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未来の暮らしと働き方はどうなる?「次の社会の作り方」を考える
地球温暖化や紛争、少子高齢化といったさまざまな課題が複雑に絡み合った現代社会。20年後、30年後の将来に向けて、より良い「未来社会」を自らの手で作っていこうとする人々がいます。
日立製作所は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」にプラチナパートナーとして協賛し展示します。「Society 5.0 を目指す未来の都市=経済発展と社会課題の解決を両立する人間を中心とした都市の姿を浮かび上がらせる舞台」というビジョンに共鳴した協賛者が協力し、未来の都市像を描いていきます。
それに先駆けて、「好奇心が駆動する社会 - Society 5.0に向けて」と題したウェビナーを開催し、日立製作所の丸山幸伸をナビゲーターに、共同出展企業であるクボタの廣瀬文栄さんとKDDI総合研究所の菅野勝さんと一緒に「次の社会の作り方」について話し合いました。
新しいビジョン、新しいライフスタイル
丸山幸伸(以下、丸山): 本日のナビゲーターを務める、日立製作所の丸山です。今日は「次の社会の作り方」をテーマにお話しいただきたいと思います。クボタの廣瀬さんはブランドコミュニケーション部門で、新しい未来に対する目線で情報発信に取り組まれており、KDDIの菅野さんは研究開発の立場から「人の価値観」を洞察する取り組みをされています。このあたりを深く掘り下げた議論をさせていただきたいと思い、お二人をお招きしました。まず廣瀬さんから、お話をうかがえますか。
廣瀬文栄(以下、廣瀬): クボタは創業133年の企業ですが、食料・水・環境で社会課題の解決を図り、「ものづくり」を基軸としてやってきました。130周年を機に、長期ビジョンとして「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」を掲げました。
社会課題が複雑に絡み合っている中で、クボタのビジョンを、ステークホルダーに伝えていくのが、私の仕事の基本です。
丸山: そのビジョンはどのような背景で掲げることになったのですか?
廣瀬: 地球環境問題や資源枯渇などの課題がある中、循環型社会をつくるために、クボタが何ができるかを考え、新たにビジョンを設定しました。
クボタというと、トラクターや田植え機のような農業機械のイメージがあると思います。しかし今日では、農家さんだけでなく生活者に対して、食料や水、そして暮らし全般において、新しいソリューションを生み出すべく、ビジョンを掲げた経緯があります。
丸山: 菅野さんからも取り組みのご紹介をお願いします。
菅野勝(以下、菅野): KDDI総合研究所には、いま二つの研究拠点があります。私が所属する『KDDI research atelier』でライフスタイルリサーチを行い、そこで必要な技術を『先端技術研究所』で開発する。そうした両輪で回していく取り組みをしています。
ライフスタイルリサーチとは、食や購買、健康などの9つの分野で、生活者の変化の兆しを捉えて、それが2030年にどのようなライフスタイルをもたらすか、必要な技術はなにかについて、研究する取り組みです。
丸山: KDDIさんは一般的に、スマートフォンなどのサービスを提供する「民生品の会社」として見られている一方で、海底ケーブルや無線基地局などのインフラを支える会社でもあります。人に見えづらい技術を担うインフラ企業がライフスタイルを研究することの意味は、どこにあるのですか。
菅野: 我々は通信技術そのものの研究もしていますが、通信は生活に入り込んでいて、皆さんが気付かないところで多く使われています。生活の中でさまざまなデータを集め、それらをサイバー空間で解析して、その結果をフィジカル空間にフィードバックしていく。通信を使いながら、より豊かな生活を送れるよう、生活者目線で考えることが重要だと思っています。
未来社会をどう捉えるのか
丸山: 廣瀬さん個人としては、どう「未来の社会」を捉えていて、どんな課題があると感じていますか。
廣瀬: 大学生の娘が二人いるのですが、これから社会に出て行くにあたって人生を考える時期にあります。「組織に属して働くこと」について話すとき、彼女たちは「日本で働くのか、それとも海外で働くのか」という選択肢が普通に出てきます。「これからの30〜40年を過ごすうえで、日本は適した場所なのか」といった問いが浮かんできます。
理系の次女から「自分の専門性や能力は、日本企業で発揮できるのか」と聞かれます。私も、ものづくりメーカーで長らく働いてきて、「企業にどう貢献できるのか」という意識が強くある一方で、「組織を通じて社会にどう貢献できるのか」という思いもあります。
紛争や災害、インフラの老朽化などによって、20〜30年後の食料・水・環境がどうなるのだろうと問われたとき、「組織を通じて未来社会を作る私はどうしたらいいか」を自分の言葉で説明しなければと感じますね。
一方で、現状をみると日本社会で働くことは、「本当にオススメできるかな?」と素直に思ってしまいます。家庭を持ちながら仕事でも活躍できるのか、私が若い頃に比べると変わった部分もありますが、一方で何ら変わらないところもある。「このままでいいのかな」と強く思います。
菅野: 私も「日本は大丈夫かな」と思うことがあります。社会にやさしい行動や環境問題への取り組みは、ヨーロッパ、特に北欧で進んでいるので、日本でも取り入れて、より住みやすい社会を作ることが重要ですね。
丸山: 国内でもすでに取り組んでいる先進的な事例はありますか。
