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「デジタルエンジニアリング」とは 最終形が見えない時代のDX手法
近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められています。その中で注目を集めるのが、デザイン主導型の「デジタルエンジニアリング」。どんなことが実現できるのでしょうか。日立グループのGlobalLogicの事例を踏まえながら説明します。
デジタルエンジニアリングとは?
2021年に日立グループの一員となったGlobalLogicは、米国・シリコンバレーに本社を構えるデジタルエンジニアリングの先進企業で、顧客のDXや新規事業の開発を支援しています。
「デジタルエンジニアリング」とは、どのようなものでしょうか。同社の日本法人でStrategy&Delivery部門の責任者を務める後藤恵美さんは、次のように説明します。
「デザインとエンジニアリングを融合した形で、サービスやプロダクトの戦略立案から開発に至るまで、お客さまのDXをエンドツーエンド(始まりから終わりまで)で進めていく。それが、私たちの提供するデジタルエンジニアリングです」
戦略立案で、ターゲットとなるユーザーの観察やインタビュー調査、データ分析などによって課題を見極め、プロダクトやサービスのアイデアを顧客と生み出します。さらに、そのアイデアを、事業性、技術的な実現可能性といった観点から評価します。その上で、実際の開発に踏み出していきます。
プロジェクトを進める中心的な役割を果たすのは、デザイナー、プロダクトストラテジスト、プロジェクトマネージャー、アーキテクトたちです。戦略立案の段階から、デザインに関する専門家だけでなく、テクノロジーに関する専門家が参加し評価することで、開発に踏み出した後、戦略立案のやり直しリスクが少なく進められます。
つまり、デジタルエンジニアリングには、モノやサービスをつくりあげる「モノづくり」、課題やその解決方法のデザインを顧客と共に見つける「コンサルティング」の両輪が重要になってきます。DX推進のためには、この両輪が不可欠です。
デジタルエンジニアリング事例
デジタルエンジニアリングを活用すれば、魅力的な顧客体験の創造やビジネスモデルの変革に寄与します。その具体的な事例を二つ紹介します。
<事例1>グローバル共通のルールで顧客体験を向上(マクドナルド)
世界的なハンバーガーチェーンのマクドナルド・コーポレーション(以下、マクドナルド)では以前、オーダーシステムが国や地域ごとに異なり、利用者に分かりにくい仕様となっているのが課題でした。そこで、マクドナルドは、GlobalLogicとともに、どこの店舗でも一貫性のある顧客体験を実現することを新しく構想しました。
GlobalLogicはまず、利用者がどのように購入しているか、店員がどう対応しているか、行動観察やインタビュー調査を世界各国で実施。そこから見えてきたのは、利用者は、長い待ち時間や店員への細かな説明がなくても、自分のペースで好みに合わせた商品のカスタマイズが、どこの店舗でも同じようにできるサービスを求めているということでした。
GlobalLogicは、そのニーズをどのように実現できるのか、マクドナルドと協議しました。結果、マクドナルドは、グローバル共通のオーダールールを設定し、ルールに基づいたモバイルアプリや店内のキオスク端末を世界中で登場させました。モバイルアプリやキオスク端末が記憶している過去のオーダーを基に、相性の良い思いがけない商品を提案するなど利用者が選ぶ楽しさも生まれています。長い列も解消できたことから、接客のオペレーション改善も果たせました。
<事例2>出版事業から新たなビジネスモデルの確立(ピアソン)
イギリスに本部を置くピアソンPLC(以下、ピアソン)は、教科書出版を主力事業としてきました。しかし、デジタル技術が進歩し、モノの販売だけではない新しい形態のサービスを提供する企業が登場。デジタル時代への対応が急務となった同社は、ビジネスモデルを再構築するためにGlobalLogicと提携しました。
GlobalLogicは、ピアソンの各ステークホルダーと議論を重ねて、利用者の学習の理解度などに応じた教育コンテンツを提供するというアイデアを提案。そして、マイクロサービスベース(独立した小さな機能を組み合わせて一つの大きなアプリケーションを構築する開発技法で、機能の変更や追加を素早くかつ柔軟にできる)で、学習プラットフォームへの改修に成功しました。利用者がピアソンの教育コンテンツを自分のペースで学べるオンライン環境を整えたことで、ピアソンは、どこでもいつでも学べる教育サービスを展開する、「Learning-as-a-Service」の企業へ変革しました。
スピードも不可欠
デジタルエンジニアリングによるDX推進のため、もう一つのポイントとなるのが「スピード」です。DXの本場シリコンバレーでは、素早く進めるアジャイルな開発によるイノベーションを大事にする価値観が組織文化として根付いています。その理由をGlobalLogic のニテッシュ・バンガ社長兼CEOはこう説明します。
「We don't know the end.(最終形は誰にもわからない)」
社会の変化が激しく、顧客のニーズが多様化した今の時代。課題や解決方法であるゴールを見つけても、ゴールも瞬く間に変化します。また、技術も進化を続けています。そのため、個々の課題の解決に合った最適なチームで、デザイン思考に基づいた戦略立案と迅速なエンジニアリングが求められているのです。
後藤さんによると、GlobalLogicの前CEOで、現在は会長のシャシャンク・サマントさんも「私たちは速く行動する。ときどき『too fast(速過ぎる)』ほどだ」と冗談めかしていたといいます。しかし「めざしているのは『very fast(とても速い)』なんです」と目は真剣だったそうです。
欧米では、少ない情報でも素早く意思決定し、サービスやプロダクトを市場に投入して試すことが当たり前のように行われます。そして、市場の反応を見ながら改善を繰り返し、結果的に市場の求めるところに最短でたどり着くことをめざしています。
一方、日本の企業は、必ずしも「速ければ良い」というわけではありません。日本独自のビジネス習慣もあり、他社のケーススタディを参考にしながら、慎重に意思決定をする傾向があります。
「経営や事業には探索が求められる局面と、堅固で安全なものを構築しなくてはならない局面の両方があります。最も重要なのは、課題に対して適切なアプローチを見極めることです」
その上で後藤さんは、今後、日本でのデジタルエンジニアリングの活用について、次のように語ります。
「課題に対して最適なソリューションを提供するために、GlobalLogicのアジャイルなチームだけでなく、堅固で安全なシステムの構築を得意としてきた日立グループ各社とも連携し、One Hitachiでお客さまのDXに貢献したいと考えています」