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日立の人:「ごみがない社会を」サーキュラーエコノミー実現めざすエンジニア

2024年1月11日 近藤 雄生

持続可能な社会の実現をめざして、2015年にEU(欧州連合)で新しい経済システムを表す言葉が掲げられました。「サーキュラーエコノミー」です。廃棄物をなくし、資源を循環させることを意味する経済システムで、日立グループは今、現実のものとするために研究開発を重ねています。

その研究開発を進めているのが、日立ヨーロッパのエンジニア、クリスティーナ・ヴェラ(Cristina Vera)さんです(所属は2023年10月取材時点)。

子どものころから地球環境を意識してきた彼女にとって、この研究に携わるのは「本当に嬉しいことだった」といいます。サーキュラーエコノミーとは何か。それを実現するためのプロジェクトとは。そして彼女の思いは――。クリスティーナさんに、聞きました。

環境問題への意識の芽生え

スペインの南部で育ったクリスティーナさんは、子どものころから、気候変動などの環境問題を身近に感じていたといいます。

「私が育った地域は干ばつや熱波、豪雨に襲われることが多くあり、砂漠化のリスクが高まっていました。農業地域のため、気候変動は生活に直結する重要な話題でした」

こうして、地球環境への意識を強く持つようになったクリスティーナさん。環境問題を解決するには、大量廃棄、大量生産という経済のあり方を変えていくことが重要だと考え、大学院では産業や工学の分野を研究しました。卒業後、製造工程に関する技術コンサルタントなどを経験し、エンジニアとしての専門性を高めていったといいます。

キャリアを重ねる中で彼女は、ビジネスに対する人々の意識が変化しつつあると感じるようになりました。

「私が仕事を始めたころ、すでに成功している事業をさらに成長させるために重視されていたのは、コスト削減のみでした。それがだんだんと、地球環境をどう守るかに重点が移っていったのです。製造過程でエネルギー消費や温室効果ガスの排出をいかに減らせるか。新たに使用する材料をどうすれば少なくできるか。そうした観点が不可欠になったのです。産業活動と環境保護の両立のためには、取り組むべき課題がたくさんあります。その悩みに向き合い、社会に変化をもたらすことができる企業で働きたいと思うようになりました」

社会全体が地球環境へと意識を向けるようになっていく中、クリスティーナさんが自分の思いを実現するために選んだのは、日立ヨーロッパ R&Dセンターでエンジニアとして働くという道でした。同センターは、社会のさまざまな課題解決のために、研究開発や技術を活かしてイノベーションを起こすことをめざしています。

「廃棄しない」サーキュラーエコノミー

「私たちが日々利用する資源は有限で、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)は目前です。世界が持続可能であるためには、生物多様性を尊重し、使う資源やCO2排出量を減らさなければなりません。そのためには、資源を循環させながら、経済成長を保証する経済システムを実現することが必要です。それがサーキュラーエコノミーです」

サーキュラーエコノミー(循環経済)は、資源を採り、製品を作り、廃棄するというリニアエコノミー(線形経済)に対する概念として2015年にヨーロッパで提唱されました。概念の核となるのは、資源の効率的・循環的な利用により、原材料を新たに使わず、廃棄物を減らすということです。

リデュース、リユース、リサイクルのいわゆる"3R"は、サーキュラーエコノミーを構成する要素の一部です。それだけでなく、資源調達や製品設計といったプロセスを根本から見直し、廃棄物を出さない仕組みを作り出すことが必要になります。

それは、クリスティーナさん自身が、長く実現をめざしてきたものでもありました。

製品のライフサイクルデータを生かす

数年前から、デジタルを活用した製造業のスマート化に関する研究に取り組んできた日立ヨーロッパのR&Dセンター。その研究を発展させる形で、サーキュラーエコノミー実現のためのプロジェクトがはじまりました。

このプロジェクトでクリスティーナさんが現在取り組んでいるのは、製品のライフサイクルに関するデータを取得し、そのデータをサーキュラーエコノミーのために活用する方法を確立することです。

「EUでは、製品のトレーサビリティ(生産工程や流通状況が追跡可能なこと)を確保するため、自社製品のライフサイクルに関するデータの取得が義務化される流れにあります。製品の生産に使われる材料、製造プロセス、流通、その使われ方や寿命の迎え方などのデータを各企業が提供することが必要になるのです。サーキュラーエコノミーの実現には、そのデータをどのように分析して意思決定を行うかが重要です」

実際にクリスティーナさんは、鉄道車両のデータを活用しサーキュラーエコノミーを実現するシステムの開発に取り組んできました。同システムが実現すれば、企業はデータに基づいた意思決定が可能になります。例えば、有害廃棄物の排出を削減し、最適な部品のメンテナンス時期を割り出し、製品の寿命を延ばすのに役立ちます。さらに、製品が寿命を迎えた際に、部品の最適な再利用の方法を決定できます。

「データを活用する際に機密情報をいかに保護するかなど、乗り越えねばならない課題は多いです。しかし、新たな材料を次々に使い続けていては、地球の環境は近い将来破綻します。あらゆる業界がそのことを自覚し、サーキュラーエコノミーの実現に向けて動き出さなければなりません」

こうした強い思いで研究を続ける中、大きなチャンスが彼女に舞い込んできました。日立グループでエネルギー事業を展開する日立エナジー社への異動です。

「人々の生活に欠かせない、多くの産業活動に関わるエネルギー分野でサーキュラーエコノミーを実現することは、持続可能な社会をつくるための大きな一歩になると考えています。幅広い事業を展開している日立グループの多様性は、イノベーションを生み、社会に貢献するための重要な要素です。これまで私が研究してきたことを実際のビジネスの現場で実現させる機会を得ることができて、今とてもワクワクしています」

無数の生命が生きる地球を守りたい

新たなチャンスもつかみ、ますます多忙になるクリスティーナさん。休みのときは、愛犬と散歩をするなどし、自然の中で過ごすのが好きだといいます。そういう時間を過ごすことは、彼女にとって疲れを癒すとともに、地球への思いをさらに深くさせてくれるそうです。

「たとえば森をゆっくりと散歩すると、本当に多様な生物が暮らしていることを実感できます。この自然は私たちだけのものではないということを肌で感じる瞬間でもありますね。無数の生命が互いに寄り添いながら暮らすこの世界を、私たち人間が損なってはいけないと強く思います」

サーキュラーエコノミーを実現するための道のりは決して平坦ではありません。それでもクリスティーナさんは、この先にある未来について、「ポジティブに考えている」と迷うことなくいいます。

「未来は私たち自身にかかっています。一人ひとりの行動が、コミュニティや製品を購入する業界へ影響をあたえ、未来を形づくっていきます。私は、日立グループ内でサステナビリティをテーマに社員同士をつなげ、知識や意見を共有する活動も行っています。仕事やその活動が、社会のポジティブな変化につながると信じています」