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日立、新エネルギーマネジメントシステムを構築 脱炭素化めざす企業に提供へ

2021年11月2日 河野 正一郎
2021年10月8日に行われた記者会見の様子(写真:今村拓馬)

日立製作所は2021年10月、研究開発拠点の「協創の森」(東京都国分寺市)で記者会見を開き、発電や蓄電などの技術を活用して開発した「エネルギーマネジメントシステム」の実証環境を構築したことを発表しました。

同システムは、効率的なエネルギーの運用を可能にし、コストを抑えながらCO2の排出量を削減することができるようにするもの。脱炭素をめざす企業に提供することで、ゼロエミッション化(CO2排出ゼロ化)や持続可能な社会の実現に貢献していきたい考えです。

「省エネルギーと経済性を両立」

島明生・主管研究長(写真:今村拓馬)

今回開発したエネルギーマネジメントシステムは、太陽光発電や蓄電池、ガスコジェネレーション1やEV2急速充電器などの設備を、直流のまま送電する「直流型分散グリッド3 」と接続し、電力の需給調整システムや取引システムなどの運用・制御技術と組み合わせたものです。

日立製作所の島明生主管研究長は、この日行われた会見で、次のように意気込みを語りました。

「省エネルギーと経済性を両立させたうえで、ゼロエミッション化や水素社会への移行を促すシステムができたと考えています。今回のシステムは電力調達から需給調整、電力売買のコントロールまで実現できるので、汎用性が高い。今後、多くの企業と連携して、システムを普及させていきたい」

協創の森に実証環境がつくられた「エネルギーマネジメントシステム」

島さんは、同システムの特徴について、次の3つを挙げました。

1つ目は、「発電設備の故障予測と長寿命化の実現」です。同システムは、太陽光発電や蓄電池といった発電設備の状態を数秒で診断できる技術を使用しています。これによって、それぞれの状態に応じた精度の高い制御が可能になり、発電設備の寿命期間を長くできるようになったほか、故障の予測も短時間でできるようになりました。

2つ目は、「使用電力量と発電量のズレの解消」です。同システムでは、使用電力量や発電量の変動に応じて、蓄電池の充電と放電を短い時間単位で制御することが可能です。その結果、使用電力量と発電量のズレをほぼ解消できるようになりました。

そして3つ目は、「エネルギー調達コストの削減」です。同システムは、AIを活用し、エネルギー取引市場の動向を予測。短時間に蓄電池や発電システムの運用計画を立案します。このため、より安価なコストのタイミングでエネルギー売買の取引が行えるようになり、エネルギーの調達コストを削減することができます。

日立では2020年度から同システムを運用しており、その結果を2018年度の実績と比較したところ、CO2排出量を20%、発電に使うエネルギーコストを30%削減することができたということです。

協創の森に設置された電力の制御盤(写真:今村拓馬)

構想を実現することの難しさ

もともと半導体の研究者だった島さんたちが、新しいエネルギーマネジメントシステムの構想に着手したのは2016年ごろ。「これからは環境負荷のことを考えないといけないよね」と話しあったのがきっかけでした。しかし当時、社内で「ゼロエミッション」という言葉を出しても、「なにそれ?役に立つの?」という反応だったといいます。

こうした中、2019年に研究開発拠点である「協創の森」がオープンすることが決まり、島さんたちの構想も動き始めることになりました。しかし、島さんは、「構想を実現する難しさもあった」と当時の状況を振り返ります。

「蓄電池や太陽光発電の制御技術や、直流型分散グリッドの技術という強みが日立にあるのはわかっていました。しかし、それらをどう組み合わせたらいいか、システム全体のデザインに苦労しました」

取材に応じるエムハ・バユ・ミフタフラティフさん(写真:今村拓馬)

同システムの実現で重要な役割を担ったのが、システムで使われている各技術の研究員たちです。インドネシア出身のエムハ・バユ・ミフタフラティフさんもその一人。徳島県の高等専門学校、筑波大学を経て、2018年に日立に入社し、蓄電池の研究担当になりました。

「もともとは素材の研究をしていた私にとって、蓄電池は新たな研究分野でした。蓄電池はエネルギーマネジメントシステムの実現に欠かせないので、プレッシャーもありとても忙しかったですが、やりがいをもって一生懸命取り組みました」(エムハさん)

協創の森で運用されている蓄電池のボックス(写真:今村拓馬)

5G技術で再エネの無駄遣いをなくす

こうして実現したエネルギーマネジメントシステムですが、島さんはさらなる発展を考えています。多拠点でエネルギーを融通し合える技術と、高速通信が可能になる5G技術を組み込むことで、再生可能エネルギーの無駄遣いを減らしたいと考えています。

「『再生可能エネルギーを100%使用している』と謳っている施設の中には、必要以上に再エネを仕入れてしまい、無駄にしてしまっているところが少なくありません。5Gを活用すれば、実際に必要なエネルギー量が瞬時にわかるので、再エネの無駄遣いがなくなり、省エネルギーを実現できるのです」

さらに、各施設の電力データを瞬時に送信すれば、一定規模の地域で必要なエネルギー量をリアルタイムで把握できるようになります。これは大量のデータを瞬時に送るのが難しい従来のエネルギーデータ技術では、実現不可能でした。

「5G技術によって、多くのポイントから短時間でエネルギー情報を得ることができるようになれば、省エネに大きく貢献できます。これから多くの企業のニーズをうかがって改善していきたいです」(島さん)

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    ガスを燃料として、必要な場所で電気をつくり、同時に発生する熱を冷房・暖房・給湯・蒸気などに利用できるシステム。
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    電気自動車
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    大規模発電所の電力供給に頼らず、コミュニティでエネルギー供給源と消費施設を持ち地産地消をめざす、小規模なエネルギーネットワーク。直流のエネルギー供給源である太陽光や蓄電池からの出力を交流に変換せず、直流のまま送電する。