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再生可能エネルギーの使用状況をスマホで「見える化」 脱炭素社会の実現めざす
日立製作所は1月22日、企業などの設備やサービスにおける「再生可能エネルギー」の使用状況をデジタル技術で「見える化」するシステムを発表しました。また、それぞれの設備やサービスが「再生可能エネルギー」のみで稼働・提供している場合、「Powered by Renewable Energy」として証明するシステムの運用を始めたことも明らかにしました。これらは脱炭素社会の実現に向けた取り組みの一環です。
このデジタルグリッドプロジェクトの青木雅博プロジェクトリーダーは、「環境への投資がリターンにつながる」という仕組みにすることが普及のカギだと考えています。
「このシステムを利用すると、企業が自社の設備やサービスに再生可能エネルギーを使っていることが証明できます。消費者の中には、そのような環境に配慮した企業の商品を選ぶ人もいるでしょう。つまり、再生可能エネルギーを使った商品は、使わない商品よりも競争優位性が高まり、収益につながる可能性があるのです。このシステムには、そういう仕組みを作ろうという狙いがあります」
再生可能エネルギーの普及のカギは「見える化」にあり
急速に進む地球温暖化を背景に、世界各国の政府や企業、団体が温室効果ガスを削減するためにさまざまな事業に取り組んでいます。EU、英国は、2050年までに温室効果ガスの排出について、実質ゼロをめざすと宣言し、日本の菅義偉首相もG20サミットで実質ゼロの実現に向けた決意を表明しました。
「しかし、日本では“実質ゼロ”実現に不可欠な再生可能エネルギーの導入がまだまだ進んでいないのです」
そう語るのは、このシステムの開発を担当した未来投資本部デジタルグリットプロジェクト主任技師の峯博史さんです。
「再生可能エネルギーをどう普及させるか。それを考えたとき、自分が使っている電気の“源”が太陽光なのか、風力なのか、水力なのか、見える化することができれば、みなさんがそれを意識し、再生可能エネルギーの導入が進むのではないかと考えています」
建物や設備ごとに再生可能エネルギーの使用状況を「見える化」
今回、日立が開発したシステムは、電力の使用量をデジタル技術で計測するスマートメーターと、データを安全に管理するブロックチェーンの技術を組み合わせたものです。これにより、一つひとつの建物や設備ごとに、どの再生可能エネルギーをどのぐらい使用しているのかが可視化されます。システムの特徴について、主任技師の峯さんはこう明かします。
「いままで、企業の再生可能エネルギー使用量を示す指標は、工場などの事業所全体でおおよその割合を開示するのが一般的でした。しかし、今回開発した見える化システムでは、エレベーターなどの設備一つひとつを動かすために使われる電力が、太陽光由来なのか、水力なのか、風力なのか、あるいは火力か、原子力なのか、それぞれの割合がスマートフォンを通じて表示されるようになっています。たとえば、このエレベーターは風力何%、太陽光何%とか、この工場は太陽光が何%で火力がまだ数%使われている、といったことがわかるのです」
事業所単位でみると、再生可能エネルギー100%の早期実現が困難な場合もありえます。しかし、このシステムを導入すれば、「個別の建物や製造ライン単位での再生可能エネルギーの使用割合がわかるので、100%達成に向けた意欲が生まれやすいのではないか」と、峯さんは期待します。
エネルギーの使用状況がより具体的に可視化されることで、企業の環境意識の向上や再生可能エネルギーの積極的な使用に貢献できるとしています。
日立の中央研究所で「見える化システム」を先行導入
東京・国分寺にある日立の中央研究所では、4階建ての「協創棟」と呼ばれる建物やエレベーターなどの設備に、この「見える化システム」が導入されています。エレベーターの脇に貼られた「Powered by Renewable Energy」のマークの横にはQRコードが表示されていて、そこにスマートフォンをかざすと、エレベーターの使用電力の状況がすぐに画面に立ち上がってきます。
「自家発電」「非再エネ」「(環境)証書」「購入」など使用電力の内訳がグラフ化され、さらに「太陽光」「風力」などの電力の由来別に使用比率が表示されます。また、非再生エネルギーの比率も表示されるので、再生可能エネルギーの導入状況が一目瞭然となります。
さらに表示された再生可能エネルギーが本当に太陽光や風力、水力由来の電力なのか、またその比率が改ざんされていないかどうかを担保する必要もあります。これについて峯さんは、「ブロックチェーンの技術を使うことで、確かに太陽光なのか、風力なのか、どこの再生エネルギーをどこにどれだけ使用しているかを証明することができる」と語ります。
「見える化を通じ、脱炭素社会の実現に貢献したい」
システム普及の課題と見られているのがスマートメーターの新設です。スマートメーターは電灯一つごとに設置可能ですが、1つの新設に数万円がかかるため、要所要所に効率よく設置することが求められます。設置する際のポイントについて、青木雅博プロジェクトリーダーはこう述べます。
「大きな工場は、生産ラインごとに電力をモニターする仕組みがすでにあります。新たにスマートメーターを設置するのはコストがかかりますので、できるだけ既存の設備と連携させるのが普及のポイントです。今の工場の生産ラインはほとんどインターネットと繋がっているため、ソフトウェアを書き換えて、工場に偏在しているデータをクラウドで取り出す仕組みを構築することで、設置コストが削減できます」
日立中央研究所の「協創棟」での正式運用は2月1日から始まります。4月以降、外部に向けてシステムを展開する予定で、価格についてはシステムの普及を優先させながら検討していきます。
「まずは製造業などのサプライチェーンに向けて営業を展開するつもりです。工場全体にいきなり導入というのはかなりチャレンジングなので、まずは一部の製造ラインやひとつのフロアなどからスタートして、将来的に順次それを増やしていっていただきたいですね」と、峯さんは話しています。
再生可能エネルギーの利用を公的に証明する、「Powered by Renewable Energy」についても、「いま第三者機関が承認するプロセス作りを進めており、信頼性のある公的機関が承認することで、信頼性を高めます」と青木さんは語ります。
今後の展望については、青木さん、峯さんともに「ゆくゆくは国内での提供にとどまらず、海外にも広げていきたい」と抱負を述べました。
「再生可能エネルギー導入は、欧州や北米が先行しており、インドや中国などのアジア圏の多くの国は日本と同じように課題を抱えています。私たちのシステムをソリューションとして展開し、世界中に脱炭素社会を広げていければと思っています」