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「デジタルが重要な成長ドライバー」日立デジタル・谷口CEOに聞くデジタル戦略
日立製作所は、2022年4月に「2024中期経営計画」を発表。今後の方針の一つとして、デジタルを中心とした成長戦略を示しました。日立のデジタル戦略とはどのようなものか。日立デジタル社の谷口潤CEOに聞きました。
今後注力するデジタル領域とは
――まず、ご自身の日立における現在の立ち位置やキャリアについて、教えてください。
谷口潤CEO(以下、谷口):私は、2022年4月に発足した日立デジタル社のCEOを務めており、今はアメリカのシリコンバレーにいます。日立デジタル社は、日立グループ全体のデジタル戦略を立案し、Lumada(日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューションやサービスなどの総称)事業を拡大させる牽引役を担います。
私のキャリアはフロントエンジニアとしてスタートし、その後、制御システムのエンジニアを統括する業務を担いました。2019年には家電などを製造・販売する日立グローバルライフソリューションズ社で、家電空調事業のプロダクト統括を行い、今年から日立デジタル社のCEOに就任し、現在に至ります。日立の中を横断してデジタル事業を拡大するために、これまでの経験を生かしていきたいと考えています。
――近年では、日立だけでなく、多くの企業がデジタル関連事業に注力しています。こうしたデジタルの潮流について、どのようにお考えでしょうか。
谷口:これまでは「プロダクトを売って終わり」というようなビジネス形態が多かったですが、今は、さまざまなプロダクトがデジタルで繋がり、日に日に進化しています。デジタルはプロダクトを繋げ、ユーザー体験をより便利で快適なものにするものだと思います。
また、最近話題となっているWeb3.0やメタバース、NFTといった領域についても、非常に大きな機会だと捉えております。まだ黎明期だと感じておりますが、日立としても現在、何ができるか模索していて、間違いなく今後注力していく領域になると思います。
――そうした中で、2024中計における「デジタル」の位置づけについて、どのようにお考えでしょうか。
谷口:日立は「社会イノベーション事業でグローバルリーダーになる」という目標を掲げています。そして、地球環境に寄り添いながら、 人々の生活をより豊かなものにすることが、鉄道やエネルギーなどの社会インフラを提供してきた日立の役割だと考えています。こうした目標を達成したり、役割を果たしたりするために、デジタルが日立の重要な成長ドライバーであると考えています。
4つのデジタル戦略とは
――その成長ドライバーである「デジタル」の事業戦略を具体的に教えてください。
谷口:日立のデジタル事業をより強化・拡大していく戦略は4つあります。まず紹介したいのが、Lumadaを中心とした「循環型のソリューション」を通して、顧客に価値を提供するデジタル戦略です。これを日立では、「Lumada事業の成長サイクル」と呼び、4つのステップで表現しております。
最初のステップでは、デザイン思考(ユーザーや顧客の視点を起点に、価値あるソリューションを見いだす思考法)で課題を見つけます。次のステップでは、その課題を解決するシステムをクラウド上などに構築。3つ目のステップで、構築したシステムとプロダクトを繋げて、稼働状況が分かるようにするなどして、機能の拡大や強化を図ります。そして4つ目のステップで、システムの運用を高度化させ、顧客自身が事業に注力できるようにすると同時に、蓄積された運用データを分析し、新たな課題を見つけます。この成長サイクルを通して、Lumada事業を発展させていきます。
――その他のデジタル戦略とは、どのようなものでしょうか。
谷口:2つ目の戦略は、Lumadaのユースケース(顧客事例)を再利用することです。ユースケースをより汎用的なものにすることで、顧客が再利用しやすくなります。そうすることで、日立のデジタルソリューションをより早く顧客に提供できるなど、日立と顧客、双方にとってメリットがあると考えています。
3つ目は、日立の特性を生かせるマーケットで勝負することです。日立はこれまで、品質や信頼性の高い社会インフラを提供してきました。今後も引き続き、社会インフラ分野を注力マーケットとして捉え、デジタルの力でユーザー体験を高めていきます。
――最後のデジタル戦略は何でしょうか。
谷口:最後はやはり、「デジタル人財の強化・拡充」です。日立はデジタル戦略に注力するため、デジタル人財を今後3年間で約10万人に増やす方針です。日立グループの仲間になったGlobalLogic社は、大学との関係構築やトレーニング機会の提供など、採用や人材育成において非常に良い仕組みがあります。こういう仕組みを日立にも取り入れながら、デジタル人財を強化・拡充していきます。
また、優秀なデジタル人財を確保するためには、「日立が社会貢献できることや提供できる価値」について、社外に分かりやすく伝えることが大切だと考えています。そうすることで、日立への理解や共感が深まり、デジタル人財を獲得しやすくなると思っております。
デジタル戦略を実現する上での課題
――こうしたデジタル戦略を実現する上での課題と、課題解決のための取り組みについて教えてください。
谷口:課題は3つあると考えております。まず、デジタルでできることに対する社内の理解が必ずしも十分ではないことです。この課題を解決するために、日立グループのリーダー層が参加する「日立デジタルサミット」を2022年10月にアメリカで開催する予定です。
このイベントでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)で成功した日立グループの顧客を招き、「どういうカスタマージャーニー(顧客が製品やサービスの購入に至るまでの経緯)を経て事業のDX化を実現し、利益の拡大を成し遂げたのか」といった体験を語っていただき、参加者の学びの機会を作ります。これにより、デジタルを活用してできることへの理解が深まり、デジタル事業の成長スピードがより上がるのではないかと考えております。
――そのほかの課題は何でしょうか。
谷口:2つ目の課題は、「Lumada事業の成長サイクル」を循環させるには、関係する事業部やグループ会社が多岐にわたるため、効果的に連携して目標に向かうことに難しさがあることです。この課題を解決するには、まず日立デジタル社が事業部やグループ会社をリードしながら、共同でビジネスプランを作ってそれぞれの役割を明確にしていく必要があると思っています。
また、ユースケースを再利用しやすくすることも課題です。これまでも、再利用の促進に向けた取り組みは進めてきましたが、ソリューションを作る側の視点が強く、利用する側の視点が欠けていた部分があります。利用する側を巻き込んでソリューションを作らなければ、ユースケースの再利用が進まないですよね。そのため今は、ソリューション開発のためのルールブックの整備を進めています。
こうしたことが、デジタル事業を成長させる上での課題になり、我々が解決に向けて取り組んでいることになります。
日立がめざすデジタルで実現する社会
――「デジタル」を通じて、日立が今後、実現したい世界についてお聞かせください。
谷口:地球環境を壊してまで便利で快適にするという考えは、もはや社会にとって受け入れられません。デジタルを通じて、地球環境を保全しながら、人々の暮らしをより快適に、安全・安心にしていくことが、日立が果たすべき役割だと私は考えています。
日立が今後実現したい世界は、サステナブルでウェルビーイング(心と体と社会の良い状態)な社会であり、デジタルを活用し顧客と協創することで、こうした社会の実現に貢献していきます。