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日立、EV用インホイールモーターを開発 「より快適な移動空間を実現」

2021年10月28日 川畑 英毅
EV用のインホイールモーター「Direct Electrified Wheel」

気候変動に対応するため、脱炭素社会の実現が喫緊の課題となる中、走行中はCO2を排出しない「電気自動車(EV)」に注目が集まっています。こうしたEVの普及を推し進めようと、日立製作所と日立Astemoは2021年9月30日、EV向けのインホイールモーター「Direct Electrified Wheel」を発表しました。

インホイールモーターとは、自動車のホイール(車輪)の内部に装着できる電気モーターのこと。モーターで生み出された回転力を直接車輪に伝達し、駆動させる仕組みは「ダイレクト駆動システム」と呼ばれ、これをEV向けに開発したのが「Direct Electrified Wheel」です。

新製品の特長とは

開発チームを率いた日立製作所テクノロジーイノベーション統括本部の高橋暁史さんは、3つのコンセプトに基づいて「Direct Electrified Wheel」の開発を進めたと振り返ります。

「1つ目は小型・軽量化、2つ目はコンパクトな一体化、そして3つ目は省エネルギー化です」

できあがった開発機は、小型・軽量化したモーターとインバーター、ブレーキを一体化させ、ホイールの内部にコンパクトに収められることが特徴です。この軽量化によって、世界トップクラスのパワー密度2.5kW/kgを実現しました。

また、モーターの力をそのままEVの走行に利用することで、既存方式のEVに比べ、エネルギーロスを30%減らし、航続距離を大幅に伸ばすことが可能になりました。

ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」動画

10年後を見据えてスタートした開発

インホイールモーターを開発したのは、研究開発グループの幹部から言われたある一言がきっかけでした。

「今できる技術の延長で考えずに、10年後の社会で求められるニーズを見据えて、開発目標を立ててくれ」

この言葉を受けて、開発チームは徹底的な議論を重ねました。

「10年後を想定して逆算するとなると、『今できること』ではなく、『将来こうなってほしい』というところから構想をスタートさせることになります。そこで行き着いたのが、快適な移動空間を提供する自動車というアイデア。室内空間を拡大できて、充電時間のロスもなく、長い距離を快適に走れるインホイールモーターというテーマでした」(高橋さん)

実用化までにはいくつもの課題が

インホイール式のEVには、大きな利点があります。モーターが車輪の内部にあることで、床下の駆動系がなくなり、車内空間を広く使うことができます。超低床車も実現できるため、EVの要であるバッテリーの配置場所や容量の自由度も増します。また、四輪の独立制御も原理的には可能になるので、将来的には自動車の運動性能も向上できます。

このようにインホイールモーターは、モーター駆動ならではの利点を最大限に生かすことで、自動車の性能と効率を向上させる可能性を秘めており、EVの普及に貢献することが期待されることから、世界中で研究開発が進められきました。

しかし、実用化にはいくつもの課題がありました。例えば、ホイール内の限られたスペースに収まるほど小型で高性能なモーターの設計が難しいこと。また、動力装置が車輪と一体化するため、サスペンションから先のばね下重量が増し、乗り心地の点で不利であることもハードルとなりました。

これまでも、インホイール式で、驚異的なスピードや先進的なレイアウトを実現した実験車両は登場しましたが、いまだに実用車が存在していないのは、それだけ課題の克服が困難だったことを示しています。

鍵は「磁石配列」と「コイルの形状」

開発時の苦労を語る高橋さん(写真:今村拓馬)

今回の「Direct Electrified Wheel」の開発方針は、これらの課題に対して、正面突破を図る大胆なものです。それだけに、開発は困難を極めるものでした。

しかし、「インホイールモーターを実用化できれば、物流トラックや無人タクシーなどに活用することができるため、モビリティ(移動)の進化において、重要なステップになる」と確信していた高橋さんたちは、挑戦を続けました。

「パワー密度の向上で鍵となったのがハルバッハ配列と呼ばれる磁石配列です。モーターに使われる磁石のN極の向きを90度ずつ回転させて配置することで、特定の方向に強い磁力を発生させる手法です。これまでは掃除機などの小型モーターで使われてきましたが、大型モーターへの応用は初めての挑戦で、かなり試行錯誤しました」(高橋さん)

さらに、モーターに使われるコイルには、「扁平コイル」という特殊な形状のものを採用し、コイル密度の向上と容積の縮小を図りました。扁平コイルの形状の決定までには、ブレーンストーミング(複数人でアイデアを出し合う思考法)を10回以上も繰り返したといいます。

設計を工夫しインバーターも一体化

二酸化炭素の排出シナリオ
インバーターの開発を担当した徳山さん(写真:今村拓馬)

モーターだけでなく、それを制御する電気回路のインバーターの設計でも、これまでにない工夫が行われました。

従来のインホイールモーターでは車体側に置かれることが多かったインバーターですが、「Direct Electrified Wheel」ではモーターと一体化しています。日立製作所テクノロジーイノベーション統括本部の徳山健さんは、実現のための苦労を次のように語りました。

「モーターとの一体化のために、インバーターに使われるパワー半導体の冷却を水冷でなく油冷にしました。そうすることで、パワー半導体を直接冷却するとともに、そのまま循環させてモーターのコイルも冷却できます。水冷で必要な冷却配管のスペースを大幅に削減することによって、インバーターとモーターの一体化が可能になりました」

ホイール内のモーターとインバーターのスペースの比率を決めるのも難しい検討事項でしたが、議論を重ねることで解決しました。「各パートの担当が、お互いの課題と要望をよく話し合って相互理解を深めることが、非常に重要でした」と、徳山さんは振り返ります。

「より快適な移動空間の実現に寄与」

「Direct Electrified Wheel」の実用化には、信頼性を担保したり、量産化を実現したりするなど、まだまだ実証や改良が必要です。しかし、実用化が実現すれば、未来のモビリティの姿を大きく変える可能性があると高橋さんは指摘します。

「床下の駆動系がなく、車内空間が広くなるので、今後の自動運転時代の到来と合わせて考えると、より快適な移動空間の実現に寄与することができると考えています」

インホイールモーターの実用化に向け、大きな一歩を踏み出した「Direct Electrified Wheel」。EVの普及に向けて、さらなる弾みがつくことが期待されています。

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