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1分間で紙幣1,000枚を高速除菌 日立オムロンターミナルソリューションズ、「紙幣除菌装置」を開発

2020年12月8日 編集部
【動画】日立オムロンターミナルソリューションズが開発した紙幣除菌装置

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。感染拡大に伴い、各国で感染リスクを回避する行動が求められています。

新型コロナウイルスは、ドアノブやエレベーターのボタンなど、私たちが日常的に触れる場所に潜んでいます。人の手から手へと移動する紙幣もその一つです。このため、紙幣に対する除菌のニーズが高まっており、紙幣を大量に扱う金融機関にとっても、その除菌は急務の課題となっています。

こうしたなか、ATMや両替機など金融機関向けの製品を取り扱う日立オムロンターミナルソリューションズ*は、高速で紙幣を除菌できる「紙幣除菌装置」を開発しました。同社ではこの12月から、国内外の企業への提供を始めます。

きっかけは、海外の銀行からの問い合わせ

装置開発のきっかけについて、同社トータル紙幣ソリューション事業推進本部の高丘竜輔さんはこう話します。

「新型コロナウイルスの感染が拡大していくなか、中国や韓国の銀行から『紙幣を除菌できないか』とお問い合わせいただきました。それを聞いて、世界中で同じようなニーズが高まるに違いない、と思ったのです。紙幣の除菌を高速かつ簡便にできるようにすることで、世界中に安全と安心をお届けしたいと考えました」

紙幣除菌装置について説明する高丘さん

膨大な量の現金を扱う金融機関。紙幣を除菌するには、多くの時間と手間が必要となります。

ある海外の金融機関では、「UVキャビネット」と呼ばれる金庫のような装置を導入し、その内部に「束になった紙幣」を入れて、紫外線を照射する方法を試みています。

しかし、紙幣が束の状態だと、紫外線が内部まで届かず、すべての紙幣を除菌することは困難です。結局、キャビネットから取り出された紙幣は、除菌期間をとって2週間ほど“隔離”しなければなりません。

それに対し、同社が開発した除菌装置は、紙幣1枚1枚を除菌する方法を採用しました。装置の内部を通過する紙幣の「両面」に、ウイルスや菌のDNAやRNAを瞬時に壊す強力な紫外線が照射され、確実に除菌されます。特徴は紙幣を1枚ずつ、高速で除菌できること。1分間で1,000枚もの紙幣を処理できる性能があります。

使い方はとても簡単。紙幣の束を右端にある挿入口に置いて、スタートボタンを押すだけです。すると、即座に紙幣1枚1枚が機械に送り出され、左端の受け口から除菌処理された紙幣が次々に出てきて、集積されます。

こうして大量の紙幣が高速で除菌できる!

<ステップ1> 装置の右下にセットされた200枚の紙幣。最大1,200枚がセットできる
<ステップ2> 操作画面。紙幣をセットしたら右下にある「Start」ボタンを押す
<ステップ3> 除菌装置の心臓部。紙幣1枚ずつ、右から左に高速で送られながら、紫外線の照射を上下両面から受ける
<ステップ4> 中央上部の光っているところで紫外線が照射される。その後、紙幣は高速で左側の受け口に集積される

コロナ類似のウイルスを99%以上除菌した実力

開発で苦労した点について、日立オムロンターミナルソリューションズの西野陽さんはこう説明します。

「まず、紙幣の両面に確実に紫外線を当てて、全面を除菌すること。次に、その搬送中に紙幣を詰まらせないようにすること。そして最後は、強い光によって発生する装置内の熱をどう排出するか。その点が工夫のポイントでした」

確実な紫外線照射と搬送については、装置内部に張った細いワイヤの構造を工夫することで解決しました。また熱対策は、装置に冷却ファンを実装することで対応しています。

こうした工夫の一部は特許として出願しています。紙幣除菌装置の開発には、同社がこれまで金融機関向けに開発してきた数々のソリューションの蓄積が生かされているのです。

肝心の除菌能力については、愛知医科大学感染免疫学講座の小松孝行准教授(ウイルス学)に検証実験を依頼しました。

その結果、紙幣に付着した、コロナウイルスと類似の構造を持つパラインフルエンザウイルスの99%以上が不活化、つまり除菌されたことが確認されました。小松准教授は「市場に流通する紙幣を介したウイルスによる感染リスクを下げる効果が期待できる有効な製品です」とコメントしています。

除菌された紙幣を取り出す。特定の枚数ごとに分けることもできる

この紙幣除菌装置は、法人向けに1台約350万円で受付を開始。すでに問い合わせが海外を含めて20件以上寄せられています。前出の高丘さんは、想定する販売先についてこう話します。

「金融機関や警備会社の現金センター、大型商業施設や海外のカジノなど、紙幣を大量に扱うところです。先日開催した、動画を用いたウェブ展示会では、30以上の国や地域から100名以上の方々にご参加いただきました。特に新型コロナウイルスの感染が拡大している地域からの関心は高く、今期中に世界で1,000台の提供をめざしたいと思います」

同社セールスエンジニアの西野さんは「将来的にはATMに入る、コンパクトなサイズの装置も開発したいと思っています。すでに検討を始めているところです」と今後の展開に意欲を見せています。

*2021年7月1日付けで「日立チャネルソリューションズ」へ社名変更