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岩見沢市の農業をサステナブルに 日立の「自立型ナノグリッド」に高まる期待

日立製作所と北海道大学の共同研究施設「日立北大ラボ」は2021年11月、北海道岩見沢市に「自立型ナノグリッド」の実証施設を開設しました。

「自立型ナノグリッド」は、太陽光や温泉ガスなどを活用した自前のエネルギー供給源を持つことで、エネルギーの「地産地消」を可能にする小規模な電力システムのことです。

農家の減少が進む岩見沢市の「スマート農業」を促進するとともに、災害時の非常用電源として期待が高まっています。どのような取り組みなのか、取材しました。

過疎化が進む岩見沢市の課題

北海道でも有数の農業地帯である岩見沢市

岩見沢市は、札幌の北東およそ40キロメートルに位置する面積481平方キロメートル、人口およそ7万8,000人の中規模都市です。他の地方都市と同じく、岩見沢市では人口減少や少子高齢化が急速に進行。市の基幹産業である農業の持続可能性を高めることが課題となっています。

さらに、岩見沢市は居住地域が広く分散していて、生活インフラとして欠かせない「電気」をすべての市民に安定して供給することも課題です。2018年に北海道全域をおそったブラックアウト(大規模停電)の時は、岩見沢市も丸1日以上停電が続き、既存の電力系統に依存するリスクが浮き彫りになりました。

自立型ナノグリッドの仕組み

こうした課題を解決するために期待されているのが、既存の電力系統に依存しない「自立型ナノグリッド」です。ナノグリッドとは、大規模発電所の電力供給に頼らず、地域で自前のエネルギー供給源と消費施設を持って「地産地消」をめざす小規模な電力システムのことです。

今回実証実験が行われている施設では、農業支援および非常用電源としてナノグリッドの活用が進められています。岩見沢市情報政策部長の黄瀬信之さんは次のように語ります。

「電力事業者にリスク対応も含めてすべてを任せるのは現実的に難しい状況です。コンパクトなナノグリッドであれば、地域の抱える諸問題の解決につながるのではないかと考え、トライアルを始めました」

温泉ガスや太陽光で発電

実証実験中のナノグリッドでは、複数の種類の燃料を燃焼させる「マルチ燃料エンジン」と太陽光パネルを組み合わせて、25キロワットを発電することができます。

そのうちの15キロワットを発電する燃料となっているのは、市内の温泉から出る「温泉ガス(メタンガス)」や農作物の収穫時に発生する野菜くずなどを発酵させて得られる「低濃度エタノール」などです。

岩見沢市内には何カ所か温泉があり、今回は、市内の温泉ホテルの横に、ナノグリッドが設置されました。温泉ガスはこれまでもホテルで利用されてきましたが、余剰のガスは捨てられていました。これを利用し、温泉ガス7割と軽油3割を混ぜたものを燃やして発電します。

残りの10キロワットは太陽光パネルで発電する仕組みですが、天候などにより太陽光パネルの発電量が変動しても、マルチ燃料エンジンの燃焼を制御することで安定的に25キロワットの発電出力を確保できます。

こうして発電した電気は、農業用ドローンの電力源として実証が進められているほか、災害時などに非常用電源として利用することができます。

ナノグリッド活用でCO2排出も削減

日立北大ラボのラボ長代行、竹本享史さん

ナノグリッドの実証実験を進める日立北大ラボの竹本さんは、「廃棄されていた温泉ガスと太陽光を利用することで、農家さんの電気代を、従来の7割減にできます」とした上で、次のように話します。

「日立のナノグリッドを通じて得られた電力を使えば、農薬散布などに使う農業用ドローンを低コストで運用できます。農業従事者の金銭的負担を減らすことができ、農業の持続性確保に役立つと考えています」

農業用ドローンの本格的な実証実験は、2022年の春から始まる予定です。竹本さんは、「ここからは、ドローンメーカーや農家さんと組んで運用実験を進めていく計画です」と意気込みます。

また、化石燃料への依存を減らすことで、既存の電力系統と比較して、二酸化炭素の排出量を3割減少させることができるといいます。農作業にともなう二酸化炭素の排出量を削減し、低炭素化に寄与することができるのです。

「脱炭素社会の実現に向けて、各分野で二酸化炭素の排出量を削減することが求められています。農業生産においても、化石燃料ではなく再生可能エネルギーの利用が進めば、二酸化炭素の排出量を減らし、カーボンニュートラルに近づけていくことができると考えています」(黄瀬さん)

ナノグリッドに高まる期待

岩見沢市では、農業における活用のほか、もしもの場合に市民の安全を守る電力源として、ナノグリッドに対する期待は大きいといいます。

「現代の生活では電気が欠かせません。もしもの時にナノグリッドがあることで、市民の皆さんに安心感を持って生活してもらうことができると考えており、このプロジェクトの可能性に大きく期待しています」(黄瀬さん)

構想中のナノグリッド相互連携システム

さらに期待が高まっているのが、ナノグリッドの相互連携です。北海道では、岩見沢市以外の地域でも、非常用電源の確保や過疎化の課題を抱えています。

そこで日立は、ナノグリッドを他の地域に展開していくことを構想しています。そして、それぞれの地域のナノグリッドを連携させ、蓄電池やEVなどによるネットワークをつなぐことで、互いに電力を融通することができるようなエネルギーシステムを実現したい考えです。

「まずは岩見沢市のナノグリッドで、再生可能エネルギーを組み合わせた産業モデルを作りたいと考えています。そして将来的にはナノグリッドを連携させ、再生可能エネルギーを軸としていろいろなサービスを提供できる、そういったことが発展形としてできればと考えています」(竹本さん)