Hitachi

DXにも再生プラスチックを データセンターの新たなストレージ

再生プラスチックを利用したストレージ

近年、データを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、データセンターの新設が相次いでいます。データセンターではコンピューターや関連する電子機器が設置されています。サーバー、ネットワーク機器、そしてストレージです。大規模言語モデル(LLM)で学習する生成AIといった最新のAIの登場により、大量のデータを保管するためのストレージの需要が増えているのです。保存するデータは「デジタル」でも、保存容器のストレージは「フィジカル」に存在します。ストレージを構成する部品はプラスチックを含みます。データを活用した社会の実現と環境問題を引き起こすプラスチック消費の抑制。両立に向けた試みを追います。

ストレージとは?

ストレージが並ぶデータセンターのイメージ

ストレージとは、データを記憶する場所のことで、「記憶装置」や「記憶領域」とも呼ばれています。パソコンやスマートフォンで写真や動画を保存したり、アプリケーションをダウンロードしたりすることができるのは、ストレージが内蔵されているからです。

企業も、サービス提供や生産活動のため、色々なデータをデータセンターに並ぶストレージに保管しています。取り扱うデータ量が多いので、多くのストレージが必要になります。

近年では、大量のデータを使用して計算を必要とするAIの導入やDXの推進で、保存するべきデータはますます増えています。また、インターネットを通じた、クラウドによるデータの共有など、個人のデータの保存方法も変わってきています。クラウド上での保管場所は、企業がデータセンター、ストレージを設置することで提供しています。

省電力化の次は、プラごみ削減

ストレージは電子機器のため、データを保存したり呼び起こしたりするには電力を消費します。電力は、二酸化炭素(CO2)の排出が懸念される火力発電に頼らざるを得ない状況があります。そこで、ストレージの性能を改良して省電力化する取り組みが進んでいます。

省電力とは別に、環境に配慮しないといけない側面もあります。デジタルなデータを保存するストレージは、この世界にフィジカルに存在する機器で、金属やプラスチックから構成されているのです。

プラスチックは丈夫で色々な形に形成しやすく、利便性が高い反面、自然環境にとってはデメリットにも成り得ます。使い終わった後の問題です。ストレージは約5~7年で新品に取り替えられます。その際、部品として使われていた経年劣化したプラスチックはごみとなってしまいます。

廃棄されるプラスチックのイメージ

プラスチックは優れた耐久性から分解されにくいため、自然に返りにくく、思わぬ形で自然環境を変える恐れがあります。また、プラスチックの原料は主に化石燃料である原油なので、燃やそうとするとCO2が多量に排出されてしまうのです。

使いたいけど使えないリサイクル素材

「2020年ごろから、データセンターのストレージに使われるプラスチックをリサイクル素材にできないかとお客さまから相談はありました」

日立製作所でストレージを設計する宮本憲一さんは話します。当時から、ノートパソコンやモニターなど、個人で使用する電子機器はリサイクル素材が使われていました。しかし、データセンターのストレージでリサイクル素材を使うには越えないといけない壁がありました。

データセンターのストレージの消費電力は、家庭で使用する電子機器の何倍も大きく、また何時間も使用を続ける点に違いがあります。「1個のストレージでも何個もの電子レンジをずっと使い続けているようなものです」と宮本さんは言います。

そのため、使われる素材にも高い安全基準が求められます。電力消費が大きいと熱を帯びやすくなります。燃えにくく、どこかで発火したとしても燃え広がりにくい素材が求められます。そのような用途の再生プラスチックは開発が進んでいませんでした。

また、リサイクル原料を使用した再生プラスチックは、色々な用途で使われていたプラスチックが混ざり合っています。リサイクル前の製品での経年劣化や、リサイクル原料に加工するため繰り返し熱すると、どうしても品質が不安定になり、劣化しやすいのです。

CO2排出を40%削減

困った日立は、素材開発で協創をしていた化学メーカーの帝人に相談しました。帝人の高津政浩さんは「かなり高い要求ですぐに適合する再生プラスチックを見つけるのは難しかったです」と振り返ります。

プラスチック製造では、難燃性(燃えにくさ)を高めると、劣化しやすくなって強度が落ちるトレードオフの関係にあったからです。リサイクル原料を使えば、さらに劣化しやすく強度が落ちてしまいます。そこで、帝人は新たな開発に乗り出します。まず、帝人が注目したのは自社製品「マルチロン」というポリカーボネートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂が合わさったプラスチックです。

マルチロンのイメージ

もともと、日立のストレージにポリカーボネートとABS樹脂が合わさったプラスチックが使われており、採用しやすいとにらみました。しかし、マルチロンの中にはさまざまなグレード(種類)があり、リサイクル原料を使用したグレードもありましたが、要求された安全基準には届いていませんでした。

そこで、帝人はシミュレーションや実験を独自のノウハウで繰り返しました。約1年後、リサイクル原料のふさわしい配合方法を見つけ出しました。もととなるのは、CDやDVDといったディスクやウォーターサーバーの水ボトル、自動車のヘッドランプカバーなどの使われなくなったプラスチックです。完成した新しいグレードは、重量全体の40%にリサイクル原料を使用しながら、高い難燃性と強度を両立できました。

高津さんは「ストレージに求められる高い安全基準を満たしつつ、社内でも最高レベルのリサイクル原料割合を持つグレードです。帝人の試算では、リサイクル原料を使用しなかった場合、つまり、石油採掘から、生産、出荷した、通常のプラスチックと比べて、CO2排出量を40%も削減できます」と自信を見せます。

目標は50%超でリサイクル素材使用

この再生プラスチックを、ストレージの前面部のカバー「ベゼル」部分に採用するのが、日立の新しいストレージです。ベゼルはストレージの中身を保護する役割があります。まさに採用の条件が難燃性と強度でした。

耐熱実験室でのストレージと宮本憲一さん

ストレージの置き換え可能なプラスチックのうち、リサイクル素材を使用できたのは5%程度です。宮本さんは「データセンターのストレージでは、再生プラスチックを使用するのは新しい試みで、重要な一歩目です。地球環境のためにも、どんどん取り組みを拡大させていきます」と意気込みます。

今後は、データ保管をするディスクドライブを収納するための「キャニスター」部分にも再生プラスチックを拡大する予定で、2030年度までに50%超のリサイクル素材の使用をめざします。さらには、植物由来などのバイオマス素材の導入や、ストレージで使用して役割を終えたプラスチックを回収することも検討しています。

「使われなくなった物は捨てられる運命にあります。でも廃棄物を無くし、循環させることができれば、人々の生活と自然環境の両方に恩恵をもたらすことができます」と宮本さんは期待を込めます。私たちの生活を支えるイノベーションはさまざまな分野で進んでいます。