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低身長症のダンサーDAIKIに聞く 誰もが働きやすい職場をつくるには?

2023年7月26日 いからし ひろき
DAIKIさんのインタビュー動画を見る

身長128センチメートルの自分の体は、ブランドだと思っています――。そう語るのは、「低身長症」とも呼ばれる難病・軟骨無形成症を抱えながら、ダンサーとして活躍するDAIKIさん(29)です。障がいの有無に関係なく誰もがダンスを楽しめる場づくりに日々取り組んでいるといいます。そんなDAIKIさんに、自身の生い立ちや、誰もが働きやすい職場づくりの方法を聞きました。

ダンスと出会って人生が変わった

──まず、自己紹介をお願いします。

DAIKI: 本名は西村大樹で、DAIKIという名でダンサーをやっています。

インタビューに応じるDAIKIさん

SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)という団体の代表でもあります。ダンスやアートなどを通じて、障がいがある人もない人も、みんなが一緒に楽しめる場をつくりたいと思っています。

毎年夏には「チョイワルナイト」というダンスイベントを開催しています。名前の意味は、「ちょっとばかり羽目を外して楽しんでいい」というもので、その場が、障がいのある人やさまざまな年齢の人にとって自由な空間となることをめざしています。

──DAIKIさんはどのような障がいがあるのでしょうか。

DAIKI: 僕は軟骨無形成症という、遺伝子の突然変異が原因の先天性疾患を患っています。これは低身長や骨が曲がるといった特徴を持つ病気で、手術が必要だったり、体に負荷をかけられなかったりという身体的な制約があります。

さらに、見た目の問題や、障がいのない人なら普通にできることができないといった制限が多いため、どうすれば生きやすくなるのかということを常に考えなければなりません。

DAIKIさん「周囲と歩幅が合わないことが多いんです」

──自分の障がいをどのように乗り越えてきたのでしょうか。

DAIKI: ダンスとの出会いが大きかったです。中学2年生のときに仲間の影響で始めました。できるジャンルが限られ、苦労もありましたが、高校の文化祭で初めて人前で披露したとき、自分に向けられる視線の質が変わったと感じました。

それまでは、街を歩いているとネガティブな視線を投げかけられていると感じていたのですが、ステージに立ったら「DAIKI!」と声援を受けて、ポジティブな視線を感じられるようになりました。

数百人の観客の前で踊るDAIKIさん

──その後は順調な道のりを歩んできたのでしょうか。

DAIKI: 乗り越えられなかった壁もたくさんあります。たとえば、学生の頃に持っていた「保健体育の教員になる」という目標は叶いませんでした。教員採用試験の実技で、僕の体ではどうしてもできない技があったのです。たしかに、その場で実技を見せられない先生が教壇に立っても説得力がないし、信用されない部分もあるとは思います。

でも、自分がお手本を見せられなくても伝わる授業のやり方はいくらでもあるし、僕なりに工夫して教員免許も取っています。だからそのやり方を見てほしいと試験官にお願いしたのですが、「規則は規則。試験の直前に骨折した人も0点だから、あなたも0点」と一蹴されました。そのときは落ち込みましたね。

そんな苦しい思いをたくさんしてきましたが、障がいがあるからこそ話を聞かせてほしいと言われたり、自分のパフォーマンスを通じて障がいについて考えてもらえたりするので、今は「自分の体はブランド」だと誇りに思っています。

心のバリアを取り払って

ダンスイベント後、子どもたち一人一人と対話するDAIKIさん

──障がいがある人もない人も、誰もが働きやすいインクルーシブ(排除されない)な職場環境を作るために、重要なことは何でしょうか。

DAIKI: コミュニケーションが一番大切なポイントだと思います。僕はこの体なので、どうしても高い所にある物が取れません。他のメンバーにも苦手なことはあります。そのときに「ちょっとあれ取って」とか「手伝ってくれない?」と気軽に言い合える関係性が築けているか、常に考えています。

やっぱりお互い遠慮すると思うんです。プライドもあるし。僕もわざわざ頼むのは悪いから「棒で突いて落としちゃえ」と思うこともありますが、それで解決しないこともあるわけです。そもそも、そうやって遠慮すること自体、心が通じ合っていない証拠だと思います。

人と人の心理的な壁がない状態のことを、僕は「心のバリアフリー」と言っているんです。対話して向き合うことで、心のバリアは取り払うことができるはずです。

──DAIKIさんは、周囲とどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。

周囲とのコミュニケーションを欠かさないDAIKIさん

DAIKI: 10代から50代まで幅広い年齢層のメンバーがいるSOCIAL WORKEEERZでは、一人一人と向き合うことを大切にしています。二人きりでご飯に行く時間を作ったり、個別に連絡を取ったり、ときには何も用事がないのに急に電話したり。

そういうときに、さりげなく今考えていることや悩み、将来について聞き出します。ただし、「そんなことで悩んでいるのか」とか、「自分はとっくに乗り越えたよ」と思ってはダメ。それは僕の価値観でしかないからです。

大事なのは相手と向き合い、共感すること。会話しているときは相手の悩みや喜びに対して、まずは絶対に共感するようにしています。その姿勢を今後も貫き通したいと思います。

インクルーシブな世界をつくる

DAIKIさんが「家族のような存在」と語るSOCIAL WORKEEERZ

──誰もが自分らしく働ける職場環境ができたら、どんな良いことが起きると思いますか。

DAIKI: 障がいがある人もない人も、個人としてやりたいことが実現できるのはもちろんですが、組織にとってもメリットがあります。

例えばSOCIAL WORKEEERZでは、僕が代表になったことで、第三者から見た組織へのイメージが変わったようで、いただく仕事の種類が増えました。つまり、多様な個性や才能がある人達が集まることで、組織が請け負うことのできる仕事の幅が広がるといえます。

メンバーをカレーライスの具に例えると、肉だけが大事じゃないし、ジャガイモやニンジンだけが主役でもない。全部揃っているから美味しい。人それぞれ短所もあるかもしれませんが、それを個性や才能と捉えて共感し合うことで、幅広い仕事をこなしていけるのではないでしょうか。

──最後に、DAIKIさんの夢を教えてください。

DAIKI: まずはバリアフリーなダンススタジオを作ること。そして、そのスタジオを足がかりに、車椅子のまま遊べる遊具がある公園や、車椅子でも楽に行き来できるカフェ、どんな人でも自由にサイズを選ぶことができるアパレルショップなどが集まる複合施設を作れたら最高ですね。

そこでいろいろな特性の人が集まって、わいわいと宴をしている。そんな夢を実現することが、僕の人生のゴールかなって思っています。