HTMLインクルード サイトナビ 人気記事ランキング01
増えるEVとバッテリ、新たな課題と解決策は?
環境意識の高まりから、電気自動車(EV)の保有台数が増えています。EVが増えると、その動力源であるバッテリも世の中に増えていきます。そこにはさまざまな問題が──。「充電する場所がない」「いつの間にか走れなくなった」「バッテリが劣化した後どうするのか」。バッテリのライフサイクルに関連する課題と日立グループが提案する解決策を追っていきます。
充電インフラを拡充
EVの販売台数は近年、世界で増加し続けています。日本自動車販売協会連合会や全国軽自動車協会連合会によると、日本におけるEVの軽・乗用車の年間販売数は2018年に約2万6千台だったのが、2022年は約6万台に増えています。
一方、充電スタンドの設置数は、ゼンリンによると、2018年から3万基前後で大きな変化はありません。EVの普及は進んでいるのに、EVを走らせるためのバッテリにエネルギーを貯めるための充電スタンドの数は横ばい状態なのです。
この問題を解決するのが、新たに開発された、日立インダストリアルプロダクツのEVチャージャです。EVチャージャの特徴は、最大500kWの容量内で、25kW×20口、50kW×10口、50kW×5口と25kW×10口の組み合わせなど、充電ニーズに合わせて、出力を設定することができます。もちろん、急速充電やV2X(Vehicle to Everything の略称。Vehicle to Homeなど車両とさまざまなものとの間の通信や連携をする技術)にも対応しています。
工場や事業所での通勤用EVへの充電用のほか、タワーマンションや大型ビルといった施設、EVを多く運用する運輸事業者の車両センターなどでの設置を想定しています。充電スタンドを複数設置するよりも、日立インダストリアルプロダクツのEVチャージャの方が、より小さいスペースに設置できます。
「このEVチャージャは、ただ充電するだけではなく、エネルギーマネジメントによる効率的な充電も想定しています。工場に設置された場合、設備全体の電力消費や再生可能エネルギー発電の状況などを考慮して、適切な時間帯にEVを充電します。逆に、電力需要が逼迫した場合、EVから放電して工場の操業を手助けすることも見込んでいます」
日立インダストリアルプロダクツの主管技師長の宮田博昭さんは強調します。EVチャージャは増えていくEVの充電インフラを支えるとともに、EVのバッテリを新たな分散型電力とすることで、エネルギーの有効利用や電力系統の安定化、カーボンニュートラルの実現を図るものでもあるのです。
バッテリ劣化状態の遠隔診断
EVのバッテリに使われているのは、リチウムイオン電池です。スマートフォンに使われる電池と同様、充放電を繰り返すと、だんだんと劣化していきます。劣化が進むと、当初、想定していた走行距離を走れなくなってしまいます。
しかし、バッテリの状態を把握することは簡単ではありません。例えば、バスやトラックなど何台ものEVを管理するような事業者。1台ずつEVのバッテリを積み下ろして診断するのでは、手間がかかってしまいます。その手間を取り除き、さらに利便性を向上させたのが、日立ハイテクが生み出したリチウム電池の遠隔劣化診断ソリューションです。
遠隔劣化診断ソリューションでは、1日に1回、温度・電流・電圧・日時といったバッテリに関するデータをEVからクラウドに送ります。そこから、日立ハイテクのシステムがクラウド上で劣化度合いを「~%」といったように自動で算出します。
劣化度合いが簡単かつ迅速に分かれば、日ごろの運用・メンテナンスに役立つだけではなく、EVの買い替えやバッテリの交換時期について、詳細な計画を立てることができます。これにより、事業者も大量のEVを安心して運用できるのです。
ガソリン車がEVに切り替わる社会を見据え、日立ハイテクでは、数年前から中国で、リチウムイオン電池の遠隔診断ソリューションの概念・価値実証を行っており、1日6千台ほどのバッテリ状況を算出しています。プロジェクトを推進する、日立ハイテクの木戸陽介さんは「さまざまな車種を使って、累計数万台の診断を行った実績により、診断精度が上がっています。2024年度には商用化をめざしています」と熱く語ります。
木戸さんは遠隔診断の魅力についても説明します。「リチウムイオン電池が使われるのはEVだけではありません。環境配慮から、トラクターなどの農業機械、内海で操業する船の動力源としても、リチウムイオン電池が使われていくと見込まれます。遠隔診断ソリューションは、電池のライフタイムバリュー最大化、環境負荷低減などの価値を提供し、社会のさまざまな乗り物の電動化を支援できる可能性を秘めています」
EVバッテリの循環モデル
劣化してしまったEVのバッテリはどうなるのでしょうか?EVとしてはカタログに記載される何百キロメートルという走行距離を走れなくなります。しかし、EVから取り外されたバッテリにはまだ活躍の道が残されています。
この劣化した中古バッテリを集めて、蓄電池として新たな活用方法を見出したのが、日立製作所が開発した「バッテリキューブ」です。高さ約2.3m、幅約2.2m、長さ約4.6mのコロコロとした丸みを帯びた形で、車輪が付いています。愛らしい見た目ながら、中にはEV3台分もの中古バッテリを搭載しています。中古バッテリの組合せによって25kWh~50kWhの容量があり、Vehicle to Homeを使って、6kW~10kWの充放電ができます。
トラックに積んで移動できるため、コンビニエンスストアなど店舗の駐車場に設置が可能です。日立製作所は、セブン-イレブン・ジャパンのコンビニ店舗にバッテリキューブを設置し、蓄電池の活用方法を探るための実証を行っています。具体的には、昼間に太陽光パネルなどで発電した再生可能エネルギー由来の電気を蓄電し、夜間に店舗で使用する電気として放電する等の実証です。
また、緊急時の非常電源として使われることも想定し、三菱自動車と災害発生時のバックアップ電源としてエレベーターを動かす実証も行っています。
バッテリキューブは2024年度の事業化をめざしています。日立製作所の平岡貢一さんは、「事業化の際にはさらに小型化し、設置しやすくなるように改良を続けています。EVのバッテリを一つの用途のみならず、さまざまな場面で活用していくことによって、カーボンニュートラルの達成に貢献できると考えています」
バッテリキューブで充放電を繰り返し、さらに劣化した中古バッテリはどうなるのでしょうか?自動車メーカーやリサイクル業者と協力してリチウムやコバルト、ニッケルなどの希少金属を取り出し、今一度バッテリを生産する際に再利用される計画です。未来の世代のために限りある地球資源を循環して使用することで、持続可能な社会の実現に近づけていきます。
バッテリキューブは国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)でも出展されます。詳しくはこちらをご参照ください。