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注目集まる「グリーントランスフォーメーション(GX)」 企業に求められることは
持続可能な社会に向けた取り組みが世界で加速する中、国内外で「グリーントランスフォーメーション(GX)」に対する関心が高まっています。GXとは、環境問題の解決と経済成長の両立に向けて、テクノロジーを活用しながら組織や社会を変革していこうとする取り組みを指します。その鍵を握るのは何なのか。GXに関わる世界の動向や企業に求められる取り組みを紹介します。
グリーントランスフォーメーションとは
地球温暖化、大気汚染、水質汚染、森林破壊――。私たちは今、さまざまな環境問題に直面しています。「グリーントランスフォーメーション(GX)」とは、こうした環境問題を解決しながら経済成長を実現するために、環境技術やデジタル技術を活用して、組織や社会を変革(トランスフォーム)していく取り組みのことです。
省エネルギー化や生態系の保護、大気や水の汚染対策といったこれまでの取り組みにとどまらず、ITなどのテクノロジーを活用しながら社会や産業構造の仕組み自体を変えることで、持続可能な社会をめざすのがGXの基本的な考え方です。
中でも、気候変動対策はGXの中心的なテーマです。気候変動はあらゆる環境問題と密接に関係しており、どんなに環境保護や資源循環に取り組んでも、大規模な気候変動が起これば、それらの活動は意味を失ってしまいます。こうしたことから、GXを進める上で、気候変動対策は最優先課題であるとの認識が世界で共有されています。
気候変動を引き起こす大きな要因の1つは、人間活動による温室効果ガスの排出量の増加と、それに伴う地球温暖化とされています。産業革命以来、世界のCO2排出量は右肩上がりで増え続け、2018年時点で、世界中で排出されるCO2の量は1年間で約335億トンに到達しています。気候変動を食い止めるには、この温室効果ガスの排出量をいかに減らすかがポイントになります。
気候変動問題を取り巻く世界の動向
こうした状況を踏まえて、世界では気候変動問題への取り組みが加速しています。
国際的な議論が始まったのは、今から約30年前の1992年に遡ります。ブラジルで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)で「気候変動枠組条約(UNFCCC)」が採択されました。以来、この条約に基づいて地球温暖化対策に関する国際会議「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」がほぼ毎年、開かれるようになりました。
節目になったのは、 1997年のCOP3で採択された「京都議定書」と、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。
京都議定書では、温室効果ガス排出量の削減について国際的な数値目標が初めて定められました。日本や米国、EU(欧州連合)など先進国に温室効果ガス排出量の削減を義務付け、先進国全体では1990年比で少なくとも5%の温室効果ガスの排出削減をめざすことが決まりました。
一方のパリ協定では、先進国だけでなく、気候変動枠組条約に加盟している196カ国すべてが温室効果ガスを削減するために行動すべきである、と定められました。そして、世界全体の長期目標として、「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて、2度より十分低く抑えるとともに、1.5度に抑える努力を追求する」ことが示されました。
その潮流はさらに加速し、2021年に英国で開かれたCOP26でも、「パリ協定」が掲げる目標を改めて確認するとともに、脱炭素に向けて、途上国を含めたフレームワークを作ることが合意されました。
サプライチェーン全体でCO2削減
こうした世界的な潮流を受けて、企業においても、気候変動問題への取り組みがより一層求められています。それでは企業はどのように温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」をめざせばいいのでしょうか。経済産業省・資源エネルギー庁は、次のような取り組みをポイントに挙げています。
- エネルギー消費量を減らす・エネルギー効率の向上
- 再生可能エネルギーへの転換、低炭素の燃料の使用
- 産業、運輸、家庭などにおける非電力分野(燃料・熱など)の電化
- ネガティブエミッション技術(大気中のCO2を回収し地中に貯留する技術)の利用
- 以上の4つを組み合わせて、トータルでカーボンニュートラルをめざす
企業はこうしたポイントを踏まえ、さまざまな取り組みを進めています。こうした中、新たに企業に求められているのが、自社だけではなく、原材料の調達から廃棄に至るまでのサプライチェーン全体を含めた温室効果ガスの排出削減です。
温室効果ガス排出量の算定・報告の国際基準である「GHGプロトコル」では、温室効果ガスの排出は、事業者自らによる排出(スコープ1)、他社から提供された電気や熱・蒸気などの使用による排出(スコープ2)、その他の事業活動による排出(スコープ3)の3つ分かれています。この合計をサプライチェーン全体の排出量として、全ての過程で削減をめざすことが企業に求められているのです。
企業の対策は「見える化」 が課題
例えば、米国の大手IT企業は、製品に低炭素の再生素材を利用したり、サプライヤー企業を含めて再生可能エネルギーへの移行を促したりするなどして、自社だけでなくサプライチェーン全体のカーボンニュートラルをめざすと発表しています。
日本国内でも、大手飲料メーカーがサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出量を2030年までに30%削減する目標を掲げ、各スコープにおける排出量の情報開示を行うなど、取り組みを強化。日立製作所も同様に、2050年度までにバリューチェーンを含めたカーボンニュートラルの達成を目標に掲げており、各事業所やグループ会社で取り組みが加速しています。
このように国内外のさまざまな企業が、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラルの達成をめざしていますが、こうした取り組みを進める上で、重要なのが、エネルギー使用量や環境負荷の「見える化」です。
しかし、これまで自社の省エネルギー対策に積極的に取り組んでいた企業でも、原材料や部品の調達にまで遡って温室効果ガスの排出量を把握・管理するのは困難です。そこで、「見える化」のための仕組みづくりが必要になるのです。そして、それを実現するのは、ITをはじめとするテクノロジーであり、それがまさにGXのひとつの形でもあります。
GX推進のために必要なこととは?
差し迫った気候変動の危機を乗り越え、GXを推進するには、各ステークホルダーを巻き込む経営層の強いリーダーシップが欠かせません。また、部門を横断した中長期的な取り組みが必要となるため、ロードマップの策定や、現場でプロジェクトをリードする人材の育成や教育も不可欠です。
GXで先行する欧州では、CO2の排出量に応じて課される「炭素税」や、CO2を多く排出した企業と減らした会社とで排出枠を売買する「排出権取引」が打ち出されるなど、脱炭素化に向けた国の主導によるルール作りが進んでいます。
日本でも「炭素税」に関しての議論は始まっており、本格導入が決まれば企業にとってコスト増は課題となりえます。一方で、環境問題に熱心に取り組む企業にとっては、自社の商品を打ち出しやすくなる側面もあります。
今後、カーボンニュートラルを社会全体で推し進めるためにも、企業のGXに向けた一層の取り組みが求められているのです。