菅野: 私のいるKDDI research atelierでは、先進的な生活者たちと共創する「FUTURE GATEWAY」というコミュニティを作っています。先進的な生活者のことを、いろいろな境界を越えていく「越境走者=t’runner (ランナー)i」と呼んでいて、そうした方を集めたイニシアチブです。
越境走者の人たちは、サバンナの動物のように、自分のやりたいことにどんどん突き進み、境界や制約なく動いています。例えば、「多拠点生活者」や「ポートフォリオワーカー ii」と呼ばれる人たちがいます。
一例として、「多拠点生活者」が集まるような社会では、住民参加型の多様なコミュニティが生まれ、議論を繰り返しながら「未来社会ってどうなっていくのか」と考える。小さいコミュニティから大きくなって、次の社会を作り上げられるようなシナリオができるといいですね。
未来社会の創造に主体的な子どもたち
丸山: 廣瀬さんが、ご家族の未来に対する心配を話していましたが、娘さんたちは、いろいろな顔を持って、いろいろな地域や組織で力を発揮していく素養があるのかもしれませんね。そうすると、我々がこれまで当たり前だと思っていたような暮らしの「向こう側」へ行けるのではないかという予感がしました。
廣瀬: 私も未来社会については課題だけでなく、可能性を感じます。私たちは今年、北海道の北広島市に、農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT」を作りました。「“食と農業”の未来を志向する仲間づくりの場」をコンセプトにしています。
私たちは生きるために食べますが、それを支えているのが農業です。農業にいろいろな課題がある中で、一個人として何ができるかを考える場として開設しました。多感な時期の小学校高学年の児童と話していると、本質を捉えていて、自分事として「食と農業」の課題や可能性を語るんですよね。そのエネルギーを見ていると、大人のほうが受け身で、次世代のほうが主体的だなと感じます。
小学生に限らず、中高生や大学生とディスカッションしても、夢や希望を持っている子どもたちは多く、「イギリスでオーガニック農業を勉強する」とか「地域の特産品を広める活動をしている」といった強いエネルギーを持って行動しています。次世代の彼らとともに、未来社会を作る重要性を感じています。
丸山: 個人が、会社や組織をうまく使って「私たちのありたい社会」を実現する流れが出てくると、より良い参加型社会ができるのではないでしょうか。では、理想の未来社会の実現に向けて、どんな取り組みをしていこうと考えていますか。
廣瀬: クボタは今、「KESG経営」として、クボタらしいESG経営(環境・社会・ガバナンスを重視した経営手法)を進めていこうとしています。ステークホルダーの方々とともに未来社会作りを考え、動き出すことを軸に置いています。
これまでは「農機を売る」だけだったのが、持続可能な農業のために、農家さんと直接つながる仕組みを作っています。顧客の方々とより近い関係性を築き、ともに未来に向けてチャレンジする場を作ることに力を入れています。2024年の年明けには「GROUNDBREAKERS」という、農家さんや業界関係者がオンラインでつながる1万人規模のイベントを企画しています。
また先日は小学生と「アグリキッズサミット」をリアルとオンラインで行いました。小学生もチャットの書き込みで「こんなことにチャレンジしたい」と寄せてきます。こういう場をどんどん作っていきたいですね。
「未来の都市」を一緒に考えたい
菅野: KDDIは通信キャリアとして、「KDDI Digital Twin for All」という構想を掲げています。通信が生活に溶け込む中で、生活者のさまざまなデータを収集して、それをサイバー空間で解析してフィジカル空間にフィードバックするようなループを作ることで、生活を豊かにしていこうというものです。
また、LX(ライフトランスフォーメーション)にも取り組んでいます。DX(デジタルトランスフォーメーション)が業務効率化につながるものだとすると、LXは生活を良い方向へ変えていくものです。
LXの事例としては、ドローンによる物流やメタバース(仮想空間)のほか、衛星通信を使って「空が見えれば、どこでもつながる」といったものがあります。これらの技術によって生活を変革する一方で、KDDI総合研究所としては、生活者の目線で、生活をどう変えるかに取り組んでいます。
丸山: 日立製作所は、KDDIさんとクボタさん、その他9社と連合して、2025年大阪・関西万博で「フューチャーライフ万博『未来の都市』」というパビリオンを設置します。「未来の都市」について考え、議論していくライブショーケースを作ろうと取り組んでいます。今日のお話はその大きなヒントになると感じました。
モノを売ったり、機器やインフラを作ったりしている会社が、地域や市民と一緒になって、「未来の社会に向かって、みんながいかにして行動を変えていけるのか」「自分の能力を、どのように発露していけばいいのか」を考える。そうしたことを支える事業を、万博の展示のなかで発信できたらいいなと思います。
廣瀬: 未来都市において、食と農業はどうなっていくのか。もちろんスマート農業なども取り上げたいと思いますが、単なる紹介ではなく、課題解決におけるテクノロジーの重要性や、そもそも「なんのためにやっているのか」という問いかけをしていきたいですね。
これまで100年以上続いてきた「企業が価値を創造していくこと」の意義が、今すごく問われています。新たな価値の作り方を、皆さんと一緒に考えていきたいです。
菅野: 未来の都市を作っていく中では、日立さんの社会インフラや我々の通信インフラがベースとなって、クボタさんの食と農業や他の協賛者さんの領域を支えていることを見せていきたいです。そうすることで、子どもたちが未来に期待を持てるような展示にできればと思っています。
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