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日立の人:「福島の復興に貢献したい」福島第一原発の廃炉に立ち向かう若き技師
技術者の一人はこう話しました。「我々はメーカーとしての当然の責任を果たしている」。東日本大震災から11年。いま日立は、事故が起きた東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向け、技術開発に取り組んでいます。完全な廃炉までに40年かかるとも言われる先の長いプロジェクトです。
強い放射線を発する「燃料デブリ(核燃料が溶けて炉内の構造物と混ざりあって固まったもの)」をいかに安全に取り出すか。過去のスリーマイル島やチェルノブイリの原発事故とは違い、福島第一原発のデブリ取り出しは、人類がいまだ経験したことのない方法で進められています。
福島の復興に貢献したいーー。デブリ取り出しの中心に立つのは、大震災の翌年に入社した若き技師でした。
人類が経験したことのないミッション
日立グループの多くの拠点が点在する茨城県日立市。田山宗徳さん(34)の仕事場は、同市内にあるJR大甕駅近くの臨海工場です。所属は日立製作所の原子力ビジネスユニット。燃料デブリを取り出すための工法や、人が入り込めない場所で活動できるロボットを開発するチームです。
「総勢20人ほどのチームで、私は実働メンバー5人をとりまとめる立場です。あらゆる技術を融合させないと、デブリは取り出せないので、社内外の人と相談して有用な技術を探し出したり、試作品作りや実験をしたりしています」
東日本大震災で事故が起きた福島第一原発には、800トンもの燃料デブリが存在すると推定されています。しかし、原子炉格納容器には人が立ち入れないため、内部を調査しきれておらず、格納容器の中がどうなっているのかを把握できていません。
「そこにいかにアクセスして燃料デブリを取り出すか。そこが一番難しいところです」
過去に起きた原発事故では、原子炉をコンクリートの建造物で覆ったり、原子炉圧力容器を水で満たして水中からデブリを取り出したりする措置が取られました。
ところが福島第一原発の場合は、原子炉圧力容器や格納容器が損傷しており、同じ方法は取れません。そのため、「容器内のデブリをそのまま取り出し、別の場所に格納する」という、人類が未だかつて経験したことのない方法で廃炉をめざすことになりました。
ロボットに憧れた少年時代
田山さんは、茨城県ひたちなか市で生まれました。東海発電所がある東海村の隣です。原子力は身近な存在でした。
ロボットとの出会いは小学生のころ。市のイベントで茨城工業高等専門学校の学生が作ったロボットを見たのが最初でした。
「親と訪れた産業祭でロボットが階段を上がるデモをしているのを見ました。両親によると、私はそこから動かず、ずっとロボットを見ていたそうです。あまりにも長く見ているので、特別にロボットの操作をさせてもらいました(笑)」
中学卒業後、ロボットにのめり込むきっかけとなった茨城高専に進学。卒業研究では、災害現場などで安定して歩ける6本脚のロボットを開発しました。そのまま学士の学位を取れる専攻科に進み、歩くロボットの研究に打ち込みます。その後、筑波大学大学院に進み、医療などで使用されるアシストスーツを研究しました。
就職活動を始めたのは、大学院に進んだ2010年。当時、海外では化石燃料からの脱却を旗印に、もっと原発を作っていくべきではないかという「原子力ルネサンス」の風が吹いていました。田山さんもそんな時代の風を感じながら、これまで培ったロボット知識を生かして、原子力発電に関係のある会社へ就職したいと、おぼろげに考えていました。
震災によって芽生えた使命感
そして、2011年3月11日ーー。
東北地方の太平洋沖でマグニチュード9の巨大地震が起こったとき、田山さんは筑波大学の研究室にいました。テレビには、大津波に襲われた信じられない福島の光景が次々と映し出されます。
福島第一原発の建屋が爆発したことが報じられると、「原発内部で何が起きているのか」と不安を覚えると同時に、ある思いが自身の体の中に湧き上がってくるのを感じました。
「原子力の安全に寄与したい。福島をどうにかしないといけない」
就職先に選んだのは日立でした。
配属されたのは、福島第一原発の廃炉作業を担う部署。上司からは「ロボットの研究知識を生かしてほしい」と言われました。
「日立に入った以上、覚悟はしていました」と、当時を振り返る田山さん。「誰かがやらないといけないこと」と自身を奮い立たせました。
デブリ取り出しのための工法開発
こうして廃炉プロジェクトに携わることになった田山さん。以来、燃料デブリを取り出す工法の開発を進めてきました。主に、2種類の工法を検討しています。
1つは、「上アクセス工法」。原子炉建屋の上部に取り出し設備を作り、圧力容器や格納容器内のデブリを削って取り出す方法です。格納容器の上部にクレーンを設置し、上からクレーンでデブリをつかみ、取り出します。
もう1つは、「横アクセス工法」。これは原子炉建屋の横に取り出し設備を設置し、原子炉の横からロボットを入れて、デブリを取り出すという方法です。上アクセスに比べて設備を作るのが容易である半面、小さいロボットしか投入できないので、一度の作業で取り出せるデブリの量が少ないのが難点です。
しかし、いずれの方法を用いても、作業に膨大な時間を要することが予想されています。そこで、田山さんのチームは、「上アクセス工法」を発展させた「一体搬出工法」を開発。大型の燃料デブリを原子炉内で分解せず、そのままの状態で原子炉の上部から取り出し、離れた場所で切断作業を行うことで安全性と効率を高めることが可能になると言います。
「この工法によって、放射線が非常に高いエリアでの作業を減らすことができます。また、工期も短くできると考えています」
デブリ取り出しに欠かせないロボット
工法の開発に加えて、デブリ取り出しで欠かせないのが、ロボットの開発です。原子炉の内部には、破損した建屋のがれきが散らばっていて、デブリが溜まっている場所には簡単にたどり着けません。放射線量も非常に高く、人の手で障害物を撤去することは不可能です。
そこで田山さんのチームが開発したのが、「筋肉ロボット」です。ロボットのアーム部分を水圧で制御する「柔構造」にしているので、障害物がある狭いところにも入り込んで細かい作業ができます。また、電子回路を搭載しなくても動かせるため、放射線の影響を受けにくくなっています。
学生時代のロボット開発の経験を生かしつつ、チームメンバーと切磋琢磨(せっさたくま)しながら作りあげた「筋肉ロボット」。廃炉作業を大きく前進させることに期待が高まっています。
「社内外の英知を集めて、私たちは日々、試作品をつくって動作確認をしています。考えたものが形になっていくことがモチベーションです。それに、同じ問題意識を持った仲間と仕事を進めていけることは幸せなことです」
「福島の未来は変えられる」
入社からちょうど10年。田山さんはずっと、廃炉プロジェクトに携わってきました。しかし、廃炉が完了するまでにはまだ30年かかるといわれています。
「私が定年を迎えるまでに完了するのか分かりません。本格的な燃料デブリの取り出しが始まるのはもう少し先になると見られています。だけど、その時に自分が工事を取りまとめる技術者になれるよう、まずは現状の業務に取り組む中でしっかりと技術を積み上げていきたいです」
先の長い仕事に取り組む田山さんを突き動かしているものは何なのか。その背景には福島への思いがありました。
「先の見通しが立ちにくい仕事です。でも、廃炉というハッキリとした目標はあるんです。その目標に向かっていくだけです。私たちの技術を持って福島の未来は変えられると思いますし 、変えていきたいと思います」
安全に福島第一原子力発電所を廃炉にすること。この「目標」に向かう田山さんの日々は続きます。