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日立、「スマートテクノロジー」で農業の発展に貢献

2021年11月18日 編集部

あなたは今、エメラルドグリーンの草原に立っています。周りには、牛の群れがいます。毛並みのつやつやした元気そうな牛たちです。聞こえるのは、そよそよと吹く風の音、鳥のさえずり、牛がおいしい草を満足げに食べる音だけです。

一見すると、単純な風景のように見えます。しかし、その裏には、米国の酪農家ハッピー・カウ・クリーマリーによる緻密な日々の作業があります。

幸福な牛を、ずっと幸せに――。それが、酪農家・起業家としてハッピー・カウ・クリーマリーを経営するトム・トランサム三世の目標です。酪農・乳製品製造業で成功する上で重要な目標ですが、簡単に達成できるものではありません。

トランサムさんは、この目標を達成し、サステナブル(持続可能)な農業を維持しつつ、可能な限り最高の製品を生産するため、アイデアとソリューションの提供を日立に依頼しました。

乳製品製造所と酪農場の経営を容易に

トランサムさんの一家は、農場で生産された酪農製品の加工と包装を目的として、2002年にハッピー・カウ・クリーマリーを立ち上げました。トランサムさんの父親、トム・トランサム二世は1990年代に、「12エイプリルズ・デイリー」と名付けた酪農法を開発。年間を通して新鮮で健康的な飼料を与えることによって、牛たちの健康と満足感を高めるもので、栄養価の優れた牛乳を飲む人間にとっても健康的な酪農法です。トランサム二世は、米国で最もサステナブルな農家として、2002年にパトリック・マッデン賞を受賞しました。この遺産を引き継いだトランサムさんは、日立と協力し、農場管理のための技術開発に乗り出しました。

トランサムさんにとって大きな課題の一つだったのが、牛乳やアイスクリームなどの酪農製品を保管する冷凍庫・冷蔵庫の温度をモニタリングすることでした。トランサムさんにもスタッフにも、365日24時間体制で温度を見る余裕はありません。しかし、常時モニタリングしなければ、機器の小さな故障が悲惨な結果を招く恐れがあります。問題が起きたことに気づくまでに、何千ドルもの価値を持つ製品が失われる可能性があるのです。

2018年に日立の営業担当者がトランサムさんに連絡を取り、冷蔵庫用センサーの試験的導入を打診。日立はトランサムさんと協力し、ソリューションを開発しました。このソリューションでは、センサーが冷蔵庫・冷凍庫の温度を監視し、必要に応じて警報を発します。

「このクーラーセンサーがあれば、全ての冷蔵装置にリモートセンサーを取り付けられます。電話やコンピューターで管理画面を開けば、現在の正確な温度を知ることができます。私たちは前もって温度をチェックでき、問題が起きれば警報を受け取ることができるのです」(トランサムさん)

この技術によって、トランサムさんとスタッフは日々の業務を効率化することができました。

「トラブルが起きたというテキストメッセージなどを携帯に受信するまでは、製品の温度のことを考えずに済みます。このシステムがあって本当に助かっています」

酪農場の溜池管理に関しても、トランサムさんには助けが必要でした。溜池には、「酪農場の牛から出た排出物を溜めておく」、「排出物を農場の牧草地に撒く天然肥料に転換する」という2つの役割があります。サステナビリティ(持続可能性)を実現するための重要な手段である溜池には、注意深いモニタリングと管理が必要です。その答えが日立のモニタリングシステムでした。

「日立のセンサーを溜池に取り付けた結果、水位を監視できるようになりました。大きな嵐が来たり大雨が降ったりして、ポンプ排水が必要なレベルまで水位が上がると、警告を受け取ることができます。私たちは溢れそうになった溜池の水を抜き、牧草地に撒きます。そうすることで、肥料を買わなくても、牧草地に肥料を施すことができるのです」(トランサムさん)

また、牛たちがストレスなく健康に過ごすためには、十分な飼料を与える必要があることは言うまでもありません。これを実現するため、日立ハイテクアメリカのクレイグ・カーコーヴ社長兼CEOは、「飼料を保管するタンクに付けるセンサーを開発する必要がありました」と話します。

