ページの本文へ

Hitachi

社会イノベーション

いよいよ始まる「市民参加型」の街づくり
市民の“主体性”を引き出すにはデータの有効活用がカギ

「街」というものは時が過ぎ、やがて住む人が変わると、求められることが変化していきます。さらに、人々が豊かになると、ライフスタイルも多様化します。このような社会の変化に対応した、「街づくり」における考え方や施策には、大きなイノベーションが必要になります。経済性や効率性だけを追求するのではなく、街に住む一人ひとりが、自由にライフスタイルを選択しながら、快適さ、便利さ、豊かさ、健康といった、幸福だと感じるさまざまな価値を享受できる――このような社会を実現するための手段として、「市民参加型」の街づくりが大きな注目を集めています。

詳しくはこちら→「幸福学から紐解く、これからの街づくりに必要な2つのヒント

市民参加型の街づくりとは

近年、企業の枠を超えたコラボレーションが多く見られるようになりました。これは、競争環境が厳しさを増す中、自社のリソースのみで、大きな課題を解決したり新たな顧客の価値を生み出したりするイノベーションを起こすことが困難になりつつあり、世界中に広がるリソースを活用する「オープンイノベーション」という考え方や施策が広がっているからです。

このところ、欧州を中心に「オープンイノベーション2.0」というキーワードが広がっています。従来のオープンイノベーションから一段進化して、顧客や地域住民といったユーザーを含む多数のステークホルダーを巻き込んでイノベーションを起こそうという考え方です。ユーザーの視点やニーズをもとに社会課題を設定し、複数の企業やコミュニティによって社会的な共通課題を解決していきます。ユーザー自らが積極的に意見やアイデアを出すことによって、いっそうイノベーションが推進されます。

この取り組みは、これからの街づくりに必要なアプローチとして大きなヒントになります。例えば、地域の活性化などを目的に、新たな街づくりに取り組む事例は多くあります。例えば、まず行政主導で始まり、実際に観光収入が増加したり労働人口の数が増えたりといった成果を上げている自治体があります。行政がめざす成果に加え、そこで生活する市民の幸せにもつながれば、新たな街づくりの取り組みが進んだといえるはずです。そのために、オープンイノベーション2.0の取り組みに、街の主体であるべき市民が自ら参加し、小さなことでも街の課題や要望を伝えることが、より住みやすく、幸福な街の実現につながっていくのです。

市民の想いをデータで見える化する

街づくりの現場に、自治体、大学、企業、市民など多くの人たちが参加しているのが、愛媛県松山市です。

2016年、日立は東京大学とともに超スマート社会に向けた共同研究の場である「日立東大ラボ」を設立しました。ここでは、日立が長年培ってきたインフラ技術やITと、東京大学の先端研究を融合し、社会課題の解決と人々のQoL向上を両立する社会の実現に向け研究を進めています。松山市では、日立東大ラボが進める「ハビタット・イノベーション」プロジェクトの実証の場という位置づけで、新たな街づくりをめざした共同研究が行われています。

松山市は、「笑顔広がる人と街〜幸せ実感都市 まつやま〜」をキャッチフレーズに、2013年度から10年間進めている第6次松山市総合計画においても、街の活性化に力を入れています。その中の一つの施策に、「みんなで歩いて暮らせるまちづくり」が設定されており、街路整備に積極的に取り組んでいます。その施策において、快適・健康な市民生活の実現と、道後温泉に観光で訪れた客の回遊行動の促進のため、松山城ロープウェイ街と松山市駅前の花園町の歩行者空間整備を進めてきました。

「ハビタット・イノベーション」プロジェクトでは、同市の街路整備をさらに進めるべく、人流計測や交通量、購買行動といった異分野のデータを活用しています。計測したデータから課題や解決案を抽出する「データ駆動型都市プランニング」のコンセプトのもと、市民の行動データをベースにした都市計画の立案を指向しています。従来、都市計画においてはいくつもの課題が複雑に関連し合っているため、有効な解決策を導き出すのが難しく、検証にも膨大な時間やコストがかかるという問題がありました。


「Cyber-PoC」画面イメージ

そこで、日立の持つ独自の手法とツールが効果を発揮しました。
複雑な課題の解決や新しいサービスを考える際、関与する多くのステークホルダーの収益性、実現性を加味して、受容性のある事業を企画する必要があり、その過程は複雑です。日立では、お客さまやパートナーといったステークホルダーのさまざまな知見を多角的に見える化し、協創を円滑に行うための手法、ITツール、空間を顧客協創方法論「NEXPERIENCE」として体系化しています。その中で重要な役割を持つツールが、日立が開発したサービス事業シミュレータ「Cyber-Proof of Concept (Cyber-PoC)」です。

