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カーボンニュートラルの実現に向け、企業が取り組むべき最初の一歩とは?

2022年3月22日 清水 美奈

地球温暖化防止のために、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」に向けた動きが世界全体で加速しています。

業界・業種を問わず広くカーボンニュートラルの目標設定と具体化が求められる中、企業は、はじめの一歩をどう踏み出せばよいのでしょうか。カーボンニュートラルの基本から目標達成に向けて必要な施策まで、事例を交えて紹介します。

「カーボンニュートラル」とは?

ここ最近、「カーボンニュートラル」という言葉を聞く機会が増えています。そもそもカーボンニュートラルとは何なのか、簡単に振り返ります。

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量や除去量を差し引いた合計をゼロにすることを意味します。

温室効果ガスの排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかった分を吸収・除去することで相殺して、「実質ゼロ」をめざすのが、カーボンニュートラルの考え方です。

日本では、菅義偉首相(当時)が2020年10月、所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざす」と宣言。世界に目を向けると、現在120以上の国や地域が「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げています。

「省エネ」によるCO2削減がカギ

カーボンニュートラルを実現するためには、私たちの社会が排出する温室効果ガスの総量をいかに減らすかが重要になります。

2021年7月、経済産業省が温室効果ガスの削減目標を踏まえた「2030年におけるエネルギー需給の見通し」を発表しました。それによると、再生可能エネルギーや原子力、液化天然ガスなどの活用以上に、エネルギー消費そのものを減らすこと、すなわち「省エネルギー」による削減が大きな比重を占めています。

オンラインで説明する日立コンサルティングの滝口浩一さん

企業におけるカーボンニュートラルの取り組みも、「省エネルギーから始めるべき」と指摘するのは、日立コンサルティングの滝口浩一さんです。

「企業がカーボンニュートラルに向け、まず着手すべきは自社がどれだけエネルギーを使っているか可視化することです。その上で、使用エネルギーのマネジメント手法を検討すること。それがはじめの一歩になります」

エネルギーの可視化と削減計画

では、温室効果ガスの削減のため、企業はいかにして「可視化」に取り組めばよいのでしょうか。

すでに電気の使用などによる自社の直接的な温室効果ガスの排出量を可視化している企業は少なくありません。しかし、ESG投資の潮流を踏まえると、今後は、原材料の生産や運搬といったサプライチェーンの過程で生じる温室効果ガスの排出量まで含めて、管理する必要があります。

つまり自社だけではなく、サプライチェーンも含めた温室効果ガスの排出量を可視化する必要があるのです。そのためには、部門横断的なデータ収集の仕組みや、サプライチェーン全体におけるデータの統合・管理を進めなくてはなりません。

さらに、可視化したデータをもとに、エネルギーの削減に向けた計画を立て、日常の業務を変えていくことが、カーボンニュートラルを達成する上で重要だと滝口さんは指摘します。

「カーボンニュートラルはビジネスからかけ離れたものではありません。むしろ、その実現に向けた手法は企業活動にとって身近なものです。カーボンニュートラルの進め方も、全体の方針を立て、現状を診断し、中長期的な目標を立てた上で、複数の施策を展開することが重要です」

「エコアシスト」に高まる期待

こうした中、サプライチェーン全体で使用するエネルギーを可視化し、具体的な施策につなげることができるサービスに注目が集まっています。日立が提供する環境情報管理システム「EcoAssist-Enterprise-Light(以下、エコアシスト)」です。

エコアシストは、二酸化炭素の排出量などエネルギーに関するさまざまなデータを集約し、一元管理するクラウド型のサービスです。クラウド上に集められたデータ使って、半自動的に環境レポートを作ることができるため、温室効果ガスに関する算定の手間を大幅に削減することができます。また、可視化したデータの活用や、削減計画の策定といったコンサルティングサービスも提供しています。

導入した企業は80社を超えており、世界に100以上の拠点を持つ製造会社もそのひとつ。同社では以前、多拠点のエネルギーデータをエクセルで集計していましたが、工数が膨大になり、品質管理の複雑化や業務の属人化といった課題を抱えていました。

そこで、エクセルの様式は変えずにデータベース機能を用いた情報集約ができるエコアシストを導入したところ、集計の効率化や精度向上、情報開示までの時間短縮を実現できたということです。

オンラインで説明する日立製作所の加藤裕康さん

エコアシストの開発に携わった日立製作所の加藤裕康さんは、活用のポイントを次のように説明します。

「エコアシストが対象とする範囲は、使用エネルギー、CO2排出量、廃棄物、資源有効利用、環境負荷など、多岐に渡ります。さらに最近は、ESG投資のテーマであるガバナンスや安全衛生、社会貢献に関するデータまで広げる動きもあります。カーボンニュートラルでは、データをもとに目標を立てて実績を管理する長期的な取り組みが求められます。その意味でも、エコアシストは有用だと思います」

「最初の一歩」を踏み出すために

ここまで企業がカーボンニュートラルに向けて、何から着手し、実現に向けてどう取り組めばよいのかについて、事例を交えて紹介してきました。

カーボンニュートラルの最初の一歩は、エネルギーの可視化から始まり、次のステップは、どうエネルギーを削減し目標を達成するか検討することです。

気候変動対策が喫緊の課題となる中、企業にはこれまで以上の対策が求められています。滝口さんは、企業や社会が一丸となって、カーボンニュートラルの実現をめざすことが重要だと強調します。

「カーボンニュートラルはCSR(企業の社会的責任)だけでなく、ビジネスとも切り離せないものです。はじめの一歩を踏み出し、サステナブルな未来を一緒に実現しましょう」

(本記事は、2021年10月に行われた日立製作所が主催するイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN」の講演内容を基に制作しました)