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注目集まる「インターナル・カーボンプライシング」 その仕組みと効果とは?

2022年2月24日 中作 明彦

脱炭素社会の実現に向け、「インターナル・カーボンプライシング(ICP)」という新たな管理会計の制度を導入する企業が増えています。日立製作所は2019年にICPを導入し、設備投資に変化が生まれ始めています。ICPとはどのような仕組みで、企業や社会にどのような効果をもたらすのでしょうか。具体例を交えながら紹介します。

社内炭素価格「ICP」とは?

ICPは、「社内炭素価格」ともよばれる制度で、企業が自主的に、ビジネスの過程で排出する二酸化炭素の量に「価格付け」を行うことです。

新しく設備を導入する際、その設備による「二酸化炭素の排出量」の削減効果を金額換算して独自の「社内価格」を設定。それを投資判断などに組み込むことで、二酸化炭素の排出を減らそうとする仕組みです。また、あらかじめICPを導入しておくことは、将来的に予想される炭素税の増税に対する備えにもなります。

ICPを導入する企業は世界で増加しています。環境評価を行う国際的な非営利団体CDP によると、2020年には、導入済みか導入予定の企業が世界で2,000社を越えていて、日本でも250社にのぼっています。

この背景には、2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された「パリ協定」が挙げられます。パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つ(2度目標)とともに、1.5度に抑える努力を追求する(1.5度目標)」ことが取り決められました。そのための行動が企業にも求められているのです。

ICP導入で設備投資に変化が

日立のICPでは、二酸化炭素の削減量を「投資効果」として捉え、新たに導入される設備によって削減される二酸化炭素の排出量に対して、1トンあたり14,000円という価格を設定しています。これにより、二酸化炭素の排出量が少ない設備が投資の対象になっていくのです。

ICPの形態や価格設定は企業によってさまざまで、日立が設定している1トンあたり14,000円という価格は、世界的にも高い水準であるとみられています。

日立ではICPを導入する以前、二酸化炭素の削減効果を投資効果として考慮しませんでした。二酸化炭素の削減効果が高かったとしても、それはメリットとして認められなかったわけです。

しかし、ICPを導入してからは、二酸化炭素の削減量が投資効果に加算されるようになり、二酸化炭素の排出量が少ない設備の導入が進むようになりました。

日立がICPを導入したきっかけ

ICP導入を推進した日立製作所の久保勉さん(写真:野崎航正)

日立のICP導入は、2019年にさかのぼります。そのきっかけとなったのは、2016年に策定された自社の環境長期目標でした。日立のサステナビリティ推進本部でICPの導入を進めた久保勉さんはこう語ります。

「日立は当時、自社の事業所について、2030年度までに二酸化炭素排出量を50%削減することを目標としていました。これは、従来の延長線上の設備投資では達成できないと考えられました」

そこで、目標達成のために導入されたのがICPです。当時、二酸化炭素の価格は1トンあたり5,000円で設定されていましたが、二酸化炭素排出量の少ない設備の重要性がより一層高まったため、2021年8月に1トンあたり14,000円に引き上げられました。

ICP導入後、省エネ投資が5%超増加

ICPの導入から3年となる日立。各事業所において積極的にICPの評価を実施し、脱炭素投資が進んでいます。具体的には、高効率空気圧縮機や高効率空調機への更新など、環境負荷を抑える高効率な設備機器の導入が増えています。

「ICPを導入してまだ3年目。新型コロナウイルスの影響もあるので判断は難しいですが、省エネ投資が5%以上増加したことは大きな成果だと考えています」(久保さん)

また、ICPを活用した投資による二酸化炭素の削減量について、「2019年度と2020年度を合わせて、約1,800トン」とした上で、久保さんはこう評価します。

「ICPが社内に浸透するまで、時間が必要だった部分もあります。しかし今では、カーボンニュートラルを達成するための手段のひとつとして、広く受け入れられるようになりました」

ICPで「自動制御システム」を導入

日立GLSで使用するエアーコンプレッサー

冷蔵庫や洗濯機などの家電製品を製造している日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)の多賀事業所(茨城県日立市)では、ICPを活用して、エアーコンプレッサーの自動制御システムを導入しました。エアーコンプレッサーは、製造ラインの動力源として必要不可欠な設備です。

これまで、エアーコンプレッサーの運転は人の手でコントロールされていました。しかし今回、自動制御システムを導入したことによって運転に無駄がなくなり、電力消費量を大きく減らすことが可能になったといいます。

電力消費量の低減を二酸化炭素の削減量に換算すると、約10%の削減になるといいます。この自動制御システムの導入も、ICPによって二酸化炭素の削減効果が評価されるようになったからこそ実現したものです。

「これまで、省エネをメインにした投資には難しい部分もありました。しかし、ICPが導入されたことで二酸化炭素の削減量が投資効果として上積みされるようになり、他案件と競合した場合でも選択される可能性が高まっていると感じます」(日立GLS・瀬谷真二さん)

ICPを活用した投資で社会貢献へ

取材に応じる久保さん(写真:野崎航正)

地球温暖化を食い止めるため、世界は本格的に「脱炭素」に向かって進んでいて、企業にも一層の取り組みが求められています。こうした中で、ICPは、二酸化炭素の排出量を削減する手段のひとつとして注目されているのです。

日立でもカーボンニュートラルの実現に向けて社内の意識が高まる中、ICPの活用にますます期待が高まっています。

「ICPを活用して、これまでは投資効率が悪いとされてきた投資にも積極的にチャレンジしてもらえればと思います。日立は、その結果をお客さまへ還元することで、今まで以上に社会に貢献していくことができると考えています」(久保さん)