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COP26シャルマ議長 気候変動対策には「企業のイノベーションが不可欠」

2021年10月12日 中作 明彦

日立製作所が主催するイベント「Hitachi Social Innovation Forum(HSIF) 2021 JAPAN」が10月11日、始まりました。HSIFは、気候変動など世界を取り巻くさまざまな課題について考え、その解決に向けた取り組みを紹介する日立グループ最大規模のイベントです。オンラインで10月15日まで開催されます。

初日の10月11日にはハイライトセッションとして、気候変動対策をテーマにした講演会が催されました。11月に英国のグラスゴーで開催されるCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)を前に、COP26のアロック・シャルマ議長が講演。温室効果ガスの排出削減に向けて「企業のエネルギーとイノベーションが不可欠です」と訴えました。

COP26のプリンシパル・パートナーである日立からは、執行役副社長でChief Environmental Officerのアリステア・ドーマー氏が登壇し、「日立は、気候変動領域のイノベーター(革新者)として率先して問題に取り組み、模範を示したいと考えています」と決意を表明しました。

「気候変動領域のイノベーターの役割を果たしたい」と話すドーマー氏

「気候変動領域のイノベーターの役割を果たしたい」と話すドーマー氏

最初に講演したのは、日立の執行役副社長で、環境問題の解決に向けた取り組みを指揮しているドーマー氏です。気候変動問題について、ドーマー氏は、「世界各国の政府と企業が、協力して取り組まなければならない」とした上で、「私たちの時代の最大の課題であることは、紛れもない事実」と指摘しました。

ドーマー氏は、2021年8月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書のポイントとして、3点を取り上げました。

  1. 気候変動が不可逆的な転換点に到達しつつある
  2. 人間活動が地球温暖化の原因であることは「疑う余地がない」と断定された
  3. 2040年までに気温上昇が1.5度を超えると予想されている

これらの点を踏まえた上で、「美しい地球を次世代へつなぐために、時間を無駄にできません。今、ともに行動しなければなりません。そのためには、より多くの企業がネット・ゼロ(温室効果ガス排出量が実質ゼロ)の目標を設定し、『Race to Zero』に参加することが必要です」と強調しました。

Race to Zero(ゼロへのレース)とは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の事務局が主催するグローバルキャンペーンです。企業や投資家、自治体などの“非政府セクター”がリーダーシップを発揮し、実体経済における気候変動対策を加速させることを目的としています。

参加条件として「遅くとも2050年までにネット・ゼロ達成を約束すること」などを求めています。現在3,000社以上の企業がRace to Zeroに参画しており、日立もそのメンバーになっています。

「私は、エネルギー転換を加速させるイノベーションにおいて、重要な役割を果たすのが日本であると信じています。日本には技術革新の豊富な歴史があります。その技術力こそが、気候変動の危機を解決するカギとなるに違いありません」(ドーマー氏)

COP26は「最後のチャンス」

「HSIF 2021 JAPAN」で話すCOP26のシャルマ議長

続いて講演したのは、COP26議長のシャルマ氏です。シャルマ氏は「気候変動はいまや危機的状況であり、その兆候はいたるところに現れている」と語ります。

「IPCC第6次評価報告書の内容は、まさに人類に対して警鐘を鳴らすものでした。気候変動が地球上のあらゆる地域に影響をおよぼしていること、その原因が人間にあること。さらに、最悪の影響を回避するための時間が尽きつつあることが明確に述べられています。つまり、赤信号はすでに灯っているのです」

2015年開催のCOP21で採択された「パリ協定」。そこでは、世界の平均気温の上昇について、産業革命前(1850年~1900年の平均)に比べて2度よりも十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求することが合意されました。

しかし、地球温暖化を抑制するための世界各国の取り組みは、まだ十分とは言えません。このままでは、気温上昇を2度以下に抑えることは難しいといわれています。

その上で、シャルマ氏は、温暖化を抑止するためのさらなる行動が必要だと訴えます。

「1.5度目標をめざすには、今すぐ行動しなければなりません。COP26が極めて重要な理由もここにあります。COP26は、1.5度目標を維持する最善にして最後のチャンスです。そのためには、全員が行動しなければなりません」