各種インフラや施設など、新しいサービスを街に導入した場合の効果を、市民が提供するデータをもとに、さまざまなパラメータを変更しながらシミュレーションしていきます。街の地図データ上で誰もが直感的にイメージできる形でビジュアル化するのが「Cyber-PoC」の特徴です。専門知識がない人でも都市計画のアイデアとイメージを共有できるため、市民の間で街づくりの議論を深めるのに一役買っています。


「Cyber-PoC」を使ったディスカッション風景

「Cyber-PoC」によるシミュレーションの結果、松山市では移動式の交通手段を増やしたり、レンタサイクルのステーションや駐車場を増やしたりすることで、観光客の移動範囲が広がり、街の混雑も緩和されることがわかりました。公園や託児所などの施設を建てたり、地域のイベントを開催したりすることも、より市民のニーズに沿って実現されていくでしょう。市民にとっては、自分たちの声が街づくりに反映されている実感を持つことができ、さらに積極的に街づくりに参加するというサイクルが生まれます。市民の"主体性"を引き出し、街づくりへの参加を促す。そこに住む地域住民が中心となって起こすイノベーションのきっかけを、日立は提供できました。

海外でもデータを活用した都市計画の事例はいくつか見られますが、その中でも松山市のように、市民のニーズや課題を起点に、自治体や大学、企業が一丸となりイノベーションを起こそうとする街づくりは、先進的な事例だといえるでしょう。

市民が楽しみながら省エネを実現する

「公・民・学」で一体になった街づくりを推進しているもう一つの事例が、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」です。同市ではもともと「まち全体のCO2排出量を減らして地球環境保護に貢献する」「中国や東南アジアなどの新興国にも展開できるような先進モデルを構築する」といった理想のシナリオのもとで、スマートシティプロジェクトが計画されていました。

そんな折に発生したのが、2011年の東日本大震災です。柏の葉スマートシティでも断水や停電が発生し、住民からの「声」により、理想と現実を浮き彫りにする具体的な問題が指摘されました。これを受けて、「公・民・学」の中の「民」として参画している日立は、柏の葉スマートシティの住民のひとりとなっていた社員も積極的に関わって、対策を検討していきました。

その結果、柏の葉スマートシティでは、日立が三井不動産および日建設計と共同開発したシステム「柏の葉AEMS (エリア・エネルギー・マネジメント・システム) 」により、従来の規制をクリアして、初めて街区を越えてオフィス・商業施設や一般住宅と、太陽光発電や蓄電池などの電源設備をネットワークでつなぐことに成功。街が一体となって、エネルギー利用の最適化を進めています。地域全体で効率的な発電・蓄電・電力融通のコントロールが行えるため、災害時でも安定したエネルギー供給が可能になり、平常時の省エネや電力料金削減にもつながっています。

この取り組みのポイントは、地域コミュニティと密接に連携していることです。住人は、柏の葉AEMSと連携するシステム「柏の葉HEMS (ホーム・エネルギー・マネジメント・システム) 」により、スマートフォンやパソコンなどから自宅の電気使用量やCO2排出量をチェックできるほか、他世帯や街全体と数字を比較することもできます。また、同システムから、快適さを損なわずに省エネを実現する具体的なアドバイスを受けることも可能です。このように、「エネルギーの見える化」を通じて、省エネに対する住民の参加意識を高めながら、環境にやさしい暮らしを提案しています。

さらに、省エネに成功すれば、C02排出量の削減分に応じて、地域のイベント参加や買い物などに使えるインセンティブがもらえるという特典もあります。このように、住人が楽しみながら主体的に省エネ活動に取り組めるようになっているのです。


「柏の葉スマートシティ」全景

市民を「巻き込む」しくみづくり

以上の事例では、いずれも市民の"主体性"を引き出し、街づくりに積極的に参加できるしくみが作られていることが特徴といえます。市民にとっては、自分たちの声が街づくりに反映されているという実感を持つことができるため、ますます参加することに前向きになるでしょう。その結果、街の魅力がさらに向上し、新たな価値が創出されるという好循環が生まれます。

街づくりにおいて重要なのは、経済性や効率性を求めることだけではありません。日立は人間中心で、将来に向かって価値が高まる街づくりのために、住む人の価値観に合わせて都市の機能を変化させ,住めば住むほど街の魅力が高められるようなインフラを提供していきたいと考えています。そのためには、産学官民協創の推進、データ基盤プラットフォームの構築、アプリケーションの開発など、街づくりが活性化するための取り組み「協創」が必要であり、これからもさまざまな活動をステークホルダーの皆さまと推進していきます。