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社会イノベーション

新型コロナ対策で100万ドルの融資を実施
社員の想いを形にしたアイデアコンテスト


日立製作所のリン アモール・ドブレさん

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、日立は2020年4月、社内のアイデアコンテスト「Make a Difference! Challenge to COVID-19」を開催。新型コロナウイルス感染拡大への対策に特化したアイデアを募集し、わずか2週間で、世界中の日立グループの社員から1,430件のアイデアが寄せられました。

その中でも特に多かったのは、「クラウドファンディングや寄付を通じて中小事業者を支援したい」というアイデアでした。こうした声を形にするため、日立はクラウドファンディングプラットフォームを提供する「Kiva」を通じて、新型コロナウイルスで影響を受けた世界各地の中小事業者に対し、100万ドル(約1億円)の融資を実施することにしました。

このほか、新たなサービスの創出や新しい働き方に関するアイデアなどが寄せられ、実現に向けた検討が進められています。コンテストの企画を担当した日立製作所のリン アモール・ドブレさんに、コンテストの舞台裏について聞きました。

自由な発想が新しいイノベーションを生むきっかけに

――アイデアコンテスト「Make a Difference!」とはどのような取り組みなのでしょうか?

アモール・ドブレ:「Make a Difference!」は、2015年より開催されている社内のアイデアコンテストです。日立グループの柱となる新規事業や成長基盤となる社内改革のアイデアを募り、特に優れたアイデアには、日立の幹部がアドバイザーとなり、受賞者と共にアイデアをブラッシュアップすることで、事業化や実現に向けて検討していきます。

――この取り組みが始まったきっかけを教えてください。

アモール・ドブレ:このコンテストが立ち上がった5年前、日立の経営層は若手社員の育成について強い危機感を持っていました。グループ全体でイノベーションを加速させるには、上司の指示に忠実に従うだけでなく、自ら主体的にイノベーションを起こしたり、働く環境を改善したりできる人財が必要だという考えがありました。そこで、社員の積極性や自主性を後押しする取り組みとして、このコンテストが始まりました。

――これまでに受賞したアイデアにはどのようなものがありましたか?

アモール・ドブレ:教育、エンターテインメント、医療など、日立の事業分野を越えたさまざまなアイデアがありました。たとえば、2017年のファイナリストに選ばれた「感染症予報サービス」は、医療機関から集まる季節性インフルエンザの感染者数に関するデータを日立のAIで分析し、地域内の流行リスクを4週間先まで予報するというものです。受賞後、日立製作所の研究開発グループで事業化の検討が進み、2019年には埼玉県さいたま市で実証実験も行われ、事業化に向けた準備が進んでいます。

この「感染症予報サービス」は、3児の父である研究者が抱えていた悩みがきっかけで生まれました。その他のアイデアも、社員の素朴な疑問や「こんなサービスがあったらいいな」という自由な発想が起点となっています。アイデアコンテストならではの自由度の高さが、新しいイノベーションを生むきっかけになっているのです。

「いま、日立にできることを考えよう」

――今回は、新型コロナウイルスの感染拡大への対策に関するアイデアを緊急募集されましたが、その経緯について教えてください。

アモール・ドブレ:もともとは、例年のアイデアコンテストと同様に、新規事業や社内の業務改善のアイデアを募る形で進めていました。しかし、企画について東原社長へ説明したとき、「新型コロナウイルスによる危機において、世界中の日立の社員が一丸となって社会に貢献できることや、より一層力を発揮するための働き方などに関するアイデアに絞って募集できないか」と提案されました。

そこで急遽企画を変更し、アイデアの早期実現に向けて募集期間も短くすることになったのです。今回の企画には、「いま、日立にできることを考えよう」という東原社長の意志と強いリーダーシップが反映されていると思います。


クラウドファンディングプラットフォームKivaのCOVID-19特設ページ

――そして、クラウドファンディングを通じて融資することになったのですね。

アモール・ドブレ:クラウドファンディングを通じて新型コロナウイルスの影響を受けている事業者を支援したい、という声が多くの応募者から寄せられたため、そのアイデアをKivaで実現することになりました。Kivaは、個人の融資を通じて貧困を緩和することを目的に米国で設立されたNPO団体で、クラウドファンディングを通じて、貧困国の小規模事業者や起業家、農業事業者などを支援しています。日立はこの取り組みに賛同し、2017年よりKivaを通じた融資を行ってきた実績があるので、既存のチャネルをうまく生かすことができました。

日立グループの社員は、Kivaのウェブサイト上で自分が支援したいと思った事業者を選ぶことで、日立の基金から25ドル分の融資を行うことができます。また、社員だけでなく社外の方も参加できるのが、今回の取り組みのポイントです。社外の方は、支援したい事業者へ融資を行うと、日立より融資額と同額が上乗せされます。このように、融資のハードルを下げることで、個人の力でも誰かを支援できる、社会に貢献できるということを多くの人に感じてほしかったのです。

――クラウドファンディングによる融資以外にも、さまざまなアイデアが寄せられたそうですが、どのようなアイデアがありましたか?

アモール・ドブレ:いくつかのアイデアは、実現に向けた検討が進んでいます。たとえば、ニューノーマル(新常態)に対応するアイデアとして、日立製作所のビルシステムビジネスユニットでは、画像解析などの最新技術を活用し、ビル内や生活空間のタッチレス化を加速させるソリューションの事業化を推進しています。また、新しい働き方に関する提案も多数寄せられました。より快適かつ効率的にテレワークを実現するために、脱ハンコやペーパーレス、PCやネットワーク環境の改善に向けた取り組みなどがすでに始まっています。

さらに、社会貢献活動に関するものとして、「子供の教育をオンラインで支援したい」という声がたくさん寄せられました。それを実現した施策の一つに、日立ハイテクが実施した、遠隔操作ができる最先端の電子顕微鏡を用いたオンライン授業があります。国内ではこの夏に、このオンライン授業を社員の家族向けに行いました。同社は同様の取り組みを米国でも行っています。アフターコロナにおけるリモート学習の普及を後押しするため、今後さらにプログラムを充実させていきます。

今回のコンテストが大反響だったワケ


――今回は1,430もの応募がありましたが、なぜそのような大きな反響があったのでしょうか?

アモール・ドブレ:募集を開始した直後から多数の応募が寄せられたのは、やはり、多くの社員が「社会のためになりたい」「社会の課題を解決したい」という気持ちを常日頃から持っているからだと思います。「優れた自主技術と製品を通じて社会に貢献する」という創業者の想いが、110年間受け継がれてきたからこそ、コロナという未曽有の危機に対して、「自分にできることはないか」と真っ先に手を挙げる社員が次々と出てきたのではないでしょうか。

一方で、運営側の努力もありました。今回のコンテストでは、例年以上に、海外からの応募を呼び掛けました。そして、言語や文化の違いなどを考慮し、地域ごとに一次選考を行い、アイデアを絞り込んでいきました。このようにグローバルなチーム体制で取り組んだことによって、多様な視点のアイデアを集めることができたのだと思います。

――今後もアイデアコンテストを通して人財の育成を行っていくのでしょうか?

アモール・ドブレ:アイデアコンテストは、社員の主体性や創造性を育む取り組みの一つにすぎません。私のチームでは現在、社員のパフォーマンスを管理する要素のひとつである「コンピテンシー」の改訂にも取り組んでいます。日立の創業の精神である「和・誠・開拓者精神」を土台としつつ、社会イノベーション事業のグローバルリーダーをめざす上で求められる行動の基準を再定義しました。

コロナ禍のように先が見通せない状況では、お客さまからの要望を待つのではなく、自ら行動を起こし、社会の課題や潜在的なニーズを模索する姿勢が大切です。今後もアイデアコンテストを始めとして、社員の創造性を育む取り組みを企画していきたいです。

  • 公開日: 2020年9月28日
  • 取材・執筆: 永岡うらら