「このセンサーは、飼料発注が必要な時期を飼料の買い手に通知します。また、配達の時期が来た時に、飼料販売業者に連絡する方法も教えてくれます。これにより、飼料の在庫レベルを人間が常にチェックする必要がなくなりました」(カーコーヴ社長兼CEO)

トランサムさんは「どの酪農場もたくさんの仕事を抱えていて、常に作業を並行して進めています。飼料の購入と管理は忘れやすいことなので、このシステムがあることで安心感が生まれます」としています。

管理作業をテクノロジーが肩代わり

日立のテクノロジーを導入したことによって、トランサムさんとハッピー・カウ・クリーマリーのスタッフの仕事は楽になりましたが、導入のメリットは、それだけにとどまりません。日立のサポートのもとで、トランサムさんはお客様に最高の製品を提供しているという確信が持てるようになりました。

「当農場の牛乳は、華氏40度(摂氏約4.5度)を超えると賞味期限がぐっと短くなりますが、華氏36~38度(摂氏約2.2~3.3度)の低温で保存すれば、スーパーマーケットで購入できるどの牛乳よりも賞味期限が長くなります」(トランサムさん)

また、多くの農場は、環境への悪影響やコンプライアンス違反といったリスクにも対処しなければなりません。これについても日立がサポートしていて、日立アメリカのデジタル・ソリューション・アーキテクトであるウダヤン・ジョシー氏は次のように話しています。

「米国の農家にとって、環境コンプライアンス違反の影響は単なる罰金で済まないことがあります。環境に悪影響を及ぼす事象を発生させたら、政府の認可が永久に取り消される可能性があります。このソリューションは、センサーデータを取り込み、別のデータソースやモデルと組み合わせることで、溜池の溢れ、動物の健康状態など、環境に悪影響を及ぼすおそれのある問題とそれに関連するリスクへの対処が可能です」

農業でサステナビリティを推進

日立は、より良い製品を消費者に供給し、サステナビリティを高められるようサポートすることが重要だと考えています。企業が提供する製品やサービスを通じて、環境に害を与えるのではなく、環境を助けることが大切なのです。

「ハッピー・カウ・クリーマリーの作業を効率化するために、私たちが実現したことを見れば、このプロジェクトの背景にはイノベーションと誠意があるのだと、分かっていただけると思います」(カーコーヴ社長兼CEO)

そして、スマート農業ソリューションを進歩させるうえで、日立とハッピー・カウ・クリーマリーとのコラボレーションは重要です。

デジタル・ソリューション・アーキテクトのジョシー氏は「日立は特注のセンサーを開発しましたが、開発時には、さまざまなテクノロジーを用いて試行錯誤を繰り返しました。ハッピー・カウ・クリーマリーは、日立が多様なテクノロジーを実践することを可能にしてくれた大切なパートナーです。そしてこれは全員にとってプラスになりました」と話します。

日立はハッピー・カウ・クリーマリーとのパートナーシップを活用し、新たなセンサー技術を開発するとともに他の作業ツールとの統合を図り、農業の作業効率向上を実現しました。

「日立スマート・アグリカルチャーは、農業プロセスと作業能力の改善を可能にすると同時に、環境とサステナビリティにより良い結果をもたらします。一方のために他方を犠牲にすることはありません。これこそがスマート農業に対する日立のアプローチです」(ジョシー氏)

牛、消費者、農家の幸福度を高める

日立は、「生き物のインターネット(Internet of Living Things)」と呼ばれるアプローチに従い、環境に決して悪影響を与えない形で人が自然と関わるようにします。このコンセプトは、食料生産サプライチェーンのあらゆるセグメントにデジタルテクノロジーを適用し、環境と経済のサステナビリティを高めるというものです。

日立と「生き物のインターネット」は、ハッピー・カウ・クリーマリーが牛乳生産に取り入れていた効率的で管理しやすいプロセスをさらに強化しました。そして、トランサムさんにとって、これは最終的に一つのことに行き着きます。

「お客様が当農場にいらして、私たちから製品を直接買ってくださり、私たちが提供する製品に対して感謝の気持ちを示してくださる。これらすべてのことが、一日の終わりに満足感を感じさせてくれるのです」(トランサムさん)