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「イノベーションに必要なのは強い意志と三つの知恵」日立・小島社長

2023年9月27日 清水 美奈
基調講演に立つ日立製作所の小島啓二社長兼CEO(写真:齋藤 大輔)

日立グループのビジネス戦略を発表するグループ最大規模のイベント「Hitachi Social Innovation Forum(HSIF) 2023 JAPAN」が東京ビッグサイトで開催されました。日立が取り組む社会イノベーション事業について、最新技術の展示や識者の意見を交えた講演による60以上のプログラムが披露されました。

初日は、日立製作所の小島啓二社長兼CEOが基調講演に立ち「(日立)自らがイノベーションを起こすとともに、お客さまのイノベーションを支えることで持続的な経済成長を実現し、より良い社会づくりに貢献していきます」と述べました。

日立がめざすイノベーションの未来

小島社長は基調講演の冒頭、日本で急速に進行する少子化と人口減少への失望感や閉塞感に対し「イノベーションの力こそが打開する鍵になります」と強調しました。

小島社長(写真:齋藤 大輔)

日立がめざす社会イノベーションは「POWERING GOOD」、すなわち世界中の人々が望む良いこと(GOOD)を実現しようという強い意思から始まります。穏やかに暮らしていけるような健全な地球環境、より良い生活を送れるようになる経済成長、そして日々の幸せ。人々が望むことに対し、社会イノベーション事業を加速させることで、その実現に貢献してきました。

意志と三つの知恵

イノベーションを生み出すための要件について、人類初の有人動力飛行を成功させたライト兄弟の道のりを例に挙げて、小島社長は説明します。

「人類初の有人動力飛行というイノベーションは、空を飛びたいという2人の強い『意志』から始まりました。文献にあった膨大な『情報』から得た先人の知恵を使い、『行動』して新たな知恵を獲得し、『科学』的な実験を繰り返して知恵を深めて、彼らは飛行に成功しました」

ライト兄弟のイノベーションへの道のり

つまり、イノベーションは、人間の「意志」から始まり、「情報」「行動」「科学」から得られる三つの知恵の掛け算によって生まれるものなのです。

イノベーションが生まれる構図

飛行機の誕生で、それまでよりもはるかに容易に、世界中を移動することができるようになりました。人々の新たな出会いや経験が広がって、新しい意志が生まれ、次のイノベーションにつながっています。

ライト兄弟と同じように、日立にも「POWERING GOOD」という強い意志があります。この意志を実現するための「情報」「行動」「科学」、そして今、それらを強化する次世代のキーテクノロジーとして、生成AI、バイオテクノロジー、量子コンピューターに日立は着目しています。

AI新時代の本格到来

生成AIはイノベーションを語る上でも欠かせない技術になっています。小島社長は「生成AIの本質は、人類の『言語に基づく知能』をモデル化した点」と言います。

大量の知識を学習させた、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるニューラルネットワークの上に、生成AIは成り立っています。膨大な単語を多次元的なベクトルに変換して、単語のつながりの予測を繰り返します。これによって、単語の関連性あるいは文脈を高速に学習することを実現しました。

生成AIのしくみ

これまでの機械学習では、言語モデルの規模をある程度大きくすると、性能が落ちていく傾向がありました。一方、生成AIの誕生で、言語モデルの規模が数千億など一定のパラメーター数を超えると、精度が飛躍的に高まることが示されました。急速に実用レベルに達したことで、現在のAIブームへとつながっています。(「ChatGPTで話題の『生成AI』とは? 働き方を変える最新技術」では生成AIや日立の取り組みを紹介しています)

小島社長は「生成AIの登場は、IT活用の歴史を紀元前と紀元後に分けるくらいの巨大なインパクトを持つブレークスルーです」と評価。「情報」「行動」「科学」を強力にアシストする技術として、日立で活用していく方針を示しました。

また、顧客とともに進めるイノベーション、協創プロジェクトとして、小島社長はマテリアルズ・インフォマティクス(MI)という技術にも言及しました。(「材料開発のDX マテリアルズ・インフォマティクスへの化学メーカーの挑戦」ではMIと協創内容について紹介しています)

創業から続くイノベーションの精神

基調講演の終盤、小島社長は「持続的成長の実現に向けて、イノベーションに取り組むのは、創業以来の精神」と日立を創業した小平浪平氏のエピソードを取り上げました。

1910年の日立創業後、小平氏が最初に製作したのが「5馬力モーター」です。当時の日本では、産業機械のほとんどが、海外からの輸入品でした。

「日本の成長のために国産の技術と機械を開発したいという強い意志を小平氏は抱いていました。この『意志』が、5馬力モーターと、その後のさまざまなイノベーションを生み出す『行動』の原動力となったのです」

5馬力モーターと小平浪平氏

さらに、小平氏は品質向上のため、研究係という組織を立ち上げて、「科学」を探求。日本企業として先駆けとなる工業技術誌「日立評論」を1918年に創刊し、日立の研究の成果を社会が活用できる「情報」として発信しました。

日立のイノベーションを支える「意志」と「情報」「行動」「科学」は、創業期に形づくられ、今日までDNAとして引き継がれています。

小島社長は創業からの意志を大事にし、呼びかけます。

「社会をより良くしたいという人間の意志こそが、イノベーションを生み出す原動力であるということを、我々は忘れてはいけません。共に力を合わせて、新しい未来を切り拓いていきましょう」

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