HTMLインクルード サイトナビ 人気記事ランキング01
「日立はデジタルとグリーンで成長する」 小島社長が語る今後の成長戦略
日立製作所の小島啓二社長兼COOは2021年12月8日、メディアによる共同取材に応じ、今後の成長戦略について「日立はデジタルとグリーンで成長する」と語りました。
「水素、細胞、量子」への投資を強化
――現在、日立は5セクターと日立Astemoになっていると思います。今後の投資や成長戦略の方向性は、どう考えていますか。
小島社長(以下、小島):日立の事業は大きく言うと、ITというデジタル系があり、次に、エネルギーやモビリティといった、鉄道やEV、パワーグリッド、原子力の分野。そして、インダストリー系の工場にソリューションを届ける分野があります。それらを融合させて、社会課題を解決することが重要だと考えています。
我々がやりたいのは、それらの分野を合わせて、カーボンニュートラルを実現することです。例えば、工場でカーボンニュートラルを実現する場合、パワーグリッドのスキル、デジタルのスキル、インダストリーのスキルを合わせて初めて実現できると考えています。日立は、デジタルとグリーンで成長していきます。
――次期中期経営計画(中計)について、デジタルやグリーンの観点から考えた場合、Lumadaをどのように使っていくのでしょうか。
小島:デジタルとグリーンは二本柱で、別物ではありません。ほとんどのソリューションは、「デジタル×グリーン」というパターンで、まさにLumadaの出番なんです。グリーンも、大きなプロダクトがネットワークに繋がり、そこから得られるデータを解析して、効率よく運用するなどして実現しています。EV充電網は、その典型的なパターンです。Lumadaという基盤で、「デジタル×グリーン」に関連したソリューションを展開していきます。
――R&D(研究開発)費用について、次の3年で累計1.5兆円の投資を行うとしています。年間1,000億円ほど増えるイメージですが、どの領域に配分するのでしょうか。
小島:R&Dで一番強化しないといけないのはグリーンです。大部分をグリーンに投資すると思います。2050年からバックキャスティング(未来の状況を予想し、そこから立ち戻って現在取り組むべき施策を考える発想法)で考え、「破壊的なイノベーション」になりそうな領域に、投資を強化しようと思います。お題でいうと3つで、「水素」「細胞」「量子」。この3つは、世界を大きく変える力があります。基礎研究に近いフェーズも含めて、投資を強化することを考えています。
GlobalLogicが生み出すシナジー
――2021年を振り返ると、日立にとってGlobalLogic社の買収が大きかったと思います。本格的なシナジー(相乗効果)を生み出すために、2022年以降は何をすべきと考えていますか。
小島:GlobalLogic社は、スタンドアローン(企業や事業が独立した状態)として成長していて、利益率も高いです。インテグレーション含めて、自信を強めています。シナジーについても、日立ヴァンタラ社と一緒に色々な受注を取ったり、日立エナジー社と連携したりし始めています。
日立の大きな顧客ベースがある日本での展開については、新型コロナウイルスの感染拡大のためにビハインドになっていると思います。色々な準備はしていますが、実際にGlobalLogicの社員が日本に来て直接議論をしないと、前に進みません。そのため、欧米を中心にどんどんシナジーを作っている段階で、これはうまくいっていると認識しています。
――Lumadaの売上が伸びています。利益面含めて、今後のLumadaの成長戦略を教えてください。
小島:ITセクターは、GlobalLogic社を成長させることが一番重要です。いかに早く成長させるかが、Lumadaの成長に繋がります。エネルギーやモビリティの領域は、保守系が非常に大きな仕事なので、いかにそこに入っていくかが、Lumadaの成長に直結します。最も伸びしろがあるのは、インダストリーです。工場の効率向上や、サプライチェーンマネジメント、カーボンニュートラルなど、事業機会は大きい。どのようにLumadaを拡大させるかについて、現在プランニングを行っています。
――ITセクターに関しては、営業利益率が定常的に2桁出るようになってきましたが、欧米企業には劣っていると思います。もう一段高めるために必要なものは何ですか。
小島:ITセクターの営業利益率は、12~13%まで来ました。我々がベンチマークにするIT企業は、14~15%くらいの営業利益率です。もう少しというところまで来ています。残り、やらなければいけないのは、クラウドサービス関係を大きくすることです。
GlobalLogic社は、デジタルエンジニアリングの会社なので、クラウドマイグレーションなどのボリュームがあるところに繋げていけると、利益率が上がります。海外中心にそれができれば、日立は、海外企業に引けを取らないレベルになると考えています。
今後のエネルギー事業の見通しは
――日立エナジー社の設立から1年半ほど経ち、GlobalLogic社も買収しましたが、エネルギーセクターで次期中計に盛り込みたい融合のイメージなどがあれば教えてほしいです。
小島:日立エナジー社で最近受注が活況になっているのは、EVチャージャーとEV充電網です。太陽光で充電するとなると、太陽が出ているときに充電が必要で、デジタルの制御が必要になります。とても面白く、重要な分野だと思っています。
また、日立エナジー社は、大きな「インストールベース」を持っていて、デジタルをフルに使って、大きく効率を上げています。日立エナジー社のデジタル、EV関係において、GlobalLogic社とのシナジーが大きく、受注につながり始めています。
――GE日立ニュークリア・エナジー社(以下、GEH)による小型モジュール炉(小型の原子炉)の受注について、受け止めをお願いします。小型のモジュール炉は、今後のエネルギー事業において、どのような位置づけでしょうか。
小島:原子力事業における最大のプライオリティ(優先事項)は、「福島の復興」で、次に「廃炉」です。グリーンを進める中では、再稼働も大きなテーマで、最大限、電力会社のお役に立てればと思っています。
今回、GEがマジョリティ(株式の50%超)を持っているGEHが、カナダのオンタリオパワー・ジェネレーション社から小型モジュール炉を受注しました。モジュール炉に関しては、将来、テクノロジー的に重要になるという感触があります。テクノロジーとしては、しっかりやっていきますし、カナダの案件も場合によってはコンサルテーションをするほか、部分的にコンポーネント供給の可能性はあります。
ただ、原子力事業においては国内外問わず、基本的に土木工事などの建設には携わらないです。一部のニュースでは、「日立がまた海外の原子力事業を始めたのではないか」という話もありましたが、その考えはありません。
――GEHは、原子力を世界展開していますが、このような新技術が世界に広まることについてどう思いますか。
小島:原子力が広く世界で信頼されるためには、いくつか重要なテクノロジーのブレイクスルーが必要だと思っています。1つは、自然に冷えること。電源を喪失しても、メルトダウンを簡単に起こさず、少しずつ冷えていく必要があります。そのためには、小型炉が圧倒的に有利で、かつ建設時間も短いです。そのため、小型炉は、テクノロジーとしては非常に重要なマイルストーンの1つだと認識しています。
もう1点、我々が解決しなければならないのは、廃棄物の問題です。この2つをきちんと解決することが、これから原子力がクリーンな主力電源として世界で使われていくうえで必要なことだと思います。我々は、そのテクノロジーの研究を続けていきます。
日立のあるべき姿とは
――国内外で分社化の発表が相次ぎ、会社の形が改めて注目されています。今後、どのような企業の形が日立にとってあるべきだと考えていますか。
小島:我々にとって大事なことは2つあります。1つは、我々が社会課題を解決する会社として、そのために必要な能力をそろえていくこと。事業ポートフォリオというよりは、社会課題解決のための基本的なケイパビリティ(能力)の話です。ITだけではカーボンニュートラルは解決できず、水素やパワーグリッドなどの能力があって、初めて社会課題を解決できます。そのような会社が世の中で必ず必要になると信じていて、そのためのケイパビリティを常に磨くというのが基本的な考えです。
2つ目は、投資家の方々にしっかりと価値を還元していくために、どのような形が適切なのかを考えることです。この2つのバランスを両立させることが必要です。今はSDGsが重要視されており、みんながその方向に向かっています。それぞれの企業がどういう能力をそろえて、どう課題に立ち向かうか。そういう時代に入ってきたと思います。
――会社を分割することで、株主価値を上げていこうというやり方は、日立としては考えられないのでしょうか。
小島:大切なのは、株主を含めて、社会に必要とされる会社になるということだと思います。その考えを外さないのが重要です。「専業にしないと価値が上がらない」という思い込みがあるのかもしれませんが、例えで言うと、大谷翔平選手だって、二刀流なんて本来あり得ない中、あそこまで魅力的な選手になっているんです。日立もITとOT、プロダクトがあって、社会課題の解決をめざすことができるのだと思います。