再生可能エネルギーの大量導入に伴い、電力の品質低下が課題となっている。電圧・周波数が一定に保たれた高品質な電力は、特にコンピュータや医療機器にとっては不可欠となる。こうした課題の解決に向けて、蓄電システムソリューションへの期待が高まっている。
日立の蓄電池ソリューション「CrystEna」
大型電動機械や新エネルギー電力システムなど、幅広いニーズに対応する大容量のリチウムイオン電池
電力は、常に需要に合わせて供給を調整し、バランスを保つ必要がある。このバランスが崩れると、電力の品質のひとつである周波数が不安定になり、最悪の場合には大停電が発生する恐れがある。急速に普及が進んでいる太陽光や風力などの自然エネルギーは、天候や風向きといった不安定な条件で出力、周波数が大きく変動するため、大量に電力系統に導入された場合、電力需給バランスを維持するのが難しくなる。そこで、ITを活用した制御に加えて注目されるようになったのが、調整機能としての蓄電システムである。
日立は以前から、蓄電デバイスの材料をはじめ、産業、自動車向けの多彩な蓄電池を生産するとともに、研究開発からシステムインテグレーションまで幅広く取り組んできた。鉛蓄電池のように比較的大きなエネルギーを貯蔵できるものから、リチウムイオン電池のように短時間で大きな出力を出せるものまで、用途に合わせた最適な蓄電システムを構築することができる。
日立グループの総力を結集した1MWコンテナ型蓄電システム「CrystEna」
長寿命を実現したリチウムイオン電池。約10年の寿命が期待できる
再生可能エネルギーの発電量が世界トップクラスのアメリカでは、電力市場の自由化が行われ、送電網の開放や電力小売の完全自由化が進んでいる。さらに、ニュージャージー州などの北東部では、PJM(Pennsylvania-New Jersey-Maryland Interconnection)という北米最大手の地域送電機関(RTO:regional transmission organizations)が電力システムの運用をしており、そのPJMのもとで電力の周波数の「調整力」を売買する市場も生まれている。日立は、この電力調整市場に着目し、2013年より電力系統安定化に寄与するための蓄電システムソリューションのプロジェクトを開始した。
最初に日立が取り組んだのは、調整力として最適なリチウムイオン電池を搭載したコンテナ型蓄電システムの開発である。開発に際しては、蓄電システムの信頼性に加え、10年という長寿命の実現が大きな課題となった。実際に10年間充放電を繰り返して性能を確認するわけにはいかないため、日立研究所が寿命を予測するシミュレータの開発に着手した。また、この蓄電システムの要となるパワーコンディショナーの改良は日立の大みか事業所が行い、さらに日立化成とそのグループ会社の新神戸電機が蓄電池セルの改良を図るなど、日立グループの総力が結集され、ワンパッケージの1MW(メガワット)コンテナ型蓄電システムが完成した。
さらに、いっそうのシステムの長寿命化やコンパクト化に向けて検討を進める一方、アメリカの電力調整市場に貢献する蓄電システムとして普及に取り組んでいく予定である。
注:「CrystEna」は日立グループの蓄電システムソリューション全体のブランド、登録商標です。日立グループの技術の結晶(Crystal)とエネルギー(Energy)を組み合わせて名づけられています。
コンテナの中には、1MW、450kWhの蓄電池、パワーコンディショナー、制御装置などを実装
今後の展開は、電力調整市場が存在するアメリカだけを視野に入れているわけではない。再生可能エネルギーの大量導入が見込まれる日本国内での系統安定化はもとより、離島のような小規模の電力システムの需給調整、ピークシフトへの活用など、蓄電ソリューションは大きな可能性を秘めている。日立は、コンテナ型蓄電システムを始めとして、さまざまなラインアップのソリューションを通じて、世界の人々が安心して暮らしていくために欠かせない安定した電力供給に寄与していく。
公開日: 2015年2月
ソリューション担当: 日立製作所 エネルギーソリューションビジネスユニット