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指1本で買い物ができる時代に コロナ禍で期待高まる「指静脈認証」とは

指1本で決済ができる「指静脈認証」

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、現金の受け渡しによる感染を避けるため、「キャッシュレス決済」を利用する人が増えています。キャッシュレス決済といえばクレジットカードが一般的ですが、最近ではスマートフォンで決済できる「PayPay」*1や「LINE Pay」*2などの決済サービスが急速に普及しています。

こうした中、キャッシュレス決済の新たな手段として、スマートフォンや財布を持たずに手ぶらで決済ができる「生体認証」に注目が集まっています。生体認証は、顔や手のひらなど身体のさまざまな部分を使って個人を特定する技術。その中でも、指の静脈で個人を特定する「指静脈認証」は、利便性や安全性の高さから、今後の活用に期待が高まっています。

生体認証の普及に取り組む日立製作所の真弓武行さんは、「世界的に見ても生体認証のニーズは高まっています。日本では一部の金融機関で商用化が始まっており、小売りや飲食業などでも導入が検討されはじめています」と話します。

キャッシュレス決済のニーズ高まる

経済産業省によると、日本におけるキャッシュレス決済の比率は、2008年時点で11.9パーセントだったのに対し、2019年には26.8パーセントまで上昇しました。キャッシュレス決済のニーズが高まる中、政府は2018年、キャッシュレス社会の実現に向けた「キャッシュレス・ビジョン」を発表。キャッシュレス決済の比率を2025年までに40パーセント、将来的には80パーセントをめざす方針を示しました。

キャッシュレス決済にはさまざまな手段がありますが、いま注目されているのが、指の静脈パターンで個人を特定する「指静脈認証」です。指に赤外線を透過させて静脈パターンを検出し、個人認証を行います。指静脈は体内情報であり、構造がひとりひとり異なるため、偽造や成りすましが困難であり、安全に利用することができます。

また、指1本であらゆる支払いを済ませることができるため、スマートフォンやクレジットカードを持ち歩かなくても決済が可能になります。財布を忘れて外出してしまった時に慌てることも、クレジットカードを紛失した時の手続きに翻弄されることもなくなり、これまで「当たり前」とされていた決済上のやり取りが、より便利になると考えられています。

生体認証で注目される指静脈認証

ユーシーカードで指静脈認証のプロジェクトを担当した中村塁さん

「2018年の夏ごろから、主に海外で生体認証を使った決済が出始め、弊社でも検討を開始しました。そんな時に、日立さんの社員食堂で指静脈を使った決済を開始したという内容の新聞記事を読んで、日立さんにアプローチしたことがきっかけです」

また、生体認証には顔認証や手のひら認証など、さまざまな手段がありますが、指静脈認証に着目した理由については、次のように話します。

「多くの加盟店さまから、様々な決済手段が乱立する昨今の情勢により、レジ回りのスペースに制約があり、大きな決済機器は設置しづらいといった声が多くあります。そこで、指1本のスペースを確保するだけの指静脈認証なら適用しやすいのではないかと考えました」

実証実験の様子

実証実験は両社の社員約650人を対象に、飲食店とドラッグストアの5店舗で行われました。ユーザーは、指静脈情報とクレジットカード情報を紐づけるための「ユーザー登録」を行い、指1本で支払いが円滑にできるかが検証されました。実証実験の結果、認証は1秒未満で終わり、キャッシュレス決済の中でも早いといわれている電子マネーでの処理時間と変わらないことがわかりました。

「我々カード会社の人間は日頃からキャッシュレスの決済に接しているのですが、そういう人間からしても、今回の指静脈というのは非常に手軽で、評価もすごく良かったです」(ユーシーカード・中村さん)

セキュリティ面での課題を克服するPBI

生体認証を社会に普及させるためには、利便性だけではなく安全性の確保が不可欠です。生体情報は、書き換えることや抹消することができないという特性があるため、情報漏洩による悪用を避けるためのセキュリティが大きな課題となっています。

こうした中で注目されているのが、生体情報を安全に扱うことを可能にする日立の「公開型認証基盤:PBI(Public Biometrics Infrastructure)」です。生体情報が復元できない形で登録されるため、セキュリティ面でも安心して利用することができるといいます。

「PBIは生体情報をそのままの状態で登録するのではなく、復元できない形に変換して登録します。そのため、登録された情報が盗まれたとしても、生体情報として悪用することはできません」(日立製作所・真弓さん)

PBIを活用すれば、あらゆる場面で決済や本人確認が可能となる

さらに、PBIは生体情報をWebサーバー上で一元管理できるのも大きな特徴です。生体情報を復元不可能なデータ(PBI)に変換して、Webサーバー上に登録。生体情報を利用する際には、ネットワーク経由で認証サーバーにアクセスすることで、あらゆる場面での本人確認や決済が可能となります。

今回の実証実験は、PBIを使うことで指静脈認証が安全に使用できるかという観点でも行われましたが、結果は、セキュリティ面での不安もなく、安全性と利便性の両面からも「手ごたえを感じるものになった」といいます。

「スマートフォンは人々の生活を激変させましたが、スマートフォンのように生体認証が当たり前になる世界を想定しています。生体認証の普及においてはPBIが安全性を担保する技術になるのではないでしょうか」(ユーシーカード・中村さん)

さまざまな場面での活用に期待

日立製作所で生体認証の普及に取り組む真弓武行さん

実証実験の成功を受け、日立製作所の真弓さんは、PBIを活用した指静脈認証をさまざまな場面で普及させたいと考えています。

「例えば銀行であれば、本人確認に印鑑が必要ですが、指静脈認証を使えば不要になります。そうなれば利用者側が便利になるだけでなく、銀行側も書類が不要になるなどの利便性があります。また、災害発生時など印鑑を持ち出せない状況においても、本人が銀行に行くだけでお金を引き出すことができるのです」

さらに、ホテルのチェックインや選挙など、個人認証が求められる場面での利用も可能になるほか、スポーツジムや大衆浴場の施設内など、手ぶらで行動する場所においての活用も期待されています。指1本で本人確認をしたり、決済したりする未来がすぐそこまできているのです。

「指1本かざすだけで病院や公共施設などあらゆる場面で本人認証を可能とし、サービスが受けられる世界が実現できればと思います。この技術があれば、今後の社会では何も持たずに、安心・安全に決済や認証ができるようになり、人々の生活を変えていけるのではないかと考えています」(日立製作所・真弓さん)

いまは接触タイプの機器に導入されている指静脈認証ですが、非接触タイプへの導入も視野に入れて研究開発を行っているといいます。新型コロナウイルスの影響でキャッシュレス決済に注目が集まる中、今後の活用に期待が高まっています。

  1. ※1
    ※2
    記載されている商品名は、各社の登録商標または商標です。