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社会イノベーション

老朽インフラの危機、
財政難はクールな
「省インフラ」で突破せよ

東洋大学経済学部根本祐二教授インタビュー
(ニュースイッチ 2019年08月15日掲載)

「このままでは老朽化した社会資本が損壊し、市民の生命と財産を危険にさらす一方、再生するために莫大な予算が必要になる」―。東洋大学経済学部の根本祐二教授は2011年の著書『朽ちるインフラ・忍び寄るもうひとつの危機』でそう指摘した。山梨県大月市の笹子トンネルで天井板落下事故が発生し、多くの死傷者を出したのはその矢先の12年だった。

政府はこの事故を機に老朽インフラの対策を強化した。特にトンネルや橋は5年に1度の定期点検が義務づけられ、安全対策は大きく前進した。ただ、莫大な予算が必要になる危機は今なお迫ってきている。根本教授の試算によると、現在のインフラを今後も同規模で維持するためには更新費に年9兆円程度が必要になる。多くの自治体ではその費用が5割以上足りなくなるという。

そうした状況を打開するため、根本教授は物理的なインフラに頼らずに質の高い生活を維持する「省インフラ」を提唱する。公共施設の多機能化や小規模化などを通してインフラの更新費用を削減する手法だ。根本教授に省インフラのポイントを聞いた。(聞き手・葭本隆太)

多世代交流の付加価値が生まれる

 ―「省インフラ」を提唱しています。

限られた予算で必要なインフラを維持するにはすべての種類のインフラを「更新」「廃止」「長寿命化の推進」といった形に仕分けないといけない。その中で公共建築物は主要施設への機能集約による一部施設の廃止などで更新費を5割程度抑制できる。例えば公民館は廃止してその機能を学校に吸収する。図書室や体育館、音楽室は地域住民とタイムシェアで共用する。機能を維持しつつ、いろいろな人が同じモノを使う形だ。子供と高齢者の交流が生まれる付加価値もあり、魅力的な手段ではないか。

 ―地方自治体では実際にそういった取り組みは進んでますか。

老朽化した橋の使用停止や学校の統廃合など、応急措置として一部で出てきている。ただ、すべてのインフラをテーブルに載せた上で「更新」や「廃止」などを判断するといった体系的な整理はされていない。市民の合意形成ができていないからだろう。インフラの耐用年数を60年とすると(高度経済成長期に集中的に整備されたインフラの)老朽化のピークは30年頃に迎える。なるべく早めに進めなくてはいけない。

 ―今あるものを廃止するとなると市民の反発を招きそうです。どうすれば合意形成できますか。

廃止の理由をしっかり説明すれば市民は十分に理解してくれるし、賛成を増やすことはできる。自治体が管理するインフラには道路や橋、公民館などがあり、それらに優先順位をつけていく形で市民に問うことが大事だ。まずは自治体職員などがそうした方法を理解し、市民に説明できる体制を整えるべきだ。また「省インフラ」はクールという認識が広がることも重要だ。

 ―クールですか。

省インフラは「省エネ」と同じ。省エネが叫ばれる以前はエネルギーをふんだんに使う生活が豊かとされていたが、(省エネが浸透した)今ではエネルギーの無駄使いは愚か者として扱われ、リサイクルや節電がクールな行動と認識される。なるべくインフラを使わずに済むように行動することも同様だ。文化ホールがなくても文化活動はできるし、集会所がなくたって集会は開ける。その手段を自分たちで考えることは格好いい。反対に自宅の前の公民館や母校がなくなるのは嫌(だからインフラの廃止に反対する)といった(自分本位の)考えは格好悪い。

コンパクトシティの進め方

 ―省インフラを推進する上で他に必要なことはありますか。

インフラを実現する技術開発に期待したい。(建物を構造躯体と内装・設備に分け、利用用途に合わせた改修を容易にする)スケルトン・インフィル(SI)はその一つだ。それにより、学校を将来老人ホームに用途変更するといった使い方ができる。また、自動運転によって移動図書館などが実現することも期待したい。

 ―公共建築物に比べて道路などは一部を省くという手段が難しいです。

道路などのネットワークインフラは一部を切ると使えなくなるため、ライフサイクルコストの縮減が重要だろう。更新時に長寿命の材料を採用したり、センサーや人工知能(AI)などの新しい技術を導入したりして劣化を抑えるべきだ。民間企業にはそれを事業機会と捉え、新しい技術を積極的に提案してほしい。ただ、それらを実施しても更新費用が不足するとなれば、(居住エリアを特定の地域に集中させることで都市機能を維持する)都市のコンパクト化を進めるしかない。

 ―都市のコンパクト化は住民を誘導するハードルが高いです。

国が旗を振らなければ進まない。中心市街地の居住にインセンティブを与えることは可能だろうが、集住しない人にディスインセンティブをかけられるかは難しい問題だ。その中で緩やかな方法としては(中心市街地など)居住可能エリアを設定し、そのエリアのインフラは守るが、その外側は更新しないという考え方がある。外側に居住する自由は制約しない。例えばエリア外でも道路は通れるが、舗装は停止する。実際に今でも寒冷地の除雪作業では費用の問題でエリアによって実施できない地域は生まれている。



この記事は日刊工業新聞(ニュースイッチ)に掲載された記事であり、
日刊工業新聞社よりライセンスされたものです。
寄稿や発言内容、ライセンスに関するお問い合わせは、newswitch@po.nikkan.co.jpにお願い致します。

【略歴】根本祐二(ねもと・ゆうじ)1954年鹿児島県生まれ。78年東京大学経済学部卒業、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。06年東洋大学経済学部教授に就任。著書に『朽ちるインフラ―忍び寄るもう一つの危機』など。

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