さらにシャルマ氏は、「グローバル経済を早急に変革する必要があります。そのために、政府、企業、投資家と市民社会が、各々の役割を果たし、クリーン経済への移行を加速させることが欠かせません」と指摘。その上で、COP26で果たすべきことについて、「1.5度目標の維持に向け、クリーン経済への移行を加速させることです」と説明しました。

「クリーン経済」とは、ネット・ゼロによる持続可能な活動を重視した経済です。クリーン経済への移行を実現するため、COP26では次の4つの目標を掲げています。

  1. 世界を温室効果ガスの排出量削減の軌道に乗せ、今世紀半ばまでにネット・ゼロを達成すること
  2. 気候変動の影響から人と自然を守ること
  3. 公的資金、民間資金の両方を気候変動対策に流入し、十分な資金を用意すること
  4. 企業、投資家、市民社会のみなが互いに協力し合うこと

シャルマ氏はこの4つの目標を紹介し、1.5度目標を達成するための協力を求めました。

「1.5度目標を達成するためには、我々を支援してくれる企業のエネルギーとイノベーションが不可欠です。気候変動問題の解決は協創によってのみ可能であり、COP26に対する日立の支援に感謝します。日本、そして世界がネット・ゼロを達成し、1.5度目標をめざせるよう、協力して温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいくことが必要です」

日本の技術とイノベーションが支える

「気候変動への対策はかつてないほどの急務」と話すトッピング氏

シャルマ氏に続き、COP26の気候行動ハイレベルチャンピオンであるナイジェル・トッピング氏の講演が行われました。

気候行動ハイレベルチャンピオンは、COP22から始まった取り組みです。毎年、環境に関するエキスパート(2名)が任命され、自治体や企業などの“非政府セクター”の自主的な行動を促進する役割を担います。COP26では、Race to Zeroを主導する存在としての活動が期待されています。

トッピング氏は「気候変動への対策はかつてないほどの急務となっています。この問題についてはIPCCが最新の第6次評価報告書で明言しており、国連事務総長も『人類への赤信号』と表現しています」と話し、気候変動の現状を改めて強調しました。

そして、自身が主導するRace to Zeroについて、「世界中から4,500以上の企業や投資家、自治体などが参加していますが、日本企業は、そのうちの35社にすぎません」と述べ、日本企業の奮起を促しました。

「この新しい産業革命をリードする企業は、ネット・ゼロの早期達成を支える技術とイノベーションの恩恵を得ることになるでしょう。技術とイノベーションは、日本が他のどの国よりも優れた資質を備えています。だからこそ、自信をもってレースに参加していただきたいのです」

人類の未来をつくるためのツールを残す

日立は、2030年度までに全世界の工場・オフィスでのカーボンニュートラルを達成し、2050年度までにバリューチェーン全体においてカーボンニュートラルを実現するという目標を明らかにしています。その点についてドーマー氏はこう述べました。

「日立は、気候変動領域のイノベーターとして率先して問題に取り組み、模範を示したいと考えています。これらの目標は、社会の脱炭素化で重要な役割を果たすという日立のコミットメントを明示したものです」

また、ドーマー氏は、モビリティーやエネルギー分野などで、自社のプロジェクトを紹介しながら、研究開発の重要性を説きました。その上で、次世代にバトンをつないでいくことの大切さを強調しました。

「次世代にバトンをつなぐことで、次世代に世界を変えるチャンスが訪れることになります。人類の未来をかたちづくるのは若者たちの活躍です。その未来をつくるための最初のツールを残すのは、私たちの世代の役目です」

気候変動をめぐる大きな転換点にいる私たち。ドーマー氏は、今回の講演を次のように締めくくりました。

「今必要なのは、政府と企業がともに取り組むことです。誰一人として例外なく、私たちはチャレンジを任されたグローバルチームのメンバーです。社会に対する日立の役割は、『Race to Zero』とエネルギー体系のシフトを加速させること。また、あらゆるパートナーに気候変動問題への参加を呼びかけ、サポートすることです。今後も、多くの政府、企業や個人と、この険しくもすばらしい道のりを歩み、協創できることを心より楽しみにしています」