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軽い気持ちで使う、何度も試す デジタルネイティブ世代と生成AI

2023年8月28日 羅 欣
(Photo by Getty Images)

文章や画像を生成してくれる「ChatGPT」や「Stable Diffusion」などの生成AIは、ビジネスの場でも活用が広がっています。特に、デジタルネイティブ世代の若手社員は、日々の業務で思いがけない生成AIの使いこなしを発揮する時があります。日立の若手社員2人に生成AI活用のヒントや面白い使い方、具体的にどんな場面で駆使しているかを紹介してもらいました。

文章生成AIを1日最大80回使用

2022年にデータサイエンティストとして日立製作所に入社した渡邉理沙さんは、米国のOpenAIが開発した文章生成AI「ChatGPT」を業務で愛用しています。ChatGPTに質問や依頼のテキストを打ち込めば、まるで人間が書いたような自然な文章で回答が返ってきます。

「まずは使ってみるくらいの軽い気持ちで試すのがポイント」と渡邉さんは話します。業務中に1日最大80回も使用することもあるといいます。

渡邉理沙さん(左)

渡邉さんは、ChatGPTをメールや資料の構成を決めるのにも使いますが、分からない単語が業務中に登場した際によく利用します。会議中であっても質問で中断させることはありません。インターネットの検索エンジンも同じことができますが、ChatGPTを頼れば、自分でサイトを選ぶ手間やサイトをくまなく読む手間が省略できる点が便利だといいます。

単語を調べる際に返ってくる答えに納得がいかないときは「中学生でも分かるように」「初級のデータサイエンティストが分かるように」というテキストを含めて再度説明を求めると、満足のいく答えが返ってきやすいことを見つけました。また、「例を交えながら」「手順を入れて」といったテキストも有効でした。

ChatGPTの言語モデル「GPT-3.5」は2021年9月までにインターネット上に公開されているテキストデータを収集しています。そのため、最新情報を調べる時は、工夫が必要です。インターネットの検索エンジンで最新情報を調べ、サイト上の全てのテキストをChatGPTに入力して、要点をまとめてもらうことで、時間をかけずに知りたい情報を得ることができます。

「調べものだけではなく、文章の誤謬(ごびゅう)を確認する際も活用できそうです」とも渡邉さんは説明します。例えば、「彼は運動をしない。だから太る」という文章の論理が正しいかを聞いた時、ChatGPTは「運動不足は体重増加の原因となることがあり、この文章は一般的な事実を述べていると言えます」と肯定してくれます。しかし、「個人の体重や健康にはさまざまな要因が影響するので、一概に全ての場合に当てはまるとは限らない」と警告し、前後の文脈に注意するよう促すことも忘れません。

渡邉理沙さん

ChatGPTの言語モデル「GPT-3.5」は登録すれば無料で使えます1。さまざまな場面で活用が見込まれますが、入力情報が漏洩するリスクもあるため、渡邉さんは社内のガイドラインに従い、機密情報を入力しないようにしています。

1分もかからず画像生成

日立製作所に入社して3年目の川畑健大朗さん。デジタルトランスフォーメーション(DX)のために顧客のアイデアを引き出したり、そのアイデアを誰でもイメージしやすいよう画像やプロトタイプ(試作品)を制作したりする、クリエイティブテクノロジストとして働いています。顧客との協創で最初に生まれるのは抽象的なアイデアです。顧客と開発者で共通認識を持つために、川畑さんは具体的なキービジュアル(画像)を作成しています。顧客、開発者、キービジュアルを描くデザイナー。複数の関係者間で、繰り返しの調整が何日間も必要になります。

一方、顧客は迅速なDXのため、より素早いキービジュアルの提出を求めます。そこで、作業を効率化できないか、川畑さんは最新のデジタル技術を試してみることにしました。目を付けたのは、オープンソースの画像生成AI「Stable Diffusion」。情報漏洩を防ぐ社内ガイドラインに従いながら、業務に取り入れてみたところ、言語からイメージの具現化が簡略化され、数日かかっていたキービジュアルの完成が数時間に短縮できました。

川畑さんは「色々な設定を変更することもできますが、基本的には難しい操作は不要です。自分の要望を単語で打ち込めば生成AIが意図をくみ取ってくれます」と生成AIを活用する魅力を紹介します。

川畑健大朗さん

川畑さんの言う通りStable Diffusionの使い方は簡単です。画像のイメージを連想させる単語を入力して、画像を生成するだけです。文章でなくても、単語をカンマ「,」で区切って並べるだけでも問題ありません。単語は英語が望ましいですが、英語での入力が難しければ、公開されている無料の翻訳サイトを使って英語への翻訳ができます。

単語の入力例として画質を上げたければ「4K」と入力したり、写真や絵画のような画像を出力したければ「Photo」や「Painting」と入力したりすれば、生成される画像が変わっていきます。

「1回で想定通りの画像ができないことが多いですが、1枚生成するのに1分もかからないので何回も試すことができます」と話す川畑さんは、一つの資料作りで300枚くらいの画像を生成します。同時に複数枚生成できるため、300枚にかかる時間は1時間ほどです。その300枚から2~3枚を候補として選び、顧客や開発者から意見を聞きながら、最終的なキービジュアルをデザイナーとともに描き出します。

「絵を描くスキルを特別磨いてこなかった私が、関係者の意見を反映したたたき台となる画像をすぐに生み出せるため、大幅な時間短縮につながる可能性を実感しました」(川畑さん)

また、川畑さんは自身で使うだけでなく、Stable Diffusionを含めた生成AIによる画像生成のノウハウを社内でまとめています。画像を作成する必要がある関連業務でノウハウを共有し、全体の効率化をめざしています。(「ChatGPTで話題の『生成AI』とは? 働き方を変える最新技術」では生成AIの概要や日立の生成AIへの取り組みを紹介しています)

Stable Diffusionは登録不要で無料公開2もされており、誰でも使えますが用心も必要です。川畑さんも「生成された画像に著作権の問題が残るので、画像そのままをビジネスとして使用したり、販売したりしないようにしています」と注意しています。

*1 ChatGPT:https://chat.openai.com/
*2 Stable Diffusion Online:https://stablediffusionweb.com/#demo