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俳優・タレント副島淳さんに聞く「先入観に縛られない職場」のつくり方

2024年2月16日 いからし ひろき

朝の情報番組でおなじみの俳優・タレント 副島淳さん。日本で生まれ育ちましたが、「背が高く、肌が黒い」という見た目だけを理由に、小学生のときにいじめにあったといいます。

外見やルーツなどによる先入観に縛られない、誰もが働きやすい職場環境をどうしたらつくれるのかーー。「違いを生かした先に、誰もが働きやすい環境がある」と語る副島さんに、話を聞きました。

見た目の違いでいじめられた過去

銭湯でインタビューに応じた副島淳さん

──まず、自己紹介をお願いします。

副島淳さん(以下、副島): 俳優・タレントの副島淳です。朝の情報番組などでレポーターを務めたり、ドラマや映画に出演したりしています。

アフリカ系アメリカ人の父と日本人の母を持つミックスルーツで、この見た目から「夏が好きそう」「バーベキューしょっちゅうやっているでしょ」とよく言われます。でも、どちらも好きではなくて、むしろ家でドラマを見たり、ひとりで銭湯に行ったり、サウナに入ったりする時間が大好きです。

──「夏が好きそう」って……まさに偏見でしかないですね。他にもそうした勝手な先入観を押し付けられることが多いのでしょうか。

副島: テレビに出始めたころは「実は英語話せるんでしょ?」というのが多かったです。全く話せないのですが、「そういうキャラなんでしょ?」と信じてもらえなくて……。今では話せそうなのに話せないというキャラを売りにしているので、むしろそう言われると「来た!」と嬉しく思いますね(笑)

──子どものころは見た目に関して嫌な思いをしたそうですね。特に辛かったことは何でしょうか。

副島: 小学4年生のころから、見た目の違いをきっかけに、上履きや教科書を隠されたり、蹴ったボールをぶつけられたりといったいじめを受けるようになりました。それまで自分の肌の色や髪の毛の質などについてあまり意識していなかったので、突然そんなことになり、辛く、人間不信になりました。

幼少期の副島淳さん

──そのときに思ったのはどのようなことですか。

副島: 自分のことを何も知らないのに、なぜそんなことをするのだろう、と。先入観で判断するのではなく、まず「副島淳」という人間を知ってほしかったですね。どんな人間かという中身をすっ飛ばして、見た目の情報だけで「俺たちと違う」と仲間外れにされるのは嫌で、自信も持てなくなりましたね。

成功体験が自分を変える

──どうすれば先入観を持たず、フラットな気持ちで相手のことを知ることができるでしょうか。

副島: 相手の話を先に聞くことですね。僕もテレビ番組のロケで一般の方に話を聞くときは、まず相手の言葉に耳を傾けることを意識しています。その上で、自分が気になったことを相手に質問する。最初は受け身の姿勢であることが基本です。

──まず聞くことが大事ということですね。

副島: はい。大事なのは、相手に対する「思いやり」があるかどうか。それさえあれば、違いはむしろ会話の糸口になると思います。

──会話の糸口というと?

副島: 誰でも最初に会ったときは自己紹介したり、相手の出身地や好きな食べ物などを聞いたりしますよね。そうした「はじめまして」の情報と、ルーツや生まれた国の話は、何ら変わらないと思います。

僕は中学時代にバスケを通じて自信を持ったことで、自分から発信できるようになって、すごく気持ちが楽になりました。最初は受け身で相手の話をよく聞いて、その後は、自分からどんどん心を開いて、自分のことを知ってもらう姿勢も大事だと思っています。

全国大会に出場するほどバスケットボールに打ち込んだ(写真は大学当時)

──ただ、自分から積極的に自分のことを話すのは苦手という人もいると思います。その場合どうすればいいでしょうか。

副島: 成功体験を持つことが大事だと思います。先ほどお話しした学生時代のバスケや、仕事を始めてからの成功体験というのは、自分の中ですごく力になっています。この仕事を始めたころは、ラッパーとかマフィアとかステレオタイプな役しかもらえなくて、正直オーディションに行くのも嫌でした。

ですが、2009年に出演した舞台の仕事をきっかけに、考え方が大きく変わりました。黒人の殿様役を演じたのですが、自分でもこんな役が演じられるんだと自信を持ったことで、他の仕事に対してもどんどん前向きになっていったのです。

──そのように仕事で成功体験を得ることができれば、より生き生きと働けそうですね。

副島: そう思います。僕はたまたまバスケや舞台の仕事で成功体験を持つことができましたが、別にスポーツや人前に出ることじゃなくてもいい。一人称でずっとハマれるもの、やり続けられるものに出会えればそれでいいんです。家で一人で夢中になることがあるだけでも、一気に視野は広がりますから。まずは心を元気にすることが大切です。

違いを楽しめる職場環境が理想

周囲の人とあっという間に打ち解ける副島さん

──誰もが働きやすい「インクルーシブな職場環境」を実現するためには、どうすればいいでしょうか。

副島: さまざまな人がいるということは、価値観や考え方もそれぞれ違うということです。でも、その違いさえも楽しむというか。違いを生かした先に、本当に誰もが働きやすい環境があるのではないかと思うのです。

僕も仕事の現場で意識していることですが、同じベクトルに向かって皆で進んで行くためには、お互いがイーブンな関係であることが絶対条件です。誰が優れているとか、立場が上だとか。そういう優劣を取っ払い、活発で公平なディスカッションが出来れば、新しい発見も生まれるだろうし、仕事もどんどん面白くなるんじゃないかと思いますね。

──多様性があることが、仕事のモチベーションを生むということですね。

副島: はい。本当に人間は一人ひとり違います。僕は昔、この違いのために本当に辛い思いをして、自分で人生を辞めてしまおうと思ったこともあるぐらいです。

芸能活動の傍ら、多いときは月に1回以上の講演を行う

それが今では、全国各地の学校などで講演活動をしたり、今回のように自分の過去を振り返ってお話したりしています。これは、そうした違いから目を背けずに、むしろ楽しむことでたくさんのことを発見し、多くの人と繋がってこられたからだと思います。ぜひ皆さんも人との違いを楽しみ、変に肩に力を入れてかしこまるのではなく、自然な流れでいろいろな人と繋がっていただければと思います。