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連載COLORS:"ハイヒールを履いた僧侶"が語る「LGBTQ+が働きやすい職場づくり」

2022年8月9日 萩原 英子
西村宏堂さんのインタビュー動画を見る

いま世界中の企業で、すべての従業員が働きやすい、インクルーシブ(排除しない)な職場づくりの議論が進められています。しかし課題となっているのが、どうすればそうした職場づくりができるか、ということです。

自らを「同性愛者の僧侶」と語る西村宏堂さん(33)は、浄土宗の僧侶でメイクアップアーティスト、さらにLGBTQ+活動家、モデルと多彩な肩書を持っています。そんな西村さんに、自身の生い立ちや、LGBTQ+の人々が働きやすい職場づくりの方法を聞きました。

仏教とメイクで人々に力を与える

西村宏堂さん。2021年にはTIME誌の「次世代リーダー」の1人に選出された

――まず、西村さんご自身についてうかがいます。浄土宗の僧侶になられた経緯を教えてください。

西村宏堂(以下、西村): 私は16世紀から続くお寺に生まれたので、寺を継いで伝統を守ることを周囲から期待されていました。けれど、剃髪など、僧侶らしい振る舞いを求める声に、いつも反発していたんです。そこで高校卒業後、アメリカへの留学を選びました。

アメリカでの生活は私にたくさんのことを教えてくれました。多様なバックグラウンドを持つ人々との出会いを通して、人にはそれぞれ異なる個性があること、本当の自分を大切にすることを学びました。すると、自分が同性愛者であることやお寺に生まれたことは、私だけの個性なんだと思えるようになったのです。そうして、仏教に再び向き合おうと決意し、帰国して僧侶になりました。

僧侶になるために修業する西村さん

――2015年に僧侶のお仕事を始めたそうですが、仏教を通して、どのように人々を力づけていますか?

西村:仏教には人に力を与えるメッセージが数多くあります。中でも「阿弥陀経」では、すべての人が等しく救われると説いています。かつて私の師から、極楽浄土の蓮の花にまつわる「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」という一節を聞きました。青い蓮の花は青く光り、黄色の蓮の花は黄色く光り、赤い蓮の花は赤く光り、白い蓮の花は白く光る。つまり、それぞれの人がそれぞれの人の色で輝くことが素晴らしいという意味です。

私は今まで、自身のセクシュアリティ(性的指向)ゆえに劣等感や罪悪感を抱いている人にたくさん出会ってきました。そうして気づいたんです。仏教のメッセージは世界の多様な人々に希望と力を与えることができると。

同性愛者もスーパーヒーローになれる

西村さんがメイクをしているのは、2018年のミス・ユニバースのスペイン代表。
彼女はミス・ユニバース史上初のトランスジェンダー女性

――西村さんはメイクアップアーティストとしても活躍されていますが、どのようなきっかけがあったのですか?

西村:私は子どもの頃、プリンセスのドレスを着て、メイクをして遊ぶのが大好きでした。でも幼い頃の私は、「日本の社会的価値観では、男性の体を持つ人がメイクをすると受け入れてもらえない」と感じていました。ところがアメリカで生活してみると、メイクをした男性を何人も見かけ、「私もメイクをしてもいいんだ」と思うようになりました。

また、あることをきっかけに、メイクがいかに人に力を与えられるかを知ったのです。それは、ボストンの語学学校で学んでいたときのことでした。同じ日本から来た留学生と親しくなったのですが、彼女は勉強と人間関係の両方に苦しんでいました。大切な友人を励ましたい一心で、メイクをしてあげようと思いついたんです。アイラインを入れただけでしたが、彼女は外見的にも精神的にも大変身しました。メイクを洗い流した後でも、彼女がメイクで得た自信は消えなかったんです。

同性愛者でアジア人である私は、強い劣等感を覚えていましたが、もっとメイクの勉強をしたら、もっと人々に力を与えられる、私自身も変われると思うようになりました。その後、ニューヨークでミス・ユニバースの仕事をしているメイクアップアーティストのアシスタントとなり、プロの道を歩み始めました。

仏教の智慧(ちえ)だけでなく、メイクも非常にパワフルです。ですから、仏教の智慧と美を伝えることで、人々に力を与え、人々を自由にする、これこそが私の人生の使命なのです。

西村さんが考案したステッカー。「一切の生きとし生けるものは、幸せであれ」という仏教の理念が込められている

――西村さんはLGBTQ+活動家として、LGBTQ+の人権の擁護もしていますね。

西村:そうです。活動家になった理由には、私自身が幼少期に苦しんだ出来事が関わっています。テレビアニメを見るのが大好きでしたが、アニメに出てくるゲイのキャラクターは悪役として描かれることが多く、最後には倒されてしまうのです。アニメを見たことで、自分が同性愛者であると人に打ち明けるのが怖くなりました。何らかの形で差別を受けたり、孤立したりするかもしれないと思ったからです。

だから私は、LGBTQ+の人々の明るいイメージを日本と世界に届け、同性愛者もスーパーヒーローになれるんだ、と人々に知ってもらいたいんです。

質問することが第一歩

写真:佐藤将希

――次に、LGBTQ+をめぐる職場での課題についてお聞きします。多くのLGBTQ+の人々が職場で苦しい思いをし、本当の自分を隠しているといいます。LGBTQ+の人々が働きやすい職場をつくるために、意識すべきことは何だと思いますか?

西村:まず、一人ひとりみんな違うという意識を持ち、違いを尊重する必要があります。また、安心して自分の気持ちを伝えられる職場環境をつくることも重要です。具体的な方法としては、「何か心配事があれば、話してくれませんか?」「意見や気持ちを聞かせてもらえますか?」などと聞いてみるとよいでしょう。このような姿勢を見せることで、多くの人々が自由な気持ちになり、受け入れられていると感じることができます。

こうした質問はインクルーシブな職場づくりに役立ちます。多くの人の意見を聞くことで、様々な気づきが生まれるからです。例えば、男性であっても、メイクなどのためにプライベートな空間が必要な人がいることを知ることができます。質問をすることが出発点であり、それによって、個々のニーズが分かり、誰もが差別を受けることなく自由に発言できる安全な環境づくりが可能になります。

写真:高橋宗正

――ほかにも、LGBTQ+の人々が尊重される職場をつくるために、企業にできることはありますか?

西村:何かプロジェクトを始めるときや年度初めなど、オリエンテーションを行うときには必ず、「性別や人種、どんな違いによる差別も許さない」「プロフェッショナリズムやモラルを重んじる」と、口頭で伝えることが重要です。これは国連が推進しようとしていることでもあり、リーダーシップ・プログラムを通じて、教えているそうです。

また、どの言語を使っていたとしても、「どのように呼ばれたいですか?」と相手に尋ねるといいですね。日本語であれば、「くん」「ちゃん」「さん」のどれを付けて呼ばれたいか質問できるでしょう。例えば、私は「宏堂くん」と呼ばれると、相手が私を男性として見ている、本当の私を見ていないと感じます。けれど「宏堂さん」だったら中性的なので、ずっと心地いいです。友だち同士なら、「宏堂ちゃん」がいいですね。このように、どう呼ばれたいかを尋ねることは誰にでもできます。

企業では「男性社員」「女性社員」といった表現を使うことがありますが、これは生物学的な見方であって、社員のプロフェッショナリズムには関係ありません。さらにいえば、 トランスジェンダーやインターセックスの人もいて、男性や女性という分け方はできません。だから性別ではなく、仕事内容に基づいてチームを見る必要があります。

多様性はイノベーションにつながる

――次に、職場で深刻な問題となりうる「アウティング(本人の意思に反して、性的指向などを暴露すること)」についてうかがいます。望まないアウティングを防ぎ、社員を守るために、企業に何ができますか?

西村: 防止策として、多様な人々について知る勉強会の開催が挙げられると思います。LGBTQ+の人々だけでなく、病気など同じような問題を抱えている人々が日々どんな困難に直面しているのか、社員の認識や理解を深める助けになるでしょう。

意識を高めるには、データを示すことも重要です。例えば、職場での「カミングアウト」を望まず、自身の性的指向を公表していないLGBTQ+の人々は、約8割にのぼるといわれています。中には、アウティングが原因で自殺した人もいるのです。

勉強会を開き、情報を提供することは、望まないアウティングを防ぎ、社員を守ることにつながるため重要です。

写真:蓮井幹生

――インクルーシブな職場をつくることのメリットは何だと思いますか?

西村: ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括)が実現すれば、イノベーションの促進や業務全体の改善につながります。以前、ある生物学者の方から聞いた話ですが、同性愛者は多様性をもたらすために存在していて、もし多様性がなければ、どんな生物も進化できないそうです。多様な個人がいて初めて、新しい発想やイノベーションが生まれるのです。人と違うからこそできることがある、と理解する必要があります。人と違うからこそ、チーム全体に異なる能力や視野を与えられると思います。

安心を感じられること、自分の話に耳を傾けてもらえると感じられることは、誰にとっても最高の状況だと思います。こうして、幸せな気持ちになって、人を思いやる心を持つことで、より良い仕事ができるようになると思います。

私が望む世界のあり方

写真:デレック・マキシマ

――日本と外国とでは、LGBTQ+の人々への理解や共感において違いがあると思いますか?

西村:日本では、LGBTQ+の権利を支持していても反対していても、欧米諸国ほど声高に主張をしない、という特徴があると思います。大規模なデモやLGBTQ+の人々への暴力を、日本ではあまり目にしません。

しかしアメリカの状況は少し違います。LGBTQ+の権利を求める抗議活動やパレード、デモをたくさん目にする一方で、LGBTQ+の人々に対する暴力、とくに有色人種のトランスジェンダー女性への暴力をよく耳にしました。

――ダイバーシティやエクイティ(公平性)、インクルージョンを推進した先に、どんな世界が待っていると思いますか?

西村:私たちが人間であるかぎり、差別や不公平はなくならないかもしれません。差別や分類をしたがるのは人間の性(さが)ですから。

しかし、多くの人がプロフェッショナリズムや心の美しさを尊重できるようになるといいなと思うんです。みんながそうした美しさに目を向け、より良い人間になろうと努力をする。そんな世界になればいいなと思います。



※2022年8月9日に記事を更新しました。(オリジナル公開日:2022年6月17日)