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日立の人:CO2排出量50%減 欧州初トライブリッド車両開発のリーダー

2024年2月20日 森 英信

持続可能な社会の実現に向けて、環境にやさしい移動手段として存在感が高まっている鉄道。ヨーロッパを拠点に鉄道車両の開発を手がける日立レールは、イタリアの大手鉄道会社向けに、ヨーロッパ初となる三つの動力源を持つ車両「Blues(以下、ブルース)」を開発し、注目を集めています。

既存のディーゼル車両と比べてCO2の排出量を50%削減できる同車両の開発をリードしたのが、同社のプロジェクトマネージャー、コシモ・リ・グレッチ(Cosimo Li Greci)さんです。

「持続可能な社会の実現に向けて貢献できるプロジェクトに参加していることを誇りに思います」というコシモさんに、話を聞きました。

環境問題や人々の暮らしに貢献

ブルース

シチリアのパレルモで生まれたコシモさんは、大学で機械工学を専攻しました。イタリアは自動車産業が盛んで、コシモさんもはじめは自動車業界に強い興味を持っていました。しかし、大学生活の中で鉄道業界に関するさまざまなトピックに触れ、次第にその魅力に引き込まれていったといいます。

「技術面の素晴らしさと、将来の変革の可能性に興味をそそられました。そして、環境への配慮や混雑の緩和など、社会課題の解決にも貢献したいと感じるようになりました」

コシモさんは2006年に大学を卒業し、エンジニアリングのコンサルティング企業に勤務しました。鉄道関連のコンサルタントとして、いくつかのプロジェクトで経験を積んだ後、2018年に日立レールに入社しました。

「技術で社会に貢献する、世界有数のテクノロジー企業である日立グループに所属できることを、大変嬉しく思いました」

プロジェクトマネージャーに任命

インタビューを受けるコシモさん
インタビューを受けるコシモさん

コシモさんは日立レールに入社した当初、イタリアの大手鉄道会社Trenitalia(以下、トレニタリア社)向けの「Rock(以下、ロック)」という、2階建て車両のプロジェクトを担当。列車が旅客を乗せて運行をするための型式認可(法規・技術要件・安全性を満たした製品に与えられる認証)や検証計画の管理に加え、インフラ事業者との調整などを担いました。

「私たちの目標は、型式認可を予定通り取得し、納入することでした。イタリアと日本のチームの協力で、契約納期よりも1カ月早く達成できました。さらに、2年間で100編成を納入するという成果も出すことができました。これは強固なチームワークと綿密な計画の賜物です」

このロックでの実績が高く評価され、2021年、コシモさんはブルースに関わることになります。プロジェクトは2017年から開始し、日立レールとトレニタリア社は2018年末、最大135編成の列車供給と15年間のメンテナンスに関する契約を締結していました。

その後、コンセプトデザインの完了から納入に至るまでの計画を遂行するため、コシモさんがプロジェクトマネージャーに任命されたのです。

環境と乗客にやさしい車両を実現

「ブルースは、ヨーロッパで初となる三つの動力源を搭載したトライブリッド車両で、技術的にも非常に大きな挑戦でした」

三つの動力源とは、電気、バッテリー、そしてディーゼルエンジンです。電化されている路線ではパンタグラフからの給電で走り、電化されていない路線ではバッテリーをメインとして走行、充電が不足した際にはディーゼルエンジンに切り替えて走ります。

ブルースのバッテリー

「ヨーロッパの鉄道は約40%が電化されておらず、ディーゼル燃料の列車がいまだ数多く走っています。持続可能な社会を実現するためには、走行時にCO2を排出しないバッテリーを搭載した車両が不可欠で、走行状況によって動力源を切り替えられるハイブリッド方式は何としても実現したいシステムでした。それだけでなく、車体に廃車後にリサイクル可能な素材を使用するなど、環境負荷を抑える工夫も行いました」

ブルースはさらに、乗客の安全性や快適性、周辺環境にも気を配っているといいます。

「乗客の安全を確保するための防犯カメラも備えています。また、窓も広くとることで、車内をより明るくできるようにしています。さらに、駅での発車、到着時にバッテリーを使うことで、駅周辺の騒音も軽減します。環境にも乗客にもやさしい車両づくりをめざしました」

チーム一丸で困難を乗り越える

ブルースの開発におけるさまざまな課題の管理、契約や納期の遵守、品質基準の適合など、プロジェクトの全責任を担うコシモさん。プロジェクトには技術的側面を担当するエンジニアリングチーム、品質に関してサポートするチーム、計画の立案・管理するプランナー、購買や調達活動の専門家などが参加しました。

イタリアや日本など、異なる拠点の多様な人たちが協働するうえで、コシモさんは、「チームワークの精神が重要です」といいます。

「私たちのチームでは連携を強化するために、定期的なミーティングを開いて課題や計画、目標に関して積極的に議論しています。関わる全ての人々との協力と連携を大切に考えているため、オープンな情報共有を心がけています」

プロジェクト遂行には、技術的な要件や型式認証を得るための規制への対応、新型コロナウイルス感染拡大の影響など、さまざまな障壁がありました。しかし、これらの困難をチームワークによって乗り越えてきました。

「未曽有の困難でも、私たちは、ブルースを予定通り完成させてお客さまに届けるために、チーム一丸となって困難を乗り越えました。たとえば、コロナ禍では、列車の組み立ての際、作業者同士の距離を保つための新しい工具や方法を採用しました」

技術開発を通じて人々を幸せにしたい

ブルースは2023年8月までに、35編成がトレニタリア社に納入されています。現在、トスカーナやラツィオなど、イタリアのいくつかの地域で、通勤電車などの用途で利用されています。

「ブルースに初めて乗ったときはとても興奮しました。紙の上の設計図が実際に形になったのを実感し、これから人々を乗せていくことに胸が高鳴ったのを今でも覚えています。ヨーロッパ各国は交通の脱炭素化をめざしていますが、ブルースを各国に届けることで、それに貢献できると信じています」

そう話すコシモさんは、今後について問われると、次のように熱意を込めて語りました。

「私たちの作った列車を通して、人々の日常生活が少しでも幸せになれば、こんなに嬉しいことはありません。そして、その列車が、持続可能な社会の実現に貢献できるものであるべきだと考えています。今後も引き続き、さらなる列車の進化に向けたプロジェクトに、深く関わっていきたいと思います」

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