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日立の人:「若者にICTの魅力を伝えたい」日立のセキュリティ専門家の挑戦
急成長を続けるIT市場。テクノロジーの進化により、私たちの生活は格段に豊かになりました。その一方で、経済産業省によると、日本では2030年までに、ICT(情報通信技術)を担う人財が最大で79万人不足すると予測されています。AIやIoT、ビッグデータなど、最先端の技術を駆使して新たなサービスを生み出すには、ICT人財の育成が急務となっています。
こうした中、日立ソリューションズ・クリエイトの白坂理佳さん(31)は、未来のICT人財を育成しようと、高校生たちにICTの魅力を伝える活動を行っています。白坂さんの活動に迫りました。
高校生が楽しくICTを学べるイベント
白坂さんは大学でプログラミングを学んだ後、2012年に日立ソリューションズ・クリエイトに入社。セキュリティに関するツールの整備やマルウェア解析などを担当し、サイバーセキュリティのスペシャリストとして活躍しています。
しかし、白坂さんのようなICT人財はいま、減少の一途をたどっています。その原因として指摘されているのが、少子高齢化と人口減少です。そこで白坂さんは、より多くの若者にICTの魅力を伝えるため、未来のICT人財を育成するイベントの立ち上げに参加することを決めました。
白坂さんが参加したのは、高校生向けのイベント「シンギュラリティバトルクエスト」。「楽しい×スキルが身につく」をコンセプトに、ICTの知識や技術を競い合います。パソコン部やプログラミング部、ロボット部などの部活に所属する高校生が全国から集まり、各校3人1組のチームを組んで対戦します。
イベントは、予選と決勝がそれぞれ実施されます。予選ではICTの基礎知識に関する問題がクイズ形式で出題され、そこで好成績をおさめた上位チームが決勝に進みます。
決勝は、5つの種目によって構成され、それぞれの種目の合計ポイントを競います。5つの種目は、サイバーセキュリティに関する知識を競う「サイバークエスト」、構築したAIの予測精度を競う「AIクエスト」、自動走行型のロボットカーでレースを行う「ロボクエスト」、データを使って街中の人口変動を正確に予測する「データクエスト」、そして構築したチャットボットの精度を競う「Xクエスト」です。
高校生向けの問題作成の難しさ
イベントは2019年、「第0回大会」として試験的に初めて開催されました。白坂さんはその立ち上げに参加。セキュリティに関する仕事に携わってきたことから、決勝5種目のうち、「サイバークエスト」の競技開発と運営を担当することになりました。
「普段の仕事では、高校生と直接話す機会はなかなかありませんが、このイベントを通して、ITサービスの開発に興味を持ってくれる子を増やすきっかけ作りができるのではないかと思い、参加を決めました」
「サイバークエスト」は、サイバーセキュリティに関する知識を競う種目。「このPCのパスワードを導き出してログインせよ」「この暗号文をプログラミングを使って解読せよ」といった問題が出題され、高校生は自らの知識や専用のソフトウェアを使って、隠されたキーワードを探し当てます。
しかし、いざ問題作成に取り掛かると、さまざまな壁に直面します。もっとも苦労したのは、日常では聞き慣れない専門用語ばかりのセキュリティの問題を、高校生が興味を持つ内容にすることでした。
「最初は社内で実施したセキュリティコンテストの問題を流用しようと思いました。しかし、開発者やSE向けに作られた問題で、『あなたの部下がパスワード付きZIPをお客様に送っていました…』などといった社会人向けの問題文でした。これを高校生向けにカスタマイズすることに苦労しました」
高校生が「自分ごと」として挑める問題を
どういった問題にすれば、いまの高校生に興味を持ってもらえるか――。白坂さんは、Tik Tokやタピオカミルクティーなど高校生の間で話題になっているものを調べたり、高校生の弟に話を聞いたりして、問題作成に取り組みました。
また、問題の難易度も簡単なものばかりではスキルアップにつながりません。そこで、難易度の高い問題と低い問題をバランスよく出題するように工夫しました。
「Twitterや公衆Wi-Fiなど、高校生にとって身近な話題をセキュリティ問題に取り入れました。例えば、『あなたが外食したときの写真をツイートしたら、友達から居場所を特定されました。なぜバレてしまったのでしょう?』といった写真の位置情報に関する問題などを作りました」
このように高校生にも親しみやすい問題を一つ一つ作り上げていった白坂さん。さらに、出題数は全20問、制限時間は45分というルールを設定し、「サイバークエスト」を競技として完成させ、2019年の「第0回大会」を無事に開催させることができました。
コロナの影響でリモート開催することに
そして翌20年には、前回の経験を踏まえ、「第1回大会」が開催されることになりました。白坂さんは引き続き、「サイバークエスト」の競技開発と運営を担当することになりましたが、不測の事態が発生します。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、大会がオンライン開催となったのです。
前年は高校生が会場に集まり、事務局が用意したPCやネットワーク環境を使って問題を解きましたが、この年は全国の高校生がリモートで参加できるように競技環境を作り直さなくてはいけませんでした。
「問題を解くために必要なツールが一通り揃っている環境を提供しなくてはいけないのです。前年度の大会で得たノウハウが役立つ部分がありましたが、大部分は一から手探りで始めることになりました」
いろいろと検討した結果、クラウド上に仮想のPC環境を作り、各校のパソコンから遠隔で接続してもらうことにしました。本番ではトラブルが想定されるため、高校生たちにも予行練習としてクラウド環境を体験する機会を設けました。
事前の予行練習などで高校生と触れ合ううちに「すっかりみなさんの成長を見守るサポーターになってしまった」と顔をほころばせる白坂さん。半年間の準備を経て2020年12月、「第1回大会」の決勝が開催されました。
決勝には、全国から予選を勝ち抜いた6チームが参加。リモートで参加している高校生たちの様子は、実況会場の中継画面に映し出されました。そんな様子を白坂さんは固唾を飲んで見守ります。
「高校生たちが問題を解いて『やった!』と喜んでいる姿を見ると、自分もついつい『よかったね!』とうれしくなってしまいます。競技大会とはいえ、参加者全員を応援している気持ちです」
白坂さんが作った問題に楽しみながら挑戦する高校生。逆転劇などもあり、大会は大いに盛り上がりました。参加した高校生からは、「来年も参加したいと考えています」「練習してきたことが出し切れて本当によかったです」などの声が寄せられ、大会は盛況の内に幕を閉じました。
未来のICT人財を育てるために
こうして、2年続けて「シンギュラリティバトルクエスト」の運営に携わってきた白坂さんですが、すでに来年の大会を視野に入れて準備を進めています。
「次回は高校生一人ひとりとお話しする機会を作り、着実にスキルアップにつながる競技を作りたいと思っています。そして、個々のレベルや興味・関心に合わせた学習支援も行っていきたいです」
白坂さんはこれからも、未来のICT人財を育成するために、高校生たちにICTの魅力を伝え続けたいと話します。
「高校生の育成に関われること、成長していく姿を間近で見られることに、やりがいを感じています。将来、大会に参加した高校生がICT関連の仕事に携わるだけでなく、世界中の人が使うサービスを開発するかもしれません。そんな未来を作るきっかけに関われているのは、すごく貴重なことだと思います」
少しでも多くの若者にICTの魅力を伝え、未来のICT人財を育てたい――。白坂さんの挑戦はこれからも続きます。