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インフルエンザの流行をAIが予測、「流行予報サービス」の提供開始 新型コロナウイルスへの活用にも期待

地域の流行を予測する「インフルエンザ予報サービス」

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、感染拡大を防ぐ行動が求められており、手洗いやうがい、マスクの着用を徹底したり、三密を避けるように行動したりすることが日常化しています。

感染予防が必要な感染症は新型コロナウイルスに限りません。気温が低く、乾燥した時期に流行するインフルエンザもその一つです。特に今年は、新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行「ツインデミック」による医療現場のひっ迫が懸念されており、予断を許さない状況です。

こうした中、日立はAI技術を活用して、インフルエンザの流行を予報するサービスを開発しました。この技術は、将来的に新型コロナウイルスの流行予報にも活用されることが期待されています。サービスの開発者に話を聞きました。

子どもをインフルエンザから守りたい

開発プロジェクトを率いた日立製作所の丹藤匠さん

感染症の拡大を防ぐためには、感染源を減らすだけではなく、新たな感染経路を絶つことが重要だと言われています。特に、冬の乾燥した時期には毎年のように季節性インフルエンザが流行するため、感染拡大に備えた行動が求められます。

そこで日立は、AIを活用して市区町村の流行を事前に予測する「インフルエンザ予報サービス」を開発しました。あらかじめインフルエンザが流行する地域が分かっていれば、それに備えた行動に繋げることができるという狙いです。開発を担当した日立製作所の丹藤匠さんは、サービスを開発した目的について次のように話します。

「インフルエンザなどの感染症は、流行している地域やこれから流行しそうな地域での対策が重要となります。その地域での流行状況を可視化し、予測までできれば、ワクチン接種や人混みを避けるといった予防のための行動変容に繋がり、感染拡大の防止に役立ちます。そこでAIを活用することで、リアルタイムの罹患者数などさまざまなデータから、地域ごとに感染症の動向を予測するというアイデアを形にしました」

実はこのサービスが生まれたきっかけには、丹藤さんの強い思いがありました。3人の子を持つ父親である丹藤さんは、「子どもがインフルエンザにかからない仕組みをつくりたい」と考え、サービスの着想に至ったと言います。

「子どもが小さいうちは感染症にかかりやすいので、子どもが苦しむことを減らしたいと考えていました。また、共働きの家庭だと、子どもが罹患したら両親のどちらかが仕事を休む必要が出てきます。こうした課題を解決するために出てきたアイデアがこのサービスです。新しい市場があるからではなく、自身の課題意識から生まれたものです」

困難乗り越えたプロジェクトチーム

インフルエンザ予報サービスのトップページ

こうして始まったインフルエンザ予報サービスの開発ですが、その道のりは平坦なものではありませんでした。もともとある技術を活用しての開発ではなく、開発パートナーや顧客も想定していなかったため、手探りの中でのスタートとなりました。解決したい課題とアイデアが書かれた企画書を手に、賛同してくれるメンバーを社内外から探し出し、プロジェクトチームを組みました。

「開発期間も限られていたためスピード感を持って開発を進められるチーム体制が必要でした。そのため、ベンチャー企業など社外の方にも協力いただきながら、製作と改善を繰り返しました。サービスは使いやすく、誰が見てもわかりやすいものにすることを意識しました。具体的には流行度合いを4段階のレベルに分け、子どもでも分かるように流行レベルを顔アイコンで表示するなど、利用者が直観的に理解できるインターフェースになるよう検討を重ねました。また、感染症の情報は人によってはネガティブに感じる可能性もあるため、あまり毒々しいデザインにならないよう工夫しました」(丹藤さん)

こうして試行錯誤を繰り返しながらサービスを完成させたプロジェクトチーム。次に、利用者の反応やニーズを確かめるため、さいたま市と共同で実証実験を行うことになりました。プロジェクトチームは、実証実験を開始する直前まで開発を進め、システムが正常に稼働するのを確認できたのは実証実験の数日前だったといいます。

さらに、利用者からの問い合わせに対応するためのコールセンターを立ち上げたり、利用者へ告知をしたり、連日の作業が続きましたが、最後までチームメンバーが一致団結をした結果、予定通りに実証実験を始めることができました。

実証実験で感じた手ごたえ

開発メンバーとさいたま市との打ち合わせの様子

実証実験は、2019年12月から翌年3月にかけて実施されました。実証を行ったさいたま市は、AIやIoTといった最先端の技術や知見を活用するなど、他の自治体に先駆けた取り組みを行うことで知られています。そんなさいたま市の有山信之さんは、実証実験に参加した理由について、次のように振り返りました。

「私たちは、日々進化するデジタル技術を活用しながら、市民の方々のQoL(生活の質)を高められるよう、取り組みを進めています。一方で、技術が高度化することによるデジタルデバイド(情報格差)が生じていることも課題と感じています。その点、今回のインフルエンザ予報は、簡単で分かりやすく、誰もが利用できるサービスであり、市民のみなさまの『安心』と『安全』につながる有用なサービスになるのではないかと考えて参加しました」

実際に、今回の実証実験でサービスを利用した住民からは、「簡単で分かりやすい」「また使いたい」などの声が寄せられており、手ごたえを感じていると言います。

「コミュニケーションアプリのLINEとも連携しましたが、登録者数は約6,800人ほどとなり、市民の関心の高さを実感することができました。また、利用者からの評価は非常に高く、アンケート結果では7割以上の人が『また利用したい』と答えています。毎年多くの方がインフルエンザに罹患していることも事実であり、このサービスにより、少しでもインフルエンザをはじめとした感染症に罹患する市民が減少していくことを期待しています」(有山さん)

このように利用者からは好意的な声が寄せられましたが、その背景にはサービスの予測精度の高さがありました。実証実験が行われた期間のインフルエンザの流行は、例年とは異なり、収束の時期が早かったのです。しかし、全国4,000以上の医療機関が提供するインフルエンザの罹患者数に加え、さまざまなデータをAIが分析することで、より高度な予測が可能になり、インフルエンザの流行を正確に予測することができたのです。

「例年の傾向として、1月中が最もインフルエンザが流行する傾向にあり、当初私たちはそのような結果をAIが算出してくると予想していました。ところが、AIは12月最終週をピークに、1月には罹患者数が減少すると予測したのです。プロジェクトメンバーからは『そんなことはないだろう。大丈夫か』という声も出ていましたが、結果はAIの予測が的中。実証実験を通じて、予測精度の高さを実感することができました」(丹藤さん)

あらゆる感染症にも応用を

実証実験の成功と利用者からの声を受け、インフルエンザ予報サービスは2020年10月から商用化することが決まりました。丹藤さんは、このサービスを多くの人に利用してもらうことで、感染症の罹患者数を減らしていきたいと考えています。

「国内では、毎年1,000万人ほどがインフルエンザに感染していると言われています。感染により日常生活が不自由になるだけでなく、経済活動への影響も少なくありません。しかし、このサービスを活用すれば、感染症は流行予測をもとに予防していくもの、という新しいライフスタイルを世の中に提案できるものだと考えています。そして、究極的には感染症に罹患する人がいない世の中を実現できたらと思っています」

さらに、インフルエンザの予報サービスは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにも応用できると言います。

「世の中の罹患者数や感染に影響を与えると考えられる情報を蓄積することができれば、流行予測の仕組み自体は、他の感染症にも応用できると考えています。新型コロナウイルスのような新興感染症にも応用していくことを視野に入れ、開発を進めています。感染症はこれからも、人々にとっての課題であり続けると思います。そういった社会における課題に対し、安心安全に暮らしていくための情報インフラの一つにしていければという気持ちで取り組んでいます」

一人の父親の思いから生まれたインフルエンザの流行予報サービス。今後は、新型コロナウイルスをはじめ、あらゆる感染症の予報サービスにも応用されます。社会課題の解決をめざして、開発者たちの取り組みは続きます。

実証実験に携わったプロジェクトメンバー

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