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「脱炭素社会への変化は新ビジネスの商機」 企業に求められる気候変動対策とは

2021年10月14日 河畠 大四
東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授(写真:今村拓馬)

近年、大雨や洪水、猛暑などの異常気象が世界各地で頻発しています。多くの人が気候変動のリスクを肌身で感じるようになりました。こうした気候変動の対策として考えられるのが、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「脱炭素社会」の実現です。そのためには、政府だけでなく、企業も具体的な対策を取ることが求められています。

気候変動問題で、企業に期待される対応はどのようなものでしょうか。イギリスで開催されるCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を前に、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授に話を聞きました。

誰もが感じるようになった異常気象

――気候変動について、世界の現状はどうなっていますか。

高村教授(以下、高村):国内外の異常気象の報道を耳にする機会が増えました。直近でもドイツやベルギーの大洪水など、想像もしていなかったような気象災害が起きています。気候の大きな変化を誰もが直感的に感じていると思います。

2021年8月に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が最新の評価報告書を公表しました。世界の平均気温は、産業革命前と比べ、すでに約1.1度上昇しており、今後遅くとも20年のうちに、1.5度以上になる可能性が高いと予測されています。そして、気温上昇を低い水準に抑えるには、今からできる限り温室効果ガスを削減することが必要としています。

――気候変動は、気象災害だけでなく、ウイルスによる感染症の増加ももたらしているという指摘がありますね。

高村:現在の新型コロナウイルスの発生源が解明される必要がありますが、その発生前から、生態学の論文などでは、環境や生態系の悪化と感染症との関係が指摘されています。

20世紀の初めから数えて、人に感染するウイルスは200以上発見されています。もともと人間から遠く離れて自然界に存在していたウイルスが、森林伐採などの人間活動や気候変動の影響による生態系の破壊などによって人間社会に入り込み、野生動物を介して人間に感染したと考えられています。

取材に応じる高村ゆかり教授(写真:今村拓馬)

気候変動対策を進める上で重要なこと

――気候変動に対して、世界ではどんな対策が取られているのでしょうか。

高村:欧州やアメリカ、日本など主要先進国は、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現をめざしています。これは、2015年に合意された「パリ協定」の1.5度目標に相当する意欲的な目標です。先進各国は、このカーボンニュートラルの実現に向けて、新型コロナウイルスの影響でダメージを受けた経済の復興策に、気候変動対策を織り込んでいこうとしています。

各国に共通する施策として、3つあげることができます。1つ目は、エネルギーの脱炭素化、クリーンエネルギー化とそのためのインフラ構築です。

2つ目は、モビリティの脱炭素化。例えばEUでは、新車の販売において、2035年までに、CO2を排出しない車のみ販売できるようにすることを検討しています。そのための水素ステーションや充電ステーションといったインフラの整備についても、各国が検討を進めています。

3つ目は、ビルなどの建築物と住宅の脱炭素化です。ヨーロッパ諸国やアメリカでは、既存の建築物の「ゼロエミッション化」にも注力しています。

――日本の気候変動対策はどうでしょうか。

高村:2021年8月、国の第6次エネルギー基本計画とそれをもとにした地球温暖化対策計画の素案がまとまりました。日本の場合、温室効果ガスの約85%がエネルギー使用による排出で、エネルギーの脱炭素化が必須です。つまり、再生可能エネルギーの最大限の導入が、重要な課題です。

再生可能エネルギーは2019年の時点で、日本の電源構成の約18%を占めています。素案では、それを2030年に36〜38%に引き上げる計画です。既存の原子力発電も含め、総発電量の約6割を脱炭素電源からの電気にすることをめざします。高い目標を設定することで、民間の事業や投資を誘導し、目標に向かって政策を総動員することができます。

――2030年までに温室効果ガスの排出をどれだけ抑えられるかが、重要になってきますね。

高村:IPCCの最新の評価報告書では、将来の社会がどうなっていくのかについて、温室効果ガスの排出量に応じた「5つのシナリオ」が示されました。排出量が多くなればなるほど、気温も上昇することが予測されています。気温の上昇をできるたけ低く抑えるには、まさに今から温室効果ガスをできるだけ大気中に出さないこと、そして、早く世界の排出量を減少に転じさせることが、決定的に大事ということです。

そのため、企業の気候変動対策には2つの視点が必要です。1つは、短期的な目標として、今利用可能な技術でできる限り排出量を減らすこと。もう1つは、社会基盤を「脱炭素化」するために、中長期的な戦略を持って取り組みを進めることです。

今建てる住宅などは2050年にも残っているでしょうし、これからつくる発電所は2050年以降も稼働します。そう考えると、新たな設備導入と投資の決定は、「2050年カーボンニュートラル」と整合的でないといけないわけです。

企業の経営者は、これからの経営判断や投資判断を、中長期的な「脱炭素化」の目標と整合させていく必要があるでしょう。これは、多くの企業の事業ポートフォリオに変更を迫るものだと思っています。

「経営や投資の判断が変わっていく」と語る高村教授(写真:今村拓馬)

気候変動リスクと情報開示

――企業は気候変動問題にどのように対応すべきでしょうか。

高村:いまは企業も、気候変動が事業や経営にどのような影響を及ぼすかについて、分析し、ビジネス上のリスクとして中長期的な対応を取る動きが進んでいます。現状のままでは、異常気象など気候変動の悪影響はさらに大きくなります。また、社会や市場が、カーボンニュートラルに向けて大きく変化していくと、企業の資産やビジネスにも影響が生じます。

例えば、今まで石油や石炭などをはじめとする化石燃料を扱っていた企業は、脱炭素社会に向かう社会や市場の変化を見据えて、ビジネスのポートフォリオを少しずつ変えていかなければ、業績を落とすおそれがあります。各企業は、こうしたリスクをしっかり分析し、リスクへの対応戦略を説明することが求められています。

すでに諸外国では、気候変動リスクの情報開示が法律で義務化され始めています。日本でも、2022年4月から東証で始まる「プライム市場」に上場する企業には、気候変動リスクの開示が上場条件になっています。世界市場でビジネスを展開する企業にとって非常に重要な変化です。

――企業が、自社の温室効果ガス排出量の削減だけでなく、取引先も含めたサプライチェーン全体の排出量を管理し、削減する動きが出てきているそうですね。

高村:そのとおりです。すでにその動きは広がっています。例えばアメリカの大手IT企業は、自社が取り引きするサプライヤーの選定に際し、サプライチェーンやバリューチェーンにおける温室効果ガスの排出量も提出してもらって、選定の判断基準にしています。

日立製作所も、2030年度までに自社の工場やオフィスでのカーボンニュートラルの実現に加えて、2050年度までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルという目標を掲げていますね。

もう一つ、本格化しているのが金融の動きです。金融機関や機関投資家が、2050年までに、「投融資ポートフォリオ」全体でのカーボンニュートラルを目標として打ち出しています。資金を企業に供給する金融機関が、投融資先の企業における温室効果ガスの排出をゼロにするという目標を掲げたわけです。これらの動きを受けて、企業の排出削減の取り組みが本格化していくと思います。

取材に応じる高村ゆかり教授(写真:今村拓馬)

脱炭素社会への変化は新ビジネスの商機

――ビジネスの発展と脱炭素化の両立をめざす上で、企業が意識するべきことは何でしょうか?

高村:脱炭素社会に向けて変わっていく市場に対応したビジネス戦略が必要だと思います。気候変動をリスクとして捉え、対応していくことは重要です。ただ、市場が変わっていくこのタイミングは、新しいビジネスを生む商機、チャンスでもあります。今までの事業を大きく変えていかなければならない企業もあり、対応の難しさは理解できますが、この大きな変化の機会をぜひ生かしてほしいと思います。

――私たち生活者も、個人としてできることはありますか?

高村:私たちの生活は企業が提供する製品やサービスに依拠しています。それだけに、商品の選択を通じて気候変動対策に貢献することが非常に大事だと思います。温室効果ガスを排出しない、排出量の少ない製品やサービスを選択することで、気候変動対応にしっかり取り組んでいる企業を支えることにつながります。

お金に余裕があれば、そうした企業に投資するのもよいでしょう。今こそ、消費者と企業が連携することが必要になっています。カーボンニュートラルは、政府や企業だけでなく、私たち一人ひとりが取り組むべきチャレンジでもあるのです。

高村ゆかり

東京大学未来ビジョン研究センター教授。専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒。名古屋大学大学院教授などを経て現職。国際環境条約に関する法的問題、気候変動とエネルギーに関する法政策などを主な研究テーマとする。編著書に『環境規制の現代的展開』『気候変動政策のダイナミズム』など。

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