗客にもメリットがあります。人員不足が解消されることで、「乗務する係員は、よりきめ細かいサービスを乗客に提供できるようになります」(三田さん)

さらにIT技術(Information Technology)と信号システムとの連携によって、鉄道はもっと魅力的な移動手段となります。定刻通りの運行から、需要に応じた運行に変わる「ダイナミックヘッドウェイ」が普及するかもしれません。駅や列車内に設置された各種センサーからリアルタイムで取得したデータを基に、混雑率を把握することで、今後需要がどのように変化するかが予測可能になっています。予測データに基づいて最適なダイヤを生成し、信号システムと連携することで、リアルタイムな需要に応じて列車が運行できます。リアルタイム需要に応えた運行が普及すれば、適切な輸送が行われ、乗客は混雑が緩和された鉄道でより快適に移動できるようになるのです。

インタビューに応える日立製作所の三田さん

日立は、信号システム事業に注力するため、日立レールがフランス・タレス社の信号システム事業を買収しました。三田さんは「日立グループの信号システムやデジタル技術とタレス社の技術をかけ合わせ、MaaS(Mobility as a Service、モビリティ・アズ・ア・サービス)を実現できるシステムを開発していきたい」と意気込みます。