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関西弁操るアフリカ出身の教授が語る「多文化とインクルーシブな職場づくり」

2022年12月23日 近藤 雄生
ウスビ・サコさんのインタビュー動画を見る

当時はやっていたのが女子高生の”ガングロ”でした。どっちがほんとの黒人かわからんやんーー。軽快な関西弁で語るのは、日本で30年以上暮らし、日本で初めてアフリカ出身の大学学長を務めた京都精華大学のウスビ・サコ教授(56)です。

世界各国で外国人労働者が増加する中、インクルーシブ(排除されない)な職場づくりが求められています。多様な文化的背景を持った人たちが一緒に働く環境をどうしたら作れるか、サコさんに聞きました。

想像とは全然違ったアジア

京都精華大学の教授、ウスビ・サコさん(写真:吉田亮人)

――来日して30年以上になります。日本に来た経緯を教えてください。

ウスビ・サコ(以下、サコ): 私はマリの首都であるバマコやその郊外の町で、子ども時代を過ごしました。高校卒業後に奨学金をもらって留学できることになったんですが、国の教育省から指定された行き先は中国でした。

全く予想していなかったので「なんでアジアやねん?」という気持ちでしたが、思い切って行くことにしました。そして中国滞在中に、一度旅行したのをきっかけに日本に興味が湧いて、その後は日本で暮らしてみることにしたのです。

中国留学時代のサコさん

――マリにいたとき、アジアにはどんな印象を持っていましたか。また、日本で暮らそうとまで思ったのはどうしてですか。

サコ: アジアといえば、基本的にはカンフー映画の印象でした。なので、中国についてもそんな映画の世界を想像していたのですが、行ってみたら、みな人民服を着て自転車に乗って、マントウ(中国のパンの一種)を食べていて……。「映画と全然違うやん!」って(笑)

一方、日本のイメージは電化製品。中国で知り合った日本人の留学生たちは実際、小型で高性能なスピーカーを持ち、部屋も綺麗できちっとしていて、ロボットみたいだなって印象も持った。でも日本に旅行してみると、これまた違ったんですね。

泊めてもらった友だちの家のお父さんは、ステテコ一枚でだらしなく過ごしているし、お母さんはビールを飲んで、わけのわからないテレビを見て、わはははー、と大笑いしている(笑)。なんだ、日本もこういう、いい加減で明るい社会があるんじゃないかってわかって、それで興味を持ち、日本に住んでみたいと思うようになりました。

使いなれた関西弁で取材に応じたサコさん(写真:吉田亮人)

――中国も日本も、サコさんにとって全くの異世界だったのが伝わってきます。そのような中で、日々どんなことを感じながら過ごしていたのですか。

サコ: 中国の大学では「アフリカでは木の上に住んでいるのか」とか言われました。「マリ?どこ?」って聞かれて、自分の国が全く知られていないことも知った。ショックでした。でもそうして初めて、自分たちが世界でどう見られているのかもわかったし、自分がアフリカ人であること、黒人であることを、強烈に認識させられました。

そんな立場になると、「負けたくない」という気持ちも湧きます。強さを強調したくもなる。でもそのうちに、まずは自分が相手を受け入れることが大事なんだって学びました。すると自分も受け入れてもらえる、ということがわかっていきました。

多様性の捉えられ方に今も違和感

――来日してサコさんは京都大学の大学院で「空間人類学」の研究を始め、その後、京都精華大学で教鞭を取りますね。異文化の人とのコミュニケーションという面で、日本の状況はサコさんにとってどのように映っていますか。

サコ: 私が日本に来たとき、はやっていたのが女子高生の”ガングロ”でした。「なんであんなに黒く塗ってんねん、どっちがほんとの黒人かわからんやん」って思いました。でも、黒人が受け入れられているという気はしませんでした。日本は、異文化の”モノ”を自分たちの解釈で取り入れているけれど、異文化から来た”人”とは向き合っていないように感じました。

それがこの30年で、日本にも外国人がすごく増えて、外国人を受け入れようという空気が広がってきたと感じます。多様性が大事だという認識も共有されてきた。でも、日本における多様性の捉えられ方にはいまも違和感があります。

日本では、外国人や立場の弱い人を“マイノリティ(少数派)”という枠に入れ、自分たち“マジョリティ(多数派)”が彼らを受け入れるのが多様性なんだって思っている節がある。それは違うと思うんです。

(写真:吉田亮人)

――マジョリティがマイノリティを受け入れる、という意識ではだめだと。

サコ: はい。大切なのは、マジョリティの意識改革です。つまり、マジョリティ側にいるとされる人たちが、マジョリティということについて考え直す必要がある。マジョリティ側の人も、じつはマジョリティではないんです。

例えば日本では、同調圧力が強いため、マジョリティ側にいる人も、マジョリティとして期待される振る舞いをするために自分を捨てている部分がある。私の学生を見ていても、関西の子たちは、みな、話したらオチを作って笑わせないといけないって思っている(笑)。自分は関西人だから、と。それって窮屈ですよね。実は個性を消してしまっているのかもしれないのだから。

マジョリティ側にいる人も、本当はマイノリティなのかもしれない。そのことに気づいて、一人ひとりが自分の個性を大切にして生きることを意識していけば、もっと多様性のある社会になる。それが本当の多様性、ダイバーシティなんじゃないかなと。そうすれば、「あの人たちはマイノリティで、自分たちマジョリティは彼らを受け入れる」みたいな発想ではなくなるんじゃないかって思うんです。その点は、日本人がもっと考えないといけないことだと思います。

相手を尊重し、対話することの大切さ

2018年から22年春まで京都精華大学の学長を務めたサコさん(写真:吉田亮人)

――サコさんは学長として、多様な文化背景を持つ学生やスタッフをまとめる立場にいました。そうした現場では、インクルーシブな環境を作ることへの意識が特に大切だと思われます。企業などでそのような環境を作るために重要なのは何でしょうか。

サコ: 私自身が心掛けているのは、コミュニケーションする上で、相手に寄り沿うことです。自分にとって当たり前でも、相手にとってはそうではない場合がある。異文化の中では特にそうです。自分と相手との価値観の違い、つまり、両者の間にあるボーダーラインを常に意識し、相手の領域をリスペクトしながらコミュニケーションを取ることが大切だと考えています。

また、日本人は、思ったことをなかなか言葉にしませんよね。話し合いの場を持っても、十分な議論ができているのかわからない。日本人同士だったら暗黙の了解でわかるのかもしれないけれど、他の文化圏から来た人間にはわかりません。

だから私は、どうしても”ダイアログ(対話)”が必要だと思います。相手がこう思っているはずだと最初から決めつけず、対話して互いの思いをぶつけ合う。そして折り合いを見つけていく必要があると思います。

サコさんが同僚と食事をしながら会話をする様子

そのために職場でどうすればいいかというと、私は、インフォーマルな場をたくさん作ることが大切だと考えています。何かを決めるときは、ランチを食べながらやるなど、気楽な環境の中でやったほうがいい。

そういう場では、ふだん見えないその人の姿が見え、相手への興味が湧いたり、形式張った場では言わないようなことも聞いたり話したりしやすくなります。そうしてお互いのことをよりよく理解し合い、関係性が構築されるとふと、「サコさん、これはどうなんや?」という意見が出たりするんです。

そういう場が自然発生的に生まれるような雰囲気を普段から作っておくことが大切です。相談のある人が、ふらっと部屋に来て一緒にご飯を食べながら話をする。そういう環境があるのが理想だと私は思っています。

(写真:吉田亮人)

――世界ではいま、分断が進んでいます。みな見ているものが違って、ダイアログが成り立ちづらい時代になっています。そんな時代に、各人が意識すべきことは何でしょうか。

サコ: 相手を人間として尊重することです。それが何よりも大事です。あの人が一番強いとか、自分のほうが上だといった序列化をせず、互いに相手の文化や考え方を受け入れる寛容さを持つことです。

そして職場でも、関わる人みなが参加して話し合い、ものごとを決めていける環境を作ることが大切だと思います。

世界各国で、これからますます多くの外国の人、色々な文化の人が入ってくるはずです。そうした未来に、誰もがともに社会を作るよき仲間として、尊重し合い、歩み寄れる社会にしたいですね。そのために私自身も、多様性を体現する例として、できることをやり続けていきたいです。