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日立の人:EVバッテリー製造を自動化 モノづくりを変革するエンジニア

持続可能な社会の実現に向けて、CO2排出量の削減効果が期待される電気自動車(EV)の需要が高まっています。こうした中、日立グループのJR Automationは、あるプロジェクトに着手しました。同社は、ロボットシステムインテグレーターで、産業用ロボットやAI(人工知能)などを活用し、製造や流通システムを自動化する事業を展開しています。

プロジェクトを牽引したのは、同社所属のアプリケーションエンジニア、マルコス・メリノ(Marcos Merino)さん。「今の仕事が面白くて仕方ない」と語るマルコスさんに、仕事に懸ける思いや今後の展望を聞きました。

父親の影響を受けモノづくりの世界に

インタビューに応じるマルコスさん

マルコスさんがモノづくりに惹かれるようになったのは、木工好きの父親がきっかけです。

「父が木材で何かを作ったり、車を修理したりするのをいつも見ていました。そのうち自然と、父が切った木片で新しいモノを作ることに夢中になっていきました」

その後、モノが動く仕組みへの興味も強まって、大学では機械工学を専攻。卒業すると迷うことなく、エンジニアとして働く道を選びました。

「最初に入社したのは航空宇宙産業の関連部品を作る会社で、主に製品の試験を担当しました。次に入った会社はシステムインテグレーターで、自動車部品を作る機械を開発していました」

両社で計2年半ほど働いたあと、JR Automationに入社。現在に至るまで、14年にわたって経験を積んできました。

製造システムの全体像を描き実装

ロボティクスやAIなどの技術で課題解決に導く

JR Automationに入ったマルコスさんは、製造システムの部分的な設計から、徐々に全体の設計を任され、プロジェクト全体を見ていくことになりました。

「お客さまと対話しながら課題を明らかにし、課題解決に最も効果的な機械やプログラムを考えます。製造や流通システムの全体像を描き、実装するのが私の仕事です。コストや納期、環境負荷などのあらゆる条件を網羅し、最適な解決策を提案します」

マルコスさんが担当する業界は、航空宇宙や食品、医療など広範にわたります。なかでも印象深いと語るのは、カナダの大手EVメーカーLion Electricとの協創プロジェクトでした。

環境貢献につながる協創プロジェクト

カナダでは急速にEVの需要が高まる

近年、ガソリン車に代わるエコな車として注目されているEV。カナダのケベック州では、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止するという方針が決まり、国や州による積極投資でEVの普及拡大をめざしています。

EVの製造力強化が急務となる中、Lion Electricでは、EVの心臓ともいえるバッテリーを短期間で量産することが求められていました。同社は2019年、EVバッテリー製造ラインの立ち上げをJR Automationへ依頼。このプロジェクトを率いたのがマルコスさんです。

「バッテリーは、子どもたちの通学の足として欠かせないEVスクールバス向けです。持続可能な社会の実現に向けた大きなプロジェクトを任されて、ベストを尽くそうと思いました」

最適な製造システムはどのようなものか、プロジェクトメンバーたちと話し合いを日々重ねたといいます。

「ロボットや制御システムなどのサプライヤーをまとめ、AIも活用しバッテリーを自動で製造できるシステムの構築をめざしました。同時に、製品の構築方法を見直し、必要な機器の量を削減することで、製造時の環境負荷を極限まで小さくすることも追求しました」

1年未満で製造ライン立ち上げ

稼働されたEVバッテリー製造ラインの一部

最新のテクノロジーを生かした最適なシステムを模索し続けたマルコスさん。思いもよらない困難にも直面したと振り返ります。

「このプロジェクトには新型コロナウイルスという未知の困難も加わりました。国・地域をまたいだメンバー同士で集まることが難しいうえに、必要な部品が調達できないという事態でした。希望も出口もないような、絶望的な気分になったときもありました」

しかし、マルコスさんはオンラインでの密なコミュニケーションを続け、別の調達ルートを使うなど、できることを探りながら一歩ずつ前進。プロジェクト開始前には数年かかる見込みでしたが、実際には1年もかからず、安全で高効率、高性能な製造ラインの完全稼働を実現できたといいます。

「14年間のキャリアにおいて、最も顧客と強い協力関係を築けたプロジェクトのひとつだったと感じています。コロナ禍での新たな生活様式のなかで、メンバー全員が団結できたことも一因だったのかもしれません。それぞれが自社の価値観を大切にしつつも、互いのことを思い合い、柔軟な発想でともにゴールをめざすことの大切さを改めて感じる経験になりました」

こうして生み出されたバッテリーは今、EVスクールバスに搭載され、子どもたちを乗せて走り始めています。

未来のために、今 仲間と力を尽くす

切磋琢磨するチームメンバー

2019年に日立グループとなったJR Automation。日立の「社会イノベーション」、すなわち、デジタルとグリーンテクノロジーによるイノベーションを通じて社会課題を解決するという理念は、マルコスさんの考えとも合致するものだったといいます。

「私は、5年、10年という長期的なビジョンを持って、顧客にも社会にもポジティブなインパクトをもたらしたいと思っています。それは日立のめざす方向と一致していますね。現在の仕事を通じて次の世代が生きる世界にも好影響を与えたいですし、そうできると信じています」

「今の仕事が大好き」とはにかみながら語るマルコスさん。仕事のいちばんの醍醐味はどのようなことでしょうか。

「常に新しい挑戦があり、クリエイティビティに富んでいること。これまでの常識にとらわれないことを大切にしています。そして、社会や人々のために挑戦を続ける仲間たちと働けているのは何より幸せです」

よきエンジニア、よき父親でありたい

世の中にポジティブな影響をもたらしたいと語るマルコスさん

マルコスさんには3人の息子がいて、家族と過ごす時間を大切にしています。息子たちは今ロボットづくりに夢中とのこと。まるで、マルコスさんの幼少期をたどっているようです。

「そうかもしれません。でも、私が仕向けているわけではありませんよ(笑)。モノづくりの世界は本当に面白いから、心を奪われるのはとても自然なことなのです」

「よきエンジニアであり、よき父親であること」。それがマルコスさんの目標です。それゆえ、Lion Electricとの協創プロジェクトに貢献できたことには格別の喜びがありました。

「環境負荷を減らして、より良い社会に近づけるための仕事に関わることができて誇りに思います。いつか子どもたちが『お父さんの仕事は世の中にポジティブな変化をもたらしているんだ』と実感してくれる日が来たら、こんなに嬉しいことはないですね」