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「気候変動対策に若者の声を届けたい」 COP26に参加する若者の思い

2021年10月7日 吉田 由紀子
Mock COP26のグローバルオーガナイザーとして活躍する佐座槙苗さん(写真:今村拓馬)

2021年11月に英国グラスゴーで開催されるCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)。本来ならば前年に開かれる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって1年延期となりました。それならば別の国際会議を開こう――。2020年11月、世界の若者たちが中心となって「Mock COP26」というオンラインイベントが開催されました。

Mockは「模擬」という意味です。140カ国から選ばれた300人以上の若者が、気候変動をめぐる6つの重要テーマについて議論し、世界に向けた提言を発表しました。その運営メンバーの1人として活躍する佐座槙苗(さざ まな)さん(26歳)に、「Mock COP26」を開催した経緯や「本番」のCOP26への期待について聞きました。

子どもの頃から関心があった環境問題

インタビューに応じる佐座さん(写真:今村拓馬)

佐座さんが環境問題に興味を持ったのは、福岡で暮らしていた中学生のころです。自然豊かな土地でしたが、公園には人工的な遊具が多く、自然と一体になれる遊び場が少ないことに、疑問を抱いたといいます。

そんな佐座さんの心を動かしたのは、宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」。主人公アシタカの「森と人が争わずにすむ道はないのか?」というセリフに感銘を受けました。

「こうした経緯から、自然と気候変動に興味を持つようになったんです。多様なバックグラウンドを持つ生徒が多いインターナショナルスクールに通っていたこともあって、海外の大学で環境問題を学ぶことにしました」

高校卒業後、カナダのブリティッシュコロンビア大学へ進学した佐座さんは「都市と自然の関係」を専攻。世界で起きている様々な事象の背後に、環境問題が横たわっていることを知りました。

「大学卒業後は国際機関への就職を考えていましたが、サステナブル(持続可能)な社会の実現についてより見識を深めるには、大学院レベルの勉強が必要だと知りました。そこで、サステナブル開発教育で歴史のあるロンドン大学大学院に進学することにしたのです」

現在は、世界48カ国から集まった50人のクラスメートとともに学んでいます。

「彼らは勉強熱心で、高い理想を抱いています。さまざまな文化的背景のもとでも、同じ目標があれば協力し合えると実感しました」

佐座さんのロンドン大学のクラスメート

欧米と日本の「環境意識」の違い

2019年に渡英し、大学院での研究を始めた佐座さんですが、しばらくして新型コロナウイルスのパンデミックが発生。2020年7月、やむなく日本に一時帰国します。さらに、英国開催ということで期待していたCOP26が延期になったことを知り、落胆しました。

「せめて日本でサステナブルな社会に向けた活動をしていこう」。そう考えましたが、日本の企業に勤める知人たちと話すと、欧米と日本の環境意識の違いに驚くことになります。

「私たちの会社ではSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいるので、環境対策は十分できている」

そんな言葉を知人から聞いたのです。

「でも、SDGsはあくまで環境対策の一部であり、気候変動をストップするのに決して十分ではありません。日本人の大半は、いま起きている気候変動の深刻さを知らないのではないかと、危機感を抱きました」(佐座さん)

こうした経験から、「若い世代が動かなければいけない」という思いを強めた佐座さん。ロンドンに拠点を置く国際学生団体の友人に誘われて、COP26の模擬イベントである「Mock COP26」の中心メンバーとなりました。

大成功を収めた「模擬COP」

Mock COP26のオンライン会議の様子

2020年11月19日から12月1日までオンラインで開催されたMock COP26は、世界140カ国から330人の若者が参加し、CNNやBBCなど海外の大手メディアで紹介されるほどの注目を集めました。

「準備から開催まで4カ月間しかなかったにもかかわらず、Mock COP26のWebサイトには期間中に240万ものアクセスがあり、世界中のメディアが250本以上の記事を配信してくれました」

ここまでの反響があるとは予想外でしたが、参加者のうち、72%が南半球からで、平均年齢は22歳と、マイノリティに配慮したことが反響を呼んだ理由だと、佐座さんは分析しています。

「いま気候変動の問題に直面している人々の多くは、南半球で暮らしています。そこでMock COP26では、南半球からの代表者の割合を北半球より多くするなどして、南半球の若者の生の声をなるべく反映できるような仕組みにしました」

さらに、影響力のある「大人」に参加してもらったことも成功の要因だと考えています。

「若者を主体に開催したイベントですが、社会に運動を広げていくためには、大人たちにも参加してもらう必要があります。そこで環境の分野で国際的に影響力のある人たちにも、Mock COP26 への参加を呼びかけました」

その結果、COP26の議長を務めるイギリスのアロック・シャルマ議員をはじめ、イタリアの環境大臣や国連青少年担当特使など、各国の環境問題の専門家が参加してくれたのです。

「サステナブル教育」の重要性

Mock COP26について動画で見る

Mock COP26では、気候変動を食い止めるための政策を提言しました。何百ものアイデアのなかから18に絞り、特に重視したのが「サステナブル教育」と「若者の意見の反映」です。

「サステナブル教育は、気候変動教育を義務教育化して、幼いころから自然と人間との関係性を学ぶことが、将来への重要な布石になると考えています」

もう一つ、若者の意見が気候変動対策に反映される決議の仕組みを整えることも必要です。

「若者の発言が制限され、議論も対話もなく、貴重な提言をしても反映されないという傾向があります。それを改善し、次世代を担う若者の考えを実現できる社会に変えていきたいと思っています」

現在、Mock COP26の運営メンバーとして活動している佐座さんは、世界各国の参加者から選ばれた8人のうちの1人です。ボランティアの指導や各国代表とのミーティング、政策提言の支援などを行なっています。

佐座さんたちはCOP26の開催期間中、英国でサステナブル教育をテーマにした「教育サミット」を開催する予定です。世界各国の教育大臣を集めて、気候変動教育の義務化について議論してもらおうと考えています。

「地球の平均気温は上昇し続けていて、日本でもここ数年、経験したことのないような豪雨による災害や、異常気象による農作物への被害が多発しています。パリ協定の1.5度目標を達成しなければ、海抜の低い地域が水没する可能性もあります。いますぐ気候変動を止める行動に出なければ、人類全体が多大な被害を受けることになるでしょう。だからこそ、環境教育が急務なのです」

COP26への期待とこれから

写真:今村拓馬

若者たちが開いた「Mock COP」から1年。間もなく「本番」のCOP26が開催されます。
COP26に参加するため、英国・グラスゴーに飛ぶ佐座さんは、「国際的な連携を展開することが楽しみです」と意気込んでいます。

「現在、日本の脱炭素の取り組みは、欧米に比べ遅れていますが、私がCOPに参加することによって、国際的な情報や活動を日本に紹介し、国際的な連携も広げることで、日本の脱炭素化を加速させたいと考えています」

また、佐座さんはCOP26で、次世代を担う若者の意見が届くよう期待しています。

「Mock COPでまとめた提言が、今回のCOP26に持ち込まれて、各国の首脳たちが若者の意見にちゃんと耳を傾ける。それが一番重要なことだと考えています。そして、その意見を実際の政策にも反映してほしいと期待しています」

気候変動問題の解決をめざして立ち上がる若者たち。今後の活動が注目されます。

佐座槙苗(さざ・まな)

1995年生まれ。カナダUniversity of British Columbia卒業。ロンドン大学大学院サステナブル・ディベロプメントコース在学中。2020年のCOP26が延期されたことを問題視した世界の若者が「Mock COP26」を設立。現在は、運営メンバーとして、Mock COPの運営と、11月に開催されるCOP26の運営事務局との交渉を担当。2021年1月には、若者を大人がサポートし、循環型社会づくりに取り組む、一般社団法人SWiTCH を